第10話 新たに目覚めた日
ごく自然な動作でケビンは目を開けた。
ベッドから上体を起こして周囲を見回す。
そこは簡素な部屋だった。
椅子に腰かけたシエンがケビンを凝視している。
はち切れそうな興味関心を隠そうともしない視線だった。
「気分はどうだね。何か異常は感じるかな。遠慮なく言いたまえ」
「えっ、なんで……俺は…………」
呆然とするケビンは、自分の身体を見下ろす。
傷一つない清潔な肉体だった。
肌の色艶は普段より良く、慢性的に感じていた疲労や飢えもなかった。
まるで別人に生まれ変わったようだとケビンは思った。
部屋の扉が開き、使用人ソキが現れた。
彼女は大股歩きでケビンに近付くと、いきなりティーカップを押し付けた。
「まずは飲みなさい。あなたにはご主人様の質問に答える義務があります」
「何だよこれ! すごい臭いがするんだけどっ!?」
「いいから早く飲みなさい」
ソキがケビンの顎を掴み、中身の液体を無理やり流し込む。
端正な容姿からは想像もできない荒業だった。
ケビンは喚きながら抵抗するも、一向に抜け出すことができない。
溺れるケビンを眺めながら、シエンは悠長に解説する。
「その紅茶はどこかの国の特産らしいのだがね。味が独特すぎて消費できなかったのだよ。君が気に入ってくれてよかった」
「は? 不味くてこれ以上は」
「ご主人様の厚意です。一滴残さず飲み干しなさい」
結局、ケビンは何杯もの紅茶を飲まされる羽目になった。
膨れた腹を押さえつつ、ケビンは本題となる疑問に触れる。
「俺は魔族に殺された。なぜ生きている」
「いや、死んだよ。君は間違いなく致命傷を受けた。あの状態から魔術で治療するのは不可能だ」
「でもこうして生きてるだろ。説明がつかない」
ケビンは自らの身体を示して主張する。
対するシエンは軽薄な微笑を浮かべてみせた。
「君は無価値な奴隷だった。そんな人間を僕が治療すると思うかね」
「利益があれば治すはず……たとえば新薬の実験体にするとか」
「悪くない推察だね。及第点をあげよう」
そう言ってシエンが手を鳴らす。
即座にソキが動き出して、部屋の外から姿見を運び込んできた。
軽々と運搬を完了したソキは、それをケビンの前に置く。
「あまり話を長引かせるのもつまらないからね。結論から伝えさせてもらうよ」
シエンに促されたケビンは、姿見に映る自分自身と対峙する。
そこには呆けた顔をした銀髪の青年がいた。
ケビンは反射的にソキの髪を注視する。
彼と同じく澄んだ銀色だった。
頃合いを見計らってシエンは真実を告げる。
「おめでとう。君は人造勇者になった」




