第1話 死は巡り糧となる
剣士ライアンは必死に戦う。
未熟な技は魔物に歯が立たず、傷だらけの円盾は壊れる寸前だった。
やがて魔族の爪が胸部を引き裂き、ライアンは血反吐を噴きながら死んだ。
炎の魔術師アナは早口で詠唱を紡ぐ。
巻き上がった火炎が魔族を焼き焦がすも、圧倒的な戦力差の前には微々たる成果だった。
燃える巨人の体当たりを受けて、アナは全身の骨が砕けて死んだ。
斧使いの傭兵キーンは豪快に突き進む。
自慢の怪力は魔族の軍勢すらも真っ二つにしてみせる。
そのまま戦局を覆すかと思いきや、大蛇に呑まれてキーンは死んだ。
弓の名手スルォンは森の木々に隠れていた。
枝葉の隙間を静かに見据え、遥か遠くの魔族を矢で射抜く。
四十二体目の魔族に狙いを定めた時、背後から毒蜘蛛に噛まれてスルォンは死んだ。
犯罪奴隷ルドルスは鍛え上げた肉体で魔族を殴り殺す。
身体強化の練度は高く、無慈悲な打撃で堅実に生き足掻く。
調子付いて格上の魔族に挑んだ結果、生きたまま脳を食われてルドルスは死んだ。
聖典騎士サブナクは最前線で指揮を取っていた。
絶体絶命の中、一体でも多くの魔族を殺し、一人でも多くの味方を生かそうと尽力した。
最期は撤退の殿を務めて、錆びた鉈で首を叩き斬られてサブナクは死んだ。
世界中で人間が死んでいく。
魔族に殺されて死んでいく。
それでも彼らは諦めない。
想いを託し、希望を託し、命を託して進もうとする。
彼らは信じている。
人造勇者が魔王を倒すことを。