Welcome to CursedMansion
ダニエルと弟のジョージの二人はゴーストハンターとして使命を受け、世界有数の呪われた屋敷と名高いCursed Mansionという心霊スポットにに訪れていた。
「準備は出来たかジョージ!」
「兄貴…やっぱり行くの辞めない?」
「あーもうこれだから自分のケツすら拭けないようなガキは連れて行きたくなかったんだ。
もう目の前にはあの呪われた屋敷があるんだ、今逃げ出す訳には行かないだろ」
「…分かった。兄貴がそういうつもりなら僕もついていくよ」
いよいよ扉を開けて一歩進む。中はほんのりと灯りが灯っていたばかりでほとんど真っ暗な状態だった。
「こんなことだろうと思ってペンライトを持ってきてて正解だったな」
「さすが、兄貴だね!で僕の分は?」
「何言ってるんだ?俺が先頭を行くんだからお前はしっかり俺に着いてくるしペンライトなんか要らないだろ」
「…ええーそんな」
ジョージの声色が明らかに不満気になる。
「それにしてもここはどの辺りだろうな」
「…普通に考えて廊下じゃない」
すると一歩ずつ暗闇の中を静かに進む二人の先から何かの動物の鳴き声が徐々に近づいてくる。
鳴き声の正体に気付いたダニエルはジョージへ叫んだ。
「伏せろ!ジョージ!」
そう言い放った直後、コウモリの大群が俺たちの頭上を通り過ぎる。
「危なかったな」
怪我をしていないか確かめるためにジョージの方を振り返ると口を金魚のようにパクパクさせて前方を指差していた。
「兄貴!何かいるよお!」
そう言われ前を見ると一匹の大きなコウモリがただならぬ雰囲気を醸し出しながら立ち尽くしていた。だがコウモリとは多少違っていることに気付き目を凝らすと目の前の巨大コウモリがスーツを身にまとっているのが分かりハッとする。
「ジョージ!あれはコウモリじゃない、ドラキュラだ!」
こちらが正体に気付くと暗闇からでも分かるほどにギラついた白い牙を見せこちらに勢いよく向かってくる。
ダニエルはそれを見てニヤッと笑いを浮かべると予め持ってきた十字架のアクセサリーを前に掲げて思いきり叫んだ。
「喰らえ!これはあんたの嫌ってる十字架だ!」
するとドラキュラは慌てふためき物凄い速さでどこかへと消え去っていった。
「どうよ!俺の十字架攻撃は!」
「それって…兄貴より十字架の方が凄いよね」
「何だよ!そういうジョージはビビって俺の後ろに隠れっぱなしだったくせに」
ダニエルは呆れて肩をすくめた。
「そうよ、君は間違ってないわね」
「やっぱり分かってくれるか、そうだよな。って、ん?」
後ろから聞こえた女性の声に意気揚々と返事を返したが二人の他に同行者がいないことに気付いたダニエルは声のした方向を振り返った。
するとそこには大きなハサミを持ってピンクのワンピースに身を包んだ目無しの少女が大きな口を開けてケタケタと高笑いをしている。
「うわああ!」
ジョージは少女を見るや大きな声を上げて尻もちを着いてしまう。ダニエルも一瞬驚くがすぐに立て直しとりあえず手元にある十字架が有効か確かめるために掲げてみる。
しかし少女は首を傾げるばかりで十字架が効いている様子は全く無い。
「仕方ない、こうなったら」
そう言うと後ろに背負ったリュックを降ろして中から近未来感溢れる銃を取り出した。
「これが俺の秘密兵器、シャイニングバスターさ!」
「え、ださ」
異様な存在を放つ秘密兵器に不相応な名前を聞いたハサミ少女が一瞬で真顔に戻ると心無い言葉を掛けられる。
「ふっ、化け物にはこの良さが分かるはずないよな」
「知らないわよ、そんなの」
ハサミ少女が持っていたそのハサミを引きずりながらこちらに歩み寄ってくるのを見てダニエルは自慢の銃を対抗するように身構えると少女に向けて発射した。
銃声が鳴り止み発射と同時に思わず閉じてしまった瞼を上げると僅かな灯りの中ハサミ少女が悲鳴を上げ悶ているのが分かった。
「やりやがったなー!でも次のあいつはお前らでも絶対ビビるからなー」
そう捨て台詞を吐くとドラキュラ同様どこかへと走り去っていった。
「どうよこの俺の銃さばき!」
ジョージへの心配を余所にまずは自身の銃の腕を自慢しにいくが、肝心のジョージは先程から一歩も動けていないことに気付き声を掛ける。
「って大丈夫か、ジョージ!」
「兄貴、待って」
「どうした、やつらに何かされたか?」
「いや、それが立ち上がれなくなっちゃった」
その言葉を聞くとダニエルは困惑した表情を見せた。
「それって腰が抜けただけじゃねーか!」
「兄ちゃ…兄貴も手を貸してよー」
「ここで立ち止まっててもどうしようもないし、ほら」
そう言ってダニエルは弟の為に手を差し伸べる。ジョージもそれに応えるため手を伸ばすが徐々にたじろいで手が震えていった。ダニエルも異様な様子に気付き声を掛ける。
「どうした?俺は別に化け物じゃねーぞ」
「い…いや…後ろ」
震えた声で後ろと言っているのが聞こえ咄嗟に振り返る。するとそこには巨大な髪の長い女性が首を斜めにしてこちらを覗き込むように立っていた。
「う、う、うわああ」
ジョージは遂に堪えきれなくなると叫び声を上げて腰が抜けたことも忘れたように飛び上がると奥まで走り出していってしまった。
ジョージを一人にする訳にもいかず、髪の長い女に背を向けてダニエルもジョージの後を追いかけた。
「ちょっと!落ち着けよジョージ!」
「もうこんなばっかでヤダァー!」
ジョージの後に続き、長い道を走っていくと少し先に光が見え、一目散にその方へと走っていく。やがて周りが一気に明るくなると外に出てしまったことに気付いた。
全く満足していないダニエルは中に戻ろうとすると、服を後ろから思い切り引っ張られ振り返る。するとそこに馴染みの顔が見え面食らってしまう。
「何でいんの!ママぁ!」
そこにいたのは顔を赤らめ眉に皺を寄せた二人の母親であった。弟のダニエルは既に母親にしがみついて泣きじゃくっていた。
「どっか行ったと思えばおばけ屋敷にいたのね!全く!ってそれ何で持ってきてるのよ!」
ダニエルは持っていた秘密兵器ことおもちゃの銃を指摘される。
「だ、だって化け物たちを倒さなきゃいけないし…」
「何よ!化け物ってここにいるのは全員キャストの皆さんじゃないの」
「…そうだけど雰囲気作りっていうか」
「あーもうごちゃごちゃ言ってないでもう行くよ!」
そう言ってジョージと手を繋いだままさっさと歩き出していってしまう。ダニエルも後に続こうと一歩進むが視線を感じて振り返る。
『Welcome to Cursed Mansion』
そう書かれたおどろおどろしい装飾の看板が建物の上に見えた。
ふと自分たちの出てきた出口に何かが見えそちらを見つめる。先程見た髪の長い女が青白い顔を出しダニエルをじっと見つめていた。途端に背中に悪寒が走ったダニエルは母親の背中を夢中で追いかけるのだった。