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君の事なんて  作者:
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それぞれの幸せの形

 2年後……。




「ねぇ、タク、これ、あっちに持って行く荷物ーー」


 たくさんの段ボールが積まれて行く。



「これ、中身何か書いてないよ? いいの?」



「あ! 忘れてた!! 『食器、割れ物】って書いてーー」



「【食器、割れ物】ね……。 萌、大丈夫? これ、3回目だよ」


 私たちは引っ越しの準備をしていた。

 私たちは来週結婚する。

 順調に付き合う事を続け、結婚を決めた。

 お互いの呼び方も、タクと萌に変わった。

 新居はお互いの会社の真ん中辺りの賃貸マンション。

 子どもができたら戸建てか分譲マンションを考える事にしている。


 明日引越し業者が来る事になっていて、タクと一緒に荷造り作業をしている。

 このアパートで暮らすのも今日が最後。

 タクの引っ越しは週末なのでタクの部屋へ泊まればいいけれど、あえて自分の暮らした部屋で最後の夜を過ごす事にした。


「萌、今日の夜ごはんと明日の朝ごはん、買ってこようかーー?」


 そっか……。

 作れないんだった……。



「あ、そうだね! 買わなきゃいけないんだ! 私も一緒に行く!」


 いつものスーパーへ向かう。

 このスーパーでタクと再会したんだった……。



「このスーパーでまた会ってなければ、何も始まってなかったのかも知れないねーー。 タク、よく私を見つけたねーー!」



「だって、萌、変わってなかったから。 すぐわかったよ。 案外近くに住んでる事は知らなかったね」



「ほんとだねーー。 彼になってくれたのがタクで、結婚してくれるのもタクでよかった! 見つけてくれてありがとう」



「なんだそりゃ!」


 思い出のスーパーに来るのも今日で最後かな……。

 生活圏が全く違うからなかなか来る事もなくなるだろうな……。


 買い物をしてアパートまでを2人で歩く。

 付き合うまでにいろいろあったけど、そのいろいろも今は思い出になっている。

 はっちゃんとも変わらず仲良くしている。

 はっちゃんは金子さんの飲み会の時に会った吉岡さんとよく遊んでいるみたいだった。

 付き合ってるのかなと思って聞いてみるものの、そんなんじゃないよーー、とはぐらかされた。


 金子さんとも最後に会って以来、会っていない。

 はっちゃんの話だと去年、2人目が生まれたらしく、家族も増え幸せに暮らしているみたいだった。



「式か終わってから、二週間後に黒木の結婚式でしょ? その後、新婚旅行でしょ? 何かバタバタするねーー」


 黒木さんは付き合っていた彼女と私たちの二週間後に結婚式を挙げる。


 みんなそれぞれの道へ歩いて行く。

 あの時、悲しかった事、辛かった事、いろんな思いをいろんな人が持っていたけれど、今という現実はみんな笑っている。


 あの時、諦めないでよかった。

 あの時、信じてよかった。



 結婚式の日はお天気にも恵まれた。

 ライスシャワー、フラワーシャワーの中、大切な人たちに挨拶をして行く。

 家族、親戚の人たち、友達、会社の人、バスケのメンバー、橋田さん……みんなが集まってくれた。

 私とタクを取り囲みいろんな人が話しにやってくる。

 私はふと父を見るとはっちゃんと話しているのが見えた。

 見た感じ、2人とも和やかに話している様な見えた。

 私は気になりつつも集まってくれる人たちと話をする事に忙しく、2人をじっくり見る事ができなかった。


 久しぶりに会ったおばあちゃん。

 おばあちゃんはタクに話しかけた。


「タク、萌を頼むね。 この子、結婚しないのかと思ってたの……。 タクがもらってくれてよかったよ。 ありがとう」


 そう言われたタクは笑っていた。


 一度は断ったタクからの告白。

 再会した時、私はタクの事をよく覚えていなかった。

 男の人に不信感を抱いていたあの時、タクに会っていなければその不信感は取り除けなかっただろう。

 タクと再会していろんな事が変わった。

 タクは私を幸せにしてくれる人。

 本当に出会えてよかった。



 式も無事に終わり、着替えて外に出るまでロビーに父が残っていた。

 父は今日一日とても楽しそうで、来てくれた人たちに声をかけ、挨拶に回ってくれていた。


「お父さん、疲れたでしょ? みんなと話してくれてありがとうね!」



「萌の結婚式だよ。 当たり前だよ。 今日はお母さんも連れて来たんだよ!」


 そう言って内ポケットから母の写真を出しみせてくれた。


 お母さんも見てくれてたのかな……。



「そうだ! はっちゃんと話してたね」


 私は気になっている事を聞いてみた。



「大きくなったね、という事と、あの時、あなた達を何とかしようと思ってたんだけど、結局傷付けてしまったのかも知れないね……、ごめんね……という事は伝えた。 あ、あと、萌と変わらず仲良くしてやって欲しいってお願いしたよ」



「はっちゃんは何て?」



「もう過ぎた事です、気にしないで下さいね、って言われた。 こちらこそ、すみませんでした。 萌の事も大丈夫ですから心配しないで下さいね、って言ってくれたよ」


 そっか……。

 そんな話してたんだね……。


 みんな笑って過ごせる日々になっている。

 各々の幸せへ向かって進んでる。


 私にはタクがいる。


 ある日の小学校の体育館。

 タクは小学生に剣道を教えていた。

 今日はタクが終わる頃まで一人でプラっとお買い物をしたりカフェでゆっくりしたりして時間を潰し、練習が終わる少し前に体育館へ行った。

 タクの剣道をする姿が、子どもたちと笑って話すのが好きで少しその光景を見る時間を作るのだ。


「タク、萌、来てるよ!」


 私を見つけた小学生がそう言った。



「俺の奥さんを呼び捨てにするな! 萌ちゃんにしてよ」



「いいじゃん、萌で! ねぇ? 萌ーー!」


 そう言って手を振って来た。


 タクとはしゃぐ子どもたち。

 見るだけで幸せになる。



 タクとの時間が好き。

 穏やかな優しい時間が好き。

 私らしく飾らずにいれる。

 自分を好きになれる。



 タクの周りには幸せがいっぱい。

 この人ならいつもどんな時も笑って過ごせる。

 明るい未来しか想像できない。


 男の人なんて信用してなかった。

 あなたの事なんて……。

 タクの事もそう思っていた。


 そんな事を思っていた私の心を取っ払うくらい優しい風を運んでくれた。


 あなたに会えてよかった。

 これからはタクと一緒に笑っていく。


 あなたの事なんて……大好きに決まってる。

たくさん作品がある中からお読み頂きありがとうございました。

またお会いできたら幸いです。

ありがとうございました。

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