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君の事なんて  作者:
63/65

愛しい人

 以前歩いた柏木さんのアパートまでの道。

 前に歩いた時は、金子さんが一緒だった……。

 一緒に帰りたくない私と、私と一緒にいたい金子さん……。

 あの時はどうしたら一緒に帰る事を阻止できるんだろう……と焦っていた……。

 そんな時に、救世主の様に現れたのが柏木さんだった。

 その柏木さんと奇跡的に会ったコンビニが見えて来た……。

 この道をもう少し行けば柏木さんのアパートにたどり着く。

 コンビニで買い物して行こうと立ち寄った時、スマホが鳴った。



「萌ちゃん、今どこ?」


 心配した柏木さんだった。



「今、柏木さんの家の近くのコンビニ。 買い物してから行くね。 何が欲しいものある?」



「特にないよ。 コンビニにいるの?」



「今からお会計。 あと10分くらいで着くと思うよ」


 そう言って電話を切りお会計を済ませて柏木さんのアパートへと急いだ。

 アパートへの道は電灯がポツリポツリと立っていて人の行き来が案外よくわかる。

 前から声をかけられた。



「萌ちゃん!」


 柏木さんだった。



「家で待っててって言ったのに……」



「だって、夜道に一人で危ないでしょ? 何買ったの?」


 そう言って袋の中を覗きこんだ。



「アイス! 一緒に食べよう」



「あ、食べたい! じゃあ、帰ろっか!」


 一人でアパートまで行けたのに……。

 やっぱり優しいなぁ……。

 悔しさもありながら幸せを感じながら歩いた。





「どうぞ!」


 初めて入る柏木さんの部屋。



「綺麗にしてるねーー」


 ちゃんと整頓されていた。

 男の人でもちゃんとしてる方なんじゃないかな……。



「いつか萌ちゃんが来ると思って最近片付けた……。 だからだよ」


 また私を思ってしてくれた……。


 リビングで一緒にアイスを食べながら、父と話した事、はっちゃんと話した事を話した。

 父を誤解していた事、母の話、はっちゃんのお母さんの話……、そしてはっちゃんとの話……。

 柏木さんは最後まで何も言わずに聞いてくれた。



「萌ちゃん、お父さんに会って来たんだ。 一緒に行かなくて大丈夫だったんだね。 お父さんと話せてよかったね、誤解も解けたし……。 市原さんとの事も元に戻りそうでよかったね」



「私、ちゃんと言ってきた。 柏木さんを失いたくないって。 柏木さんと付き合う事もちゃんと伝えてわかってもらってきた……」



「萌ちゃん……、さっきからずっと話してるからアイス、溶けちゃってるよ……」



「……あ、ほんとだ……。 けどね、ほんとにね、柏木さんは大切で、こんなに居心地のいい私が飾らずにいられる人は初めてなの……。 ほんとに好きです……」



「改まって? 俺、待ってた甲斐あったよね。 ありがとう。 俺も萌ちゃんが大好きです!」


 優しいハグをしてくれた。



「居心地いいんでしょ? 今日泊まって行く?」


 そう言われ、一気に意識してしまった。



「え! ……今日? ……今日はやめとく……」



「何で?」



「……今日、何も用意してないし……。 あ、そうだ……! この前、黒木さんと何か言い合ってなかった?」


 私は話をそらした。



「あーー、あれ? あれ、萌ちゃんの事。 何で一緒にいたか問い詰めた。 萌ちゃんも知ってるんでしょ? あいつの気持ち」



「……あーー、うん……。 けど、直接聞いた訳じゃないから……。 断るのもおかしいでしょ……? どうする事もできないなぁと思ってて……」



「あいつも諦めると思うよ。 萌ちゃん、もう俺の彼女だし……。 萌ちゃんはいつも通りにいてやればいいんじゃない? で、今、話、そらしたよね……」



「……あ、バレた……?」



「バレるでしょ……。 じゃあ明日!」



「明日……? 明日仕事だよ?」



「仕事終わったら家で待ってて。 仕事帰りに迎えに行くから。 ずっと一緒にいたいんだ」


 愛されるという事がこんなにも恥ずかしく嬉しいものなのか……。


 柏木さんは私の手を取り、リングを見つけた。


「初めて見る指輪。 かわいいね。 どうしたの?」



「これ、父が母にプレゼントしたリングで、母がデートの時、いつもつけてたんだって。 この前、父からもらったの……」



「そうだったんだーー。 大事にしなきゃね!」


 リングにも気付いてくれた。

 些細な変化も見つけてくれる。

 この人に会えてよかったと心から思った。

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