大切な人
私ははっちゃんに自分の気持ちを伝えたいと思った。
「はっちゃん、父はね、ほんとに何とかしてあげたかったみたいだったよ。 父は優しい人だったから、自分ができるまでの事はしてあげたかったんじゃないのかな……。 父の事をわかって欲しいとは言わない。 ただ、少しだけ父がはっちゃんの両親を元に戻そうとしていた事を知ってもらえたらいいなと思う……。 母が死んで、父は変わってしまったけど、それも母の為って事が今回父と話してわかったんだ……。 はっちゃんとの事がなかったら私はずっと父を誤解したままだったと思う……。 そういう意味でははっちゃんに背中を押してもらったのかな……と思うよ……」
母がなぜ死んだかまでは話さなくていいと思った。
はっちゃんははっちゃんのお母さんがした具体的な事は知らない。
それが引き金になったなんて知ってしまったら、今度ははっちゃんが壊れてしまいそうで……。
知らないで済む事は知らないままでいい……。
「それとね、柏木さんの事……、ごめん……。 はっちゃんが気になってるんだろうなぁってわかってたんだけど、惹かれてしまった……。 はっちゃんとうまくいってる……って聞かされた時は諦めようと思った。 私の入る隙はないし、二人が幸せならそれもいいかな……って。 けど、苦しくて仕方なかった。 どれだけ柏木さんの事が好きなのかを思い知らされた……。 付き合う事になってしまってごめん……。 けど、はっちゃんといろんな事をよく話してからちゃんと付き合おうと思ってる……。 私にとって柏木さんは大事な人だけど、はっちゃんも大事な人だから……」
私は今まで言えなかった気持ちを伝えた。
はっちゃんは私の話を涙ながらに静かに聞いてくれた。
しばらくしてはっちゃんが話し出した。
「萌ちゃんが柏木さんに惹かれてるんだろうなっていうのはすぐわかった。 いつもの感じと違うから。 それはやっぱり長い間付き合ってきたからわかる。 柏木さんとの初めての飲み会の時、柏木さんは萌ちゃんの事を『萌ちゃん』と呼んでいて、二人の距離が縮んでいる事がわかって、私もちょうど気になってたから焦ったんだ……。 金子さんや黒木さんに何とか萌ちゃんにはなびいて欲しくて……。 けど、そうやってなびいて欲しいが故に自分がやってる事に虚しさも気持ちの悪さも感じていてどうしたらいいかわからなくなっていたの。 萌ちゃんを憎め切れたらどんなに楽か……。 けど、やっぱり憎み切れなかった……」
「もう泣かないで……」
私は泣きじゃくるはっちゃんに言葉をかけた。
「はっちゃん、ごめんね……。 私、欲張りなんだよ……。 はっちゃんも柏木さんも失いたくないんだ……。 はっちゃんが泣いているのは見てて悲しくなる……。 私ははっちゃんも大切なんだ……。 ごめん……。 こんな私だけど変わらず友達でいて欲しい……。 図々しいかも知れないけれど、私ははっちゃんと変わらずにいたいんだ……。 だから今日はとことん話さない? はっちゃんの気持ちも知りたいの……」
私とはっちゃんの関係を修復するべく、いい時間になればいいな……。




