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君の事なんて  作者:
60/65

いつものカフェ

 目の前にはっちゃんが座った。

 この間話した時とは雰囲気も変わっていて、いつものはっちゃんに近い様に感じた。

 私は緊張しながらもはっちゃんに話しかけた。



「はっちゃん、時間作ってくれてありがとうね。 父に会って話してきた。 はっちゃんは父の事をいつから知っていたの?」



「3年くらい前かな……。 母に聞いたの……。 お父さんから永井さんの娘さんが私と同じところに就職したって聞いたって。 萌ちゃんだってすぐわかったよ……」


 はっちゃんの両親は離婚していて、はっちゃんはお母さんと暮らしていた。


「萌ちゃんは、うちの両親が何で別れたか知ってる? 何でだと思う?」



「……え……? わからない……」



「別れたのはね、その萌ちゃんのお父さんと出会ったせいでもあるんだよ」


 父が……?

 はっちゃんは話を続けた。



「萌ちゃんのお父さんと出会った時、うちの両親はうまくいってなかったみたいで、お父さんの同僚だった萌ちゃんのお父さんが何とか修復してもらおうと、母の話を聞いてくれたり、お父さんの会社での様子だったりを教えてくれたりしてたらしくて……。 その時の母は、父の気持ちを自分に戻そうと必死だったみたいなんだけど……、その中で萌ちゃんのお父さんは母と萌ちゃんのお母さんと繋がりを持たそうとした。 同じ境遇同士、話もわかる事があるんじゃないか、話してると気晴らしになるんじゃないか、そんな気持ちも萌ちゃんのお父さんにはあったんだろうね……。 けど、母はそうは思えなかった」


 父は母にこの事を隠しながらも、母ならその話を聞き、理解し、話を聞ける様な間柄になってくれるだろうと思っていたのかな……。


「同じ境遇の萌ちゃんのお母さんだからそこ、自分と比べてしまって比較の対象なのにそんな人と一緒に居たらというのか……と、そう言われる度いい気分がしなかったって言ってた……。 そして、萌ちゃんのお母さんが死んだ……。 父は萌ちゃんのお父さんからこれまでの話を聞いて母と離婚した……。 私が大きくなってから父から母の行動に理解できなかった事が離婚の理由って聞いたんだ……」


「母が何をしたのかはよく知らないけど、萌ちゃんのお父さんは母の気持ちを察する事ができなかった。 良かれと思ってしてくれていた事だとは思うけど……。 それさえなければ……、だから【無神経】って言ったんだよ……」


 はっちゃんはぽろぽろと大きな涙を流し始めた……。


「でもね……、私も母も嫉妬なんだよ……、結局……。 私はそれがわかってた……。 でも止められなかった……。 萌ちゃんとさ、友達続けてきたのにさ、憎む事しかできなかった……。 萌ちゃんが辛そうにしてるのを見る事で優越感に浸ってたんだよ……。 最低だとわかっていてもやめられなかった……」


 まさか、はっちゃんからそんな事を話してもらえるとは思っていなかった私は黙ってはっちゃんを見つめる事しかできなかった。

 涙でいっぱいのはっちゃんに私は持っていたハンカチを差し出した。


 私ははっちゃんが落ち着くのを待ち、これまでの事を思い返した。

 私も言えなかった事もある……。

 柏木さんに惹かれてしまった事をちゃんと話していれば……。

 はっちゃんも好きなんだろうなと思って言わない選択をしたとしても、自分は身を引く選択をできただろうか……。

 男の人に不信感を持っていた私がそれを取っ払う程一緒にいる事に居心地の良さを感じたあの人を忘れる事ができただろうか……。


 はっちゃんに、私の全てを話すべきだ。

 大切な友達のはっちゃんに……。

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