意外な一面
名前を呼んだその人は上下作業着を着た同年代の男の人だった。
髪もカラーリングしておしゃれパーマ、無精髭で見るからにチャラそう……。
えーー……。
関わりたくなかった……。
えっと……でも、誰だっけ……?
何で私の事知ってるんだろう……?
同級生かな……?
小学校から中学校、高校と一瞬にして同級生を思い出してみるが誰もヒットしない……。
男の子の友達も何人かいて、その子の友達に会った事があるけど正直顔まで覚えていなかった……。
キョトンとした私を見てその人は話しかけてきた。
「永井さん、覚えてない? 柏木」
柏木さん……?
自分の記憶を辿る……。
思い出した!!
「あ! 前、うちの会社にいた……よね??」
「そうそう! 永井さんに玉砕した」
入社数ヶ月で私に告白してきた人だ……。
「玉砕って……。 もうずいぶん前の話でしょ……。 お久しぶりですね。 よく私がわかりましたね! ここ、よく来るんですか?」
うちの会社にいた頃は新入社員で、今みたいにパーマもかかってなかったし、無精髭なんて新入社員じゃあり得なかった。
チャラそうなのは残りつつもあの時と風貌が違っててわからなかった。
「たまに来てますよ。 会社帰りに寄ります。 あ、ちょっと待ってて」
そう言って座っているおばあちゃんのところへ行き声を掛け横に座って何やら話している。
おばあちゃんはニコニコ笑って何度も柏木さんに頭を下げ、対する柏木さんは、おばあちゃんに笑って頭を左右に振っていた。
和やかな雰囲気なのは見ていてわかった。
柏木さんは近くの店員さんと話をして戻ってきた。
「あのおばあちゃん、お知り合いなんですか?」
「いや、知らないおばあちゃん。 床につまずいたんだ。 それでりんごが落ちちゃった。 聞いたら足とか痛いとこないって。 だけど、おばあちゃんだからちゃんと診てもらった方がいいだろうから、店員さんに説明してきた。 あとはお店の人がいろいろしてくれるでしょう」
チャラそうなのは変わらないけど意外な一面を見た感じだった。
「で、ごめん、話の途中……。 永井さんはここによく来るの?」
「私はここがメインのスーパーです。 うち、ここから近いから……。 今、何してるの?」
「そうだったんだ。 今まで会った事なかったよねーー? 永井さん、変わらないね。 すぐわかった。 俺、会社辞めた後すぐ今の会社に再就職したんだ。 永井さんはずっと?」
「そうそう。 辞めてないよ。 今年、十四年目かな?」
もう十四年か……。
改めて考えてみると十四年にびっくりする……。
「ねぇ、これから時間ある? 久しぶりだから話しません? 夜ごはんに付き合って下さいよ」
そう誘われた。
特に用もなかったので近くの居酒屋へ行く事になった。
二人で居酒屋の方へ歩き出し、飲み屋街に入るとどこからともなくいい匂いもしてきた。
「いい匂いーー! 何か飲みたくなる匂いーー」
「家、ここから近いんでしょ? だったら、気にしなくて飲めるよ」
何だか同窓会みたいで、これから始まる飲み会にワクワクしていた。
さっきまでのチャラい人への抵抗感はどこかに消えていた。
柏木さんに連れられて入ったお店は一度だけ入った事のあるお店で見た目より中は案外広い。
お店はすでに結構な人でカウンターに通された。
「結構、人いるね。 ここ近いけど、あんまり飲みに来た事なかったなーー」
「そうなの? 俺、たまに来ますよ。 パッと飲んで帰るけど……」
「じゃあ、柏木さんのオススメでお願いしようかな……」
「いいの? じゃあ任せてもらおうかなーー」
久しぶりだけど、初めてちゃんと話す人。
柏木さんってどんな人なんだろう……?
私は知らず知らずのうちに楽しむ準備をしていた。