親子の時間
「萌、今度おばあちゃんのうちへ一緒に行ってくれないか? お母さんに会いにいきたいんだ……」
父は何年ぶりに母に会うんだろう……。
「わかった。 今度一緒に行こう……」
私の中で誤解が解けた父。
自ら、誤解されようとした父。
母が自殺だった事は悲しかったけど、父が特殊な形で母を守ってきた事を知り、私が知っている優しい父と変わってなかった事は嬉しかった。
ただ、一つ疑問なのははっちゃんが言った「無神経」とどう繋がるんだろう……。
全くわからなかった。
父としばらく母の思い出話をした。
こんなに穏やかな時間を父と過ごすのは久しぶりだ。
こんな日が来るとも思ってなかった私はその居心地の良さに長居してしまっていた。
話を聞いてパッと帰る予定が、時計を見ると夜の7時になっていた。
「お父さん、もう帰るね」
「萌、また帰っておいでよ。 あ! そうだ……」
父は席を立ち、自分の部屋から小さな箱を持ってきた。
それは、丸い青色の石の入った指輪だった。
「え、何? このリング……」
「これ、お父さんがお母さんと付き合ってる頃買ってあげたものなんだ。 そんな高いものじゃないけどね……デートの時はよくつけてくれてたんだ……。 これ、萌が持ってればいいよ」
アンティークな感じで今、私がつけても全然変じゃない。
「え! いいの? でも大事なものでしょ……?」
「いいよ。 お父さんが持ってたって仕方ないから……。 萌がつけてくれる方がいいよ」
母の形見でもある父と母の思い出のリング、私は大切に持って帰る事にした。
家に帰り、よく目にするところにリングを置いた。
お母さんはお父さんを誤解したまま死んでしまったけど、きっと今はわかってくれているはず……。
お父さんの優しいところを今の私みたいに思い出しているはずだ。
父の事を知ろうと思いながら先延ばしにしてできずにいたけれど、はっちゃんとの事があってようやく父と話をして知る事ができた。
怖さはあったけれど、はっちゃんにメッセージを入れた。
『はっちゃん、父と話してきた。
父ははっちゃんたち家族の修復を願い行動してきたのかなと思う。
話せないかな……。
明日空いてない?
早いうちに話したいんだ。
はっちゃんは私の大切な友達だから。』
しばらくして返信が来た。
『この前は言い過ぎた。
ごめん。
わかった、明日話そう。』
父の代わりに、はっちゃんに父の気持ちを伝えようと思った。
わかって欲しいとは思ってない。
伝える事ではっちゃんの中で変わる事もあるかも知れない。
友達として元に戻りたい。
いろんな気持ちが交錯してだったが、はっちゃんは大切な友達に変わりない。
翌日、私は馴染みのカフェではっちゃんを待っていた。
あの時、ここで話そうと思って拒否されたカフェ。
今日はここで待ち合わせできた。
よく座る場所にいつもの位置で座りいつもより緊張して待っていた。
入り口のベルが鳴る度に振り向いて確認する。
緊張はしていたか、頭の中は案外整理されていて話したい事も全部頭に入っていた。
また入り口のベルが鳴った。
はっちゃんがやってきた……。
私の指には母のリングが光っていた。
母の力も借りながら、はっちゃんに話せればと思った。




