父の愛
父は当時を思い出し、悲しい表情を見せた。
私はそんな父を見たのは初めてだ……。
「お父さんがお母さんに相談の一つでもしてればな……、お母さんも疑わずに済んだのかも知れないし、他に何か方法もあったのかも知れない……。 親切心だったんだけどね……」
「でもね、お父さん。 だからって、お父さんが悪者にならなくてもよかったんじゃないの?」
私には疑問だった。
父が悪ぶる理由なんてなかったはず。
それに、父は女の人にだらしなかったが、私の事はちゃんと育ててくれた。
朝ごはんや夜ごはんも必要な時のお弁当も、不器用ながら作ってくれた。
営業だった父は外回りで少しでも都合のいい時間を見つけて休憩を取り買い物したり、家に帰れる時は帰って夜ごはんの準備をしたりとやってくれていた。
自分のお昼ごはんもちゃんとゆっくりは取っていなかったのだろう……。
よく途中まで食べたパンを持って帰っていた。
そんな父とのギャップを私は小さいながらに感じていたが、大きくなるにつれて、その父の苦労を見ようともせず、家に上がり込む女の人の方に意識が集中してしてしまっていた。
「お父さんはね、お母さんにそんな思いをさせた事が許せなかったんだよね……。 お母さんに黙って始めてしまった事なんだけど、自分自身もこんなに事が大きくなると思ってなかった……。 お母さんの知らないうちに完結すると思っていたんだけどね……。 大切にしたつもりがお母さんを苦しめた。 そして追い詰めて死なせてしまった……。 完全にお父さんのせいだ。 何もなかったけど、お母さんが死んだ事実は変わらない、そうさせたのは自分。 これから生きていかないといけない自分が何もなかったかの様に生きてはいけない。 世間の人がお母さんが勘違いで死んだと思って欲しくなくて……、自分がそんな人間だと周りも納得するだろ……? そう思ったのが始まりかな……」
「あの女の人たちとはどうなったの……?」
「あぁ……、あの人たちは飲み屋のママやお姉ちゃんたち。 飲んでそのまま一緒に帰ってきたりしてたかな……。 その人たちはお父さんに付き合ってくれてただけで何もないんだよ」
「え!? どういう意味? 付き合ってなかったの!? よく一緒に帰って朝までいたりしたじゃない!?」
「あの人たちはお父さんがしてる事を知ってた人たち。 部屋に籠ってたからいい関係だと思ってたんだろ? 部屋では普通にテレビ見たり、飲み直したり、話したり……そのまま寝たりもあったけど……、男女の関係はないよ。 だから入れ替わり立ち替わりいろんな人が来てくれていた……。 仲間みたいなもんだよ……。 お母さんが死んでから酒の量は増えたかな……。 あるバーに萌を寝かせた後、バーに行き始めたのが始まりかな……」
父はそんな事をしていたんだ……。
それってある意味究極の愛じゃないの……?
私は今までの父を思い返し、自然と涙が溢れた……。
でも、私まで父に不信感を持たせなくてもよかったんじゃないの……?
嫌いにならせてどうするの……?
私まで嘘をついて、自分にそこまでのものを背負わせたの?
父の母への愛の大きさを今やっと知れた気がした……。
「ひどいよ、お父さん……。 私、今までお父さんを最低な人だと思ってたよ。 お母さん死んで知らない女の人何人も来て……。 お母さんが悲しんでるって思ってた。 なのに、今更違った事を聞かされるなんてさ……」
父は母を大切にしていたんだという事に気付けた。
「お父さんにとってお母さんは今でも大切な人なんだ……。 もう会えないけどね。 萌にも悪い事をしたね……」
父と二人、涙が止まらなかった……。




