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君の事なんて  作者:
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知る権利

 心配してくれる柏木さんに何を伝えるべきか考えた。

 けれど、夜中まで寝ずに待ってくれていた事や自分の頭の中を整理しきれていないのもあって、今この場で伝える事はやめにした。


「また今度話す。 今はもう寝て……。 待っていてくれてありがとう」



「今聞かないで、大丈夫?」


 こんな時も聞こうとしてくれる優しい人……。



「大丈夫。 明日も……というか、今日だね、仕事だから少しでも寝てね……。 待っていてくれてありがとう……。 嬉しかった……」



「わかった。 じゃあ、また話して。 萌ちゃんももう少し寝なよ……。 おやすみ……」


 そうか……。

 私、仕事ではっちゃんと会わなきゃいけないんだ……。

 昨日までとは違う感じで会わなきゃいけない……。

 でも、だからって仕事を休む訳にもいかない……。

 きっといつも一緒だったお昼休みも別々なんだろうな……。

 屋上で一人……か……。


 そう考えると寂しくなる。

 気まずくなった原因を作ったのは私で、でもどうする事もできずただ話を聞き泣く事しかできなかった昨日……。

 そんな日があっても当たり前の様に次の日はやってくる。

 結局、思った通りで、はっちゃんは屋上には来なかった……。

 次の日も、次の日も……。

 雨の日、食堂へごはんを食べに行った私は、パートさんから声をかけられた。

 最近、はっちゃんと一緒にいるのを見ないねと……。

 私はうまくはぐらかした。

 元に戻りたいと願ったからだ。

 そのパートさんが言うには、はっちゃんはいつも外に出ていて食堂では食べていないらしい。

 そのパートさんが言った。


「市原さんもおんなじ事言ってたよ。 別に何もないよーって」


 そう言ったはっちゃんも私と同じ様に元に戻る事を望んでそう言ってくれたと信じたい……。



 私は今週、バスケを休んだ。

 マネージャーを始めて、休んだのは初めてだった。

 まだ自分の中で整理しきれていないのに柏木さんに会う事ができなかった。

 それに、黒木さんの事だってある……。

 はっちゃんからの話しか聞いていないけれど、一方的ではあるが黒木さんにも会いにくい……。

 何も言われていないのに、ごめんなさいと断るのもおかしいし……。


 バスケを休み、帰宅した私は一人で考える時間を作った。

 どうすればはっちゃんを悲しめずに済んだのか……。

 私はどうしたらよかったのか……。


 はっちゃんが言っていた、父の事。

 はっちゃんは父の何を知っているんだろう……。

 私は父の事を知る必要がある。



「あ、もしもし……お父さん?」


 私は父に電話をかけた。

 週末、家にいるかの確認……。



「萌? 久しぶり。 どうした? この前、おばあちゃんとこ行ったんだろ? みんな元気そうだったか?」



「みんな元気だったよ。 でさ、この週末、家にいる?」



「いるよ。 帰ってくるの?」



「うん……、ちょっと話したい事があって……」



「話? いいけど……」



「じゃあ、週末に」


 私は父から私が知らなかった母の自殺の経緯や、はっちゃんと父との関係を知る事から始まるのかなと思った。


 どんな真実があろうとも、受け止めなければいけない。

 父の子である私にはそれを聞く権利はある。

 父の事を、そして母の事もよく知って、私の中にある不信感をきれいさっぱりなくしたい。

 そんな話になればと願った……。

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