気付けなかった気持ち
はっちゃんの言った言葉が心の中でこだまする。
無神経なのは親譲り……。
どういう意味なんだろう……。
私の両親を知ってるの……?
はっちゃんは特に取り乱す事もなく冷静に淡々と話をしていた。
「萌ちゃんはお父さんが嫌いって言ってたよね? 女の人にだらしないって。 その話、よく聞いてみた事ある?」
父とちゃんと話してみようと思ってはいるけど、まだ実家に帰れてなかった。
「はっちゃん、父を知ってるの……?」
「直接は知らない……。 私も話聞いただけだから。 一度よく話してみたら?」
柏木さんや金子さんの話をするつもりで会ったけど、まさか父の話なんて想像もしない……。
もう今の私に何かを言い返したり、返事すらする力は残っていなかった。
「萌ちゃん、今は前みたいに話せない。 萌ちゃんの事が嫌いだから。 萌ちゃんは私から全て奪っていく。 たった一つでいいから……、柏木さんだけは……と思ってたのに……その柏木さんも。 柏木さんも何で今も昔も萌ちゃんなの……」
はっちゃんは、ずいぶん前から、私の想像するずいぶん前から私の事を嫌っていたのだろうか……。
静かに流れる涙を何度拭っても止まらなかった。
私は大切だと思っていた友達を知らず知らずのうちに傷付けていた。
それにも気付かず何年も過ごし、その相手の隣で笑っていた様だ……。
「帰るね……」
そう言ってはっちゃんは帰って行った。
一人公園のベンチに残った私は、はっちゃんと話した事を受け止め、ただひたすら泣いた。
金子さんとの事を言えなくてごめん。
柏木さんを好きになってごめん。
黒木さんを好きになれずごめん。
無神経なところがあってごめん……。
そして、父がごめん……。
私ははっちゃんと長い時間を過ごしてきたのにあんな感情しか与えてあげられなかったのか……。
いつも一緒で屋上でお昼ごはんを食べて、いろんな話をしてたくさん笑ってきたのに、それを帳消しにする程の事を私はしてきたのだろうか……。
涼しい顔をしてはっちゃんを苦しめていたのだろうか……。
私は自分がわからなくなっていた。
【そんなつもりはなかったけど……。】
その言葉を自分が当たり前の様に使う事をしていた事がショックだった……。
暗い夜道を駅へ向かって歩き、電車に乗って帰った。
家に着いた私は服も着替えずソファに座り込む。
悲しくてまた涙が出てくる。
親友を無くしてしまった……。
もう、はっちゃんと前みたいに楽しく話す事もできないんだ。
一緒にどこかに行ったり、おいしいものを食べて感動したりできないんだ……。
今までしていた当たり前が当たり前じゃなくなった……。
私は、クッションを抱きしめ泣く事しかできなかった。
夜中。
私はソファで泣き疲れ寝てしまっていた。
メイクも落とさずそのまま。
自分のバッグからスマホを探す。
手に取ったスマホの画面を見ると、3時を過ぎたところだった。
スマホには着信とメッセージが何通かあった。
そっか……、スマホ、全然見てなかったもんね……。
開くと、柏木さんからだった。
メッセージには、連絡が取れない事に心配している内容が書かれていた。
今、夜中の3時だし……朝、電話しよう……。
と、スマホを置いた瞬間、電話が鳴った。
柏木さんだった。
私は急いで出た。
「もしもし……?」
「萌ちゃん? 連絡取れないから心配したよ。 今、メッセージ見たの? 既読になったから電話した」
「ごめん……、スマホ全然見てなかった……。 起きてたの?」
「ベッドでいても寝れないし……。 連絡取れて安心した。 市原さんと話したんでしょ……?」
「うん……」
寝ないで待ってくれていた柏木さんの私への優しさを幸せに思う自分と、幸せと思っちゃいけない様な感覚にとらわれている自分にも気付いて、大好きな人を目の前に私はどうしたらいいかわからなかった。




