冷たい時間
こんなに冷たい時間があるだろうか……。
確かに言えるのは、私とはっちゃんの間ではこんな時間はなかった。
いつも笑って楽しく過ごす時間ばかりだった。
……だったと思っていたのは私だけだったのだろうか……。
その笑顔の裏で、怒りや悲しみを抱いていたのだろうか……。
知らないのは私だけ……。
呑気に笑ってるよ……。
そう思われていたのだろうか……。
はっちゃんは、今まで言えなかった気持ちは余す事なく私に伝えようとしていた。
それは私との関係も覚悟を決めて、という事だろう……。
「どこか男の人を信用していない萌ちゃんが、心を開いたのが柏木さんだった事も、柏木さんの話からわかった。 柏木さんと会っても、いつも萌ちゃんの事ばっかり。 デートだってのも嘘だよ。 萌ちゃんがどんな顔するんだろうって思ったから言ったんだよ。 体育館に柏木さんに会いに来たのも気付いてたよ。 私がいたから帰ったでしょ? 何の用かはわからなかったけど、出向いて会いに来たって事は萌ちゃんも本気なんだなって思った。 だから……。 萌ちゃんとはライバルにはなりたくなかった……」
「金子さんとの飲み会も、せっかく吉岡さんと2軒目まで行って二人っきりにしてあげたのに、帰りに柏木さんに会うでしょ……? それで、柏木さんと一緒に帰ってさ車まで乗せてもらってさ……柏木さんとの時間まで私が提供したみたいじゃない! 萌ちゃんってどこまでも空気読めない人……!」
ここまで聞いたはっちゃんの話は悲しい事ばかりだった。
「私に好きな人ができた事とか言ったのって……」
「金子さんは未練タラタラで……、だから焦ってもらったんだよ。 萌ちゃんの情報は是非とも欲しい情報のはずだから……。 萌ちゃんとの時間を作ってあげたのも私。 萌ちゃんが落ちてるのに気付いた時は必ず連絡してた。 金子さんはさ、萌ちゃんに会いに行ってたでしょ? 悲しみの果てにいる萌ちゃんが金子さんに気持ちが傾けばいいなって思ってた。 そんな萌ちゃんを柏木さんが好きになるはずない。 私は萌ちゃんが柏木さんと離れてくれればそれでよかった。 金子さんでも黒木さんでも誰でもよかった。 私の恋の邪魔をしないで欲しかった!」
「はっちゃん……、黒木さんって……?」
「黒木さんだってそうだよ。 柏木さんとケンカでもしたのかなぁ……?なんて言うと、萌ちゃんのところに飛んで行ってたんじゃないの? あの人は相当迷ってたよ。 彼女もいるからさ……」
何が何だかわからない話になってきた……。
金子さんも黒木さんも、偶然会った訳じゃなく、はっちゃんの一言で動いて偶然を装って会ったって事……?
「黒木さんもちょっと聞いたらポロっと言っちゃったの。 萌ちゃんに一目惚れしちゃったんだって。 彼女いるから悩んでた。 この際、萌ちゃん、黒木さんにしなよ。 そうしてよ。 それで丸く収まるじゃん」
黒木さんがそう思ってくれている事に気付きもしなかった。
けれど、だからって黒木さんを選ぶ事はできない……。
「はっちゃん、金子さんの事を言わずにいてごめんね……。 それと、柏木さんの事も……。 好きになっちゃってごめん……」
「……もう付き合ってるの……?」
「……まだ。 でも私の気持ちは知ってて、付き合うのを待ってもらってる……」
いつか言わなきゃいけない柏木さんとの事を言葉少なめに伝えた。
きっと今は何を話したとしてもはっちゃんには伝わらないと思った。
「萌ちゃんのその無神経な感じ、親譲りだよ」
はっちゃんがそう言った意味を理解できなかった。




