本当の事
会社の最寄駅を少し越えたところに公園がある。
その公園の入り口付近に置かれたベンチへ座った。
ここなら電灯もあって明るいし、来てすぐわかる。
少し向こうでは男の子達がダンスの練習をしていた。
あんなに俊敏に踊れるのいいな……そう思いながら観ていると、はっちゃんがやってきた。
「お待たせ!」
私の横にいつもより乱暴にドスンと座った。
「お疲れさまー」
「で、話って何?」
もう本題に入るのか、と私は少し焦った……。
「あ、ちょっと聞きたくて……。 金子さんがね、私の事をいろいろ聞いたって……。 あの……、話の流れの中で私の話になったのかも知れないんだけど……、今、好きな人がいるとか、前カレが忘れられないとか……そんな話ってしたのかな……? 何か話が食い違ってたらごめんね……」
私は言葉を選びながら、はっちゃんに聞いた。
はっちゃんは遠くを見ながら私に話し始めた。
「萌ちゃんには何で人が近寄って行くんだろうね……。 いつも萌ちゃんばっかり……。 萌ちゃんと一緒にいても、萌ちゃんによく似た服着ても、いーーっつも人はみんな萌ちゃんを選ぶ……。 LIKEもLOVEもぜーーんぶ萌ちゃんが持ってっちゃう……。 何でなんだろうね……」
「そんな事ないよ……」
「あるよ!!」
はっちゃんは声を荒げた。
「私が金子さんとの事を知らないと思ってた?」
はっちゃんは金子さんとの事を気付いていた……。
「はっちゃん、ごめん……。 話せなくて……」
「萌ちゃんは言わないけど、金子さんとの不倫してたのは気付いてた。 金子さんを好きだった訳じゃないけど、友達になったのは私が先。 なのに、金子さんは友達の私じゃなく女としての萌ちゃんを選んだ。 私はダシに使われた気がしたよ……。 私がいた事で二人は不倫してさ、気持ちいい事やってるんでしょ……?」
私ははっちゃんの言葉を飲み込むのに必死だった。
いつものはっちゃんじゃなかった。
「柏木さんだってそう……。 再会しても萌ちゃんは柏木さんをあまり覚えてなかった。 そういや、告白されたな……くらい。 私は覚えていたよ。 かっこよかったから。 当時だって柏木さんが選んだのは萌ちゃん、あなただった。 再会してもやっぱり選んだのは萌ちゃん……。 無力の勝利だよね。 飲み会、開いてもらった時に気付いた。 萌ちゃんと柏木さんは距離が近くなってるって。 【萌ちゃん】って呼ばれてたから。 あーー、また選ばれるのは萌ちゃんか……。 そう思った」
「萌ちゃんは黒木さんの気持ちにも気付いてないんでしょ?」
え……? 黒木さん?
「黒木さん? 黒木さんは知り合いで……彼女もいるし……」
「それでも萌ちゃんに惹かれたのわからない? どこまでも鈍感なんだから……。 私にはそれが余裕に見えるの。 それがほんとに嫌だった! 柏木さんだけじゃなくて黒木さんもか!って思ったよ……。 そういう萌ちゃんは大嫌いだった! 私はまだ付き合ってない二人を引き離そうと思った。 まだ私に入る隙があると思ったから」
「たぶん、言いたい事って柏木さんとの事でしょ? 萌ちゃんも好きになった事はわかってたよ。 惹かれてるんだろうな……って思ってたから。 萌ちゃんは私に遠慮して言えなかったんでしょ?」
はっちゃんからのたくさんの言葉に押し潰されそうで、はっちゃんの思ってた気持ちを受け止める事に時間がかかってしまい、今は黙り込むしかなかった。
「私が言わせない雰囲気を出したのも確か」
淡々と話すはっちゃんは、私がよく知るはっちゃんではなかった。
はっちゃんがいろんな思いをしまい込んで今までいた事に私は気付かなかった。
はっちゃんが言う様に私は鈍感だったのかも知れない……。
今は、はっちゃんの気持ちを受け止めるしかない……。




