暗雲
『はっちゃん、明日会社終わりに時間ある?
話したい事があるんだけど……。
都合、どうかな?』
たったこれだけの事を送るだけで緊張する。
いつもなら何でもない会話の一部なのに、今日は全く違う……。
真実を知る怖さに押しつぶされそうになりながらも打ったメッセージ。
それを知るために、ずっと誰にも言わずにいようと思っていた金子さんとの関係も話さなくてはならないのかも知れない……。
金子さんとの事を聞いたはっちゃんは私を最低だと思うかも知れない、友達を辞められてしまうかも知れない。
けれど、一歩進む為には必要な事だった……。
しばらくしてはっちゃんから返事が来た。
『話したい事? 何ー? 明日、いいよ』
いつもの会話にも冷たくも聞こえるはっちゃんからの返信。
文字だけって受け手のイントネーションでどうにでも受け止めれる。
今の私は冷たく聞こえてしまった。
携帯を見つめる私に柏木さんは心配そうに言葉をかけた。
「返事きた? 萌ちゃん、いつかは知らなきゃいけないと自分でも思うでしょ? 先延ばししてもいつかは知る事になるんだよ。 話を聞いてどう思うかは聞いてみてだけど……。 俺、いるからさ、あんまり考えず会っておいでよ」
そうだよね……。
はっちゃんが金子さんへ私の偽りの話をした理由、それは聞いておきたかった。
何か意味があるのか、何かの行き違いなのか、何かの勘違いなのか……。
翌日、私はいつもより早く出社した。
給湯室で朝のお茶の準備を始めた。
いつもしている事なのに、いつもとは違って手順が違ったりして何だか落ち着かない……。
はっちゃんはもうすぐ出社するはず。
何て声をかければいいのか……。
いつも通りでいられるかな……。
目が泳ぎそう……。
お茶を持って自分の机に戻った時、はっちゃんが出社した。
「萌ちゃん、おはよう。 今日何? 何の話?」
「はっちゃん、おはよう。 あ……いや、ちょっと聞きたい事もあって……」
「聞きたい事……?」
はっちゃんは、聞きたい事があると言った事に何かを察した様だった。
「……わかった……。 じゃあ帰りに聞くわ……」
そう言って去って行った。
午前中の仕事を終え、いつもの様に屋上へ上がった。
はっちゃんは、お昼に屋上に上がってくる事もなく、食堂で食べているのかな……と思ったけどそんな感じもなく、どうしたんだろう……と思っていたら、外から帰ってきたのを見かけた。
最初からお昼は一緒には食べる予定ではなかったのかな……と思った。
お昼に話せなかった事もあって、社内メールではっちゃんはメールを送った。
「はっちゃん、お昼、外だったんだね。
今日、いつものカフェでいい?』
二人でよく行くカフェがある。
ただひたすら意味もなく話すだけの時もあるし、真剣な話もした。
そのカフェでは本当にいろんな事を話してきた。
はっちゃんの恋バナも聞いた。
前カレの話もした。
父の話もした。
話さなかったのは、金子さんの事、それだけ。
そのカフェにははっちゃんとの思い出がたくさんある。
そのカフェで話を聞きたかった。
はっちゃんからの返事が来た。
「あのカフェじゃないとダメ? 公園にしない?」
私が思い描いた返事ではなかった。
ズキン……。
私は心が締め付けられる様な気持ちになった。
「わかった。 じゃあ、公園にしようか……」
そう返信し、私は泣きそうになった……。




