偶然の再会
金子さんが来たのは十九時を過ぎていた。
もうあたりは暗くなっていた。
今日、別れる事を切り出すつもりにしていた私はいつも通り少しのごはんをテーブルに並べながら変な緊張感に襲われていた。
シャワーを浴びに行った金子さんが戻るのも数分後。
いつもの流れを考えるとテーブルにごはんを並べたものの、食べる前に話した方がいいと思った。
あと数分か……。
どんな風に切り出せばいいのかな……。
金子さんが出てきた……。
えっと……どうしよう……。
一瞬頭が真っ白になったけれど何とか一言目を口にできた。
「……金子さん、ちょっと話がある」
「何? どうしたの?」
「あの……私たちさ、もう別れよう……」
「……何かあった? 急に何で……?」
「私の中では急にではないんだ……。 少し前から考えてた事なんだけど……。 今更言う事じゃないけどやっぱり不倫は良くない。 奥さんのところだけに帰らなきゃ……」
「萌は俺が嫌いなの?」
「そういう訳じゃないけど……でも、奥さんと離婚なんて考えないでしょ? それは奥さんが大事だからだよ。 私も金子さんに奥さんと別れて欲しいなんて思ってないし、お互いそういう付き合いはもうやめよう……」
「俺は続けたい」
「でもね、奥さんとも私とも別れたくないのは、奥さんは精神的に、私は体で繋がってるからじゃないの?」
特に気にしている訳でもなかったが、これを切り出すと金子さんは何も言えなくなるかな、と思って聞いてみた。
でも金子さんの答えは意外なものだった……。
「萌、それは違うよ。 萌は心も体もだよ。 今日何で急に来たかわかる? 萌に会いたくなったから。 まっすぐ家に帰れたんだけど、萌に会いたかったから」
腕をぐいっと引っ張られいつもの流れになりそうだった。
「ちょっと、待って……、もうダメだって……」
流れを止めようと抵抗した。
「萌……、別れるなんて考えないで。 俺たちの形はこれでいいじゃん。 ね? 萌じゃないと、俺、ダメだから……」
また振り出しに戻った……。
金子さんを受け入れた自分が情けない……。
他に具体的な理由があった方がいいのかな……。
私は少しどうしたらいいか考え直す事にした。
別れを切り出し一旦白紙に戻してから2ヶ月が過ぎた。
相変わらずな関係は続くものの、私は別れる事について話すタイミングを見つけようとしていた。
ある日、会社帰りに寄ったスーパーで陳列されたりんごが床一面に散らばっているところに遭遇した。
近くにいた人たちで床に散らばったりんごを拾い集めていたので私も手伝っていた。
おばあちゃんがどうやらよろけてしまってりんごが散らばってしまったらしく、転んだおばあちゃんを少し向こうの座れる場所へ連れて行ってあげている人がいた。
見た感じちょっとチャラそうな……。
そんな見た目だけど優しい事もできるんだ……、偉い偉い……。
おばあちゃんは、ちょっと疲れちゃったのかな……。
そう思いながら近くにいた人たちと一緒にりんごを拾っていると一人の人と目があった。
この人、おばあちゃんを連れて行ってあげてたあのチャラい人だ……。
関わらないでおこう……。
そう思って視線をそらそうとすると、
「永井さん?」
その人に名前を呼ばれた……。