違和感
アパートまでの道のりは黒木さんがいてくれて安心そのものだった。
仕事の話、彼女との話、バスケの話、柏木さんの話……。
全部笑って聞けた話だった。
「けど、どうしてこの辺りにいたの?」
「用があってね……」
さっきもそう言ってたけど具体的には話したくないのかな……。
「永井さんと会って話せてよかったよ。 元カレがいてびっくりしたけど……」
私はタイミングよかったけど……。
「ほんとにね……。 どうしたらいいものか……」
「しつこいの……?」
「たぶん、今だけだと思うけど……」
「永井さんって魅力的だもんね……」
え?
それどういう意味……?
「何それ……。 そんな事はないけど……」
話しているうちにアパートの前に着いた。
「じゃあ、ここで! またね!」
黒木さんは爽やかに帰って行った。
そんな何とか穏やかに帰れた次の日はまた私にとって辛い日となった。
バスケの練習中。
柏木さんと黒木さんが何やら話しているのを目にした。
お互い何かを言い合っていたけれど、何を言っているのかまではわからない。
嫌な雰囲気なのは見ていてわかる。
近くにいた菊池さんに聞いてみたがはっきりとはわからないみたいだった。
「何となく何について話してるのかは察しがつくけど……」
「え? 何?」
「うーーん……。 黒木さんがいろいろ悩んでるんじゃない? そこを突かれてる気がする……」
昨日、悩んでる風には見えなかったけどなぁ……。
練習中もお互い何かそっけない感じで、いつもの柏木さんらしくなかった……。
いつもの帰り道。
柏木さんの車の中、柏木さんはいつもと違った。
私もそんな雰囲気に気付いてしばらく黙っていた。
「昨日さ……」
柏木さんが話し出した……。
「昨日さ、萌ちゃんと黒木が歩いているのを見たんだ」
「あぁ、昨日偶然……」
「あの人がいたんでしょ? 黒木から聞いた。 まだ会ってるの……?」
「違う……、会ってない! 昨日はたまたま……」
「たまたま何? この前も部屋に入れたし……、あの人が勘違いする事したんじゃないの?」
「そんな事してない!」
変な雰囲気が余計変になってしまった。
私にも火がある、そんな風に言われた事が悲しかった。
柏木さんからそんな風に言われるとは思ってなかった事もありショックでその後発する言葉が見つからなかった。
どうしてこうなるの……?
はっちゃんとの事は少し話が食い違っているけれど、まだ私を見てくれているのかなと思い始めていたのに……。
やっぱり好きだと、自分の気持ちに蓋をしなくていいんだと思っていたのに……。
長い沈黙のままアパートまで戻ってしまった。
「……ありがとう。 じゃあ、またね」
お礼を言う事だけで精一杯。
柏木さんも何か言いたそうな雰囲気を出していたけれど顔も見ずに車から降りた。
「萌ちゃん……」
そう呼ばれたのはわかったが、聞こえないふり、振り向かずその場を離れた。
どうしてうまくいかないんだろう……。
金子さんはどうしたいんだろう……。
なぜ私の前に現れるんだろう……。
金子さんの事を考えている時にふと、思い出した。
昨日復縁したいと言われた時……。
『萌だってほんとは……』
ほんとは……何?
私は金子さんには好きな人がいるから、と話している。
私が金子さんと元に戻りたいと思っていると思うはずもない……。
金子さんの一言、たった一言に違和感を感じた。




