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君の事なんて  作者:
43/65

偶然

 個室に二人……。

 私から特に話す事もなく時間だけが過ぎていく。

 1時間くらい待っているがはっちゃんはまだ来ない……。

 居ても立っても居られなくなった私は席を外し、はっちゃんへ電話をかけた。

 コールはするが出ない……。


 まだ仕事なのかなぁ……。

 電車の中なのかも知れないなぁ……。


 仕方なく席に戻りまた金子さんの前は座る……。


「連絡取れないの?」



「うん……。 仕事が終わらないのかな……」


 そんな話をした時、襖が開いた。



「ごめん! お待たせーー! 遅くなった!」


 はっちゃんがやって来た。



「仕事、大丈夫?」



「うーーん……、大丈夫じゃない……笑 ごめんね、萌ちゃん。 お腹減ったー! 飲もう! 飲もうーー!」


 はっちゃんが来てからその場が華やかになった。

 はっちゃんがいろんな話をしてくれて楽しくてお酒のペースも早くなって私も気付けば3杯目……。

 もうやめておこう……。

 久しぶりに楽しかったーー。


「さ、今日はお開きにしよっか!」


 はっちゃんがそう言ったがいつもより少し早め。

 今日は金子さんも一緒だったし早めの方がありがたかった。

 はっちゃんとはまた仕切り直せばいいや。

 そう思っていた。


 外は寒くほろ酔いの私には丁度いい。

 駅からの道をゆっくり星を見ながら帰って……、帰って速攻お風呂入れて、冷めた体をお風呂であっためて……、今日は長風呂にしよーーっと!

 今日は入浴剤、どれにしようかなぁ……?


 駅まで来て同じホームに向かうはずのはっちゃんが逆方向へ歩き出した。


「萌ちゃん、私、一度会社に戻らないといけないからここで! 萌ちゃん、大丈夫?」



「大丈夫! それよりはっちゃん、また会社帰るならもっと早くお店出てもよかったのに……」


 私の為に頑張ってくれたのかなと思うとありがたいし、申し訳ない……。


 私ははっちゃんと金子さんとは逆の方向へ歩き出した。

 ホームに着くと丁度電車がやってきてすぐ乗る事ができた。

 電車の中の人はまばらだったが私は入り口付近で立って外を見ていた。

 電車の揺れとお酒も入って気持ちいい感じでふわふわした気分になっていた。


 そんな時……。


「萌……」


 そう呼ばれ振り向くと金子さんがいた……。



「え? どうして?」


 いるはずのない金子さんがいた……。



「さっき、駅で解散してすぐはっちゃんに萌がいつもより飲んでて心配だから駅降りるまで付き添ってあげてって言われた」



「大丈夫だから次で降りて……」



「降りない……」



「……困る……」



「何で? 一緒に帰ろう……」



「ダメ……。 一人で帰る……」


 最寄駅に降りてもついてくる。

 星を見ながらゆっくり帰るつもりが……。


「ここでいいから……。 金子さんは次の電車で帰って」



「待って、もう一回話そう。 萌だってほんとは……」


 腕を掴まれ、またこの感じ……どうしよう……と思って困っていたら、声をかけて助けてくれた人がいた。



「嫌がってますよ、やめてあげたらどうですか?」


 その背の高い男の人に声をかけられた金子さんは私から手を引いた。



「黒木さん……」



「僕が送りますから、帰ってもらっていいですか?」


 黒木さん、何でここにいるんだろう……。

 けど、助かった……。



「あなたには関係ありませんよね?」


 金子さんも声を荒げた。



「友達が嫌がってるのを見逃す訳にもいかないんで……。 萌ちゃん、帰ろう……」


 そう言って引き離してくれた。

 金子さんは納得はしてない顔をして駅の方へ歩いて行った。



「黒木さん、ありがとう……。 助かった……」



「元カレ?」



「……そう……」


 詳しくは話せない……。

 黒木さんも察してかそれ以上聞いてこなかった。



「でも何でここに? 用事があったの?」



「うん……ちょっとね。 萌ちゃんちまで送るよ」


 私は安心感でいっぱいでゆっくり星を見ながら帰る事ができた。

 さっきの事を気にしてか、黒木さんも楽しい話をしてくれて自然と私も笑顔になる。

 さっきまでが嘘みたい。

 黒木さんがヒーローに見えた。

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