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君の事なんて  作者:
42/65

計らい

 あれから変わらないいつもの毎日を過ごしてた。

 はっちゃんから柏木さんの事を聞く訳でもなく、私から話を切り出すタイミングもないまま、心のモヤモヤを抱きつつ、一人悶々としていた。


 それよりはっちゃんは、私の事を気にかけてくれている様だった。


「萌ちゃん、最近元気なかった? 大丈夫? 何かおばあちゃんちに行ったんだよね?」


 そうだ……。

 はっちゃんにおばあちゃんのところへ久しぶりに行く事を話していたのにその後の事を話していなかった。

 私は母が病死ではなく自殺だった事を聞かされた事を話した……。



「そっか……。 それで元気なかったんだね。 わかった! 飲もう!」


 はっちゃんはそう言ってスマホで何かを始めた。



「はっちゃん、ありがとうね。 でも大丈夫だから……」


 少し冷静になれる時間があった事と柏木さんに聞いてもらった事もあって以前より落ち着きを取り戻していた。



「今日夜空いてる?」



「……空いてるけど……」



「じゃあ、飲み、決まりね!」



「えぇ!? もう!?」


 急な飲み会。

 はっちゃんは行動が早い。

 私が見習うべきところだ……。

 私を思って考えてくれた事。

 はっちゃんのその気持ちが嬉しかった。

 今日ははっちゃんと楽しく飲もうと朝から楽しみだった。

 はっちゃんも定時上がりを目標にしていたのだが、トラブルが出たみたいで定時に上がれなさそうだった。


「ごめん! 萌ちゃん、先行っててくれる? これ、片付けたらすぐ行くね!」


 そう言って場所を教えられ、先に一人で行く事にした。

 今日ははっちゃんと何食べようかなぁ……。

 っていうか、どんなお店なんだろう……。

 

 言われたお店は和食メインの居酒屋さんで完全個室のお店だった。

 予約したはっちゃんの名前を言うと店員さんさんに、


「お連れ様、来られてますよ」


 そう言われた。


 お連れ様……?

 はっちゃんじゃ……ないよねーー?


「こちらです、どうぞーー」


 そう言って通された部屋にいたのはやはりはっちゃんではなかった。



「では、ごゆっくり……」


 襖を閉められ入り口付近で立ち止まったままだった。


「お疲れ様。 座れば? 萌……」


 そこには金子さんがいた……。



「え……、お疲れ様……。 どうしたの? はっちゃんから誘われた?」



 私はゆっくりと金子さんの前に座った。



「飲もうって連絡もらった。 萌が元気ないからって。 元気ないの? あの好きなやつな事……?」



「いや……、元気だよ……。 大丈夫……」


 はっちゃんは気を利かせて金子さんも呼んでくれていたんだ……。

 はっちゃん、いつ来るんだろう……。

 なるべく二人っきりでいたくない……。

 でもこんな時って、なかなか来ないものなんだよね……。



「先、飲み物だけ注文しておこう」


 そう言って生ビールを注文した。

 二人で乾杯をしても話す事がない……。


「萌、その、好きな人とはどうなの……?」



「何もないよ……。 金子さん、子供は? 大きくなった?」


 私は私の事から話をそらす様に話題を変えた。



「まぁ、順調なんじゃない?」



「奥さん大変だから手伝ってあげなきゃね……」



「萌……、かわいいね、やっぱり……」


 急にそんな事を言い出した。



「ちょっと……そんな事言うのやめて……。 はっちゃんが来たらどうするの……」


 私はこの二人っきりの状況を一刻も早く抜け出したかった。

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