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君の事なんて  作者:
41/65

信じたいけど

 嬉しさや楽しさを感じれないでいたが、この柏木さんといる空間に居心地の良さを感じていた。

 私でいる事を許してくれている、何も着飾らなくていい、何も考えなくていい、何も話さなくても焦る事もない……。


 柏木さん自身がどう思っているのかはわからないが、私はこの空間にいれる事にありがたく思っていた。



「萌ちゃん、お母さんの事、お父さんと話したの?」



「まだ話せてない……。 話さなきゃいけないとは思ってるんだけど……」



「会いにくいの?」



「うーーん……。 でも一度実家には帰らないとね……」


 母の事を気にしてくれていたのは嬉しかった。

 聞いて欲しいと思って体育館へ行ったあの日、もしあの時会えていたら、泣いて困らせていたかも知れないな……。

 そう思ったら、あの時会えなくて良かったのかも知れない。

 あの日から時間は経ってしまったけど、今こんな気持ちになれた事で私は満たされた……。



「萌ちゃん、実家帰る時、終わるの、どこかで待ってるよ。 いろいろお父さんと話さなきゃいけないんでしょ? 一人で帰るの嫌じゃない?」



「でもそんな事まで柏木さんにしてもらうのは悪い!」



「俺がそうしたいの。 この前みたいに頼ってくれたのに俺がそれができなかったでしょ? そういうのが嫌なの!」


 こんなにも思ってくれている事を前面に出してくれていると自分でも感じる。

 柏木さんが嘘を言っている様には思えなかった。


 さっきまで一緒にいる事を楽しめなかった自分に少しずつ笑顔でいる事ができている事に気付いた。

 ドキドキし始める自分を感じ始めると恥ずかしくなってきた……。



「萌ちゃん、ちょっと落ち着いた? いつもの萌ちゃんに戻った気がする……。 それにさ……、今日の服もかわいいね。 髪型もいつもと違うし口紅も。 来た時、ちょっとドキっとした」


 そういうのがズルいなぁ……。

 ちゃんと見てくれてる。

 どうでもいいところなのにスルーせず、ちゃんと伝えてくれる。


「もう、俺を避けないで。 避ける理由ないでしょ? 俺、待ってるんだからさーー」


 無邪気にそう言った彼を信じていいのかな……。

 そんなところをもっと好きになってもいいのかな……。


 私はそう思った瞬間、はっちゃんの事を忘れていた。

 はっちゃんの気持ちを聞かずして私は何もできなかった。

 柏木さんの提案もありがたいし、嬉しいけれど……。



 毎日はっちゃんと連絡取ってるんじゃないの……?

 デートにも行ってるんじゃないの……?

 あの日、なぜはっちゃんは体育館にいたの?

 はっちゃんといい方向に進みそうなんじゃないの……?

 


 はっちゃんに聞いてもいいのかな……。

 そんな聞けるタイミングってあるんだろうか……。

 はっちゃん目の前にいろんな事、聞ける?

 聞いてもはっちゃんの本当を話してくれるのかな……。

 聞いてその後どうするの……?

 私も好きなんだって伝えるの……?


 いろんな思いが入り混じり混乱中だったが、一つ言える事があった。

 柏木さんへの気持ちはどんどん募る。

 会う度好きになる。


 この気持ちを届けられないけど、その気持ちを伝えるために私にはやる事がある。

 怖いけど、聞くしかなかった。

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