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君の事なんて  作者:
38/65

もどかしさ

 朝。


 頭が痛い……。

 昨日、泣き過ぎたせいだ……。

 頭がガンガンする……。


 ベッドの上でゴロゴロしているのが楽だ……。

 でも今日は実家に帰ろうと思ってたのに……。


 私は、母が自殺した事を知り、父が本当に嫌になった。

 話したくもないし顔も見たくないけれど、でも、父の口から母の事を聞いてみようと思った。

 嫌になったとは言っても、やはり父という事は大きく、心のどこかで嫌という気持ちが和らぐ事を望んでいたんだろう……。


 けれど、今日は行けそうにない……。

 明日にして、今日はひたすら寝る事にした。


 スマホも消音にしてひたすら寝る……。

 寝ている間だけは忘れられる。

 何も考えなくていい時間を作るのには寝る事が一番だった。


 次に目が覚めたのはもうお昼を回った時間だった。

 頭痛は少し取れたけれど、今度は目の腫れが引かない……。


 ブサイクだなぁ……。

 でも今日は誰にも会わないしいいや……。


 起きてしまったという事はまたいろいろと考えてしまう時間に突入してしまう。


 仕方ないよね、タイミングが合わなかったんだし!

 はっちゃんと幸せならそれもいいよね!


 そう思う自分と、


 やっぱり好きなんだ……。

 どうしてもっと早くに気持ちに気付かなかったんだろう……。


 後悔する自分が交互にやってくる。

 自分がどうしたいのかがまだよくわからなかった。


 剣道の時のあの真剣な眼差しも、バスケの時の無邪気さも、私にはもう向けられる事はないのかと思うと寂しく悲しく思ってしまう。


 失恋ってこんなにしんどかったっけ……。


 彼もいて別れを経験した事もあるけれど、いつもどこか他人事で去って行く彼に悲しむ気持ちもなければ、後悔する気持ちもなかった。

 いつも心のどこかで、きっといつか裏切られると思いながら付き合い、そんな事があると、ほらね、と思う事で傷付く事を最小限に抑える事もできる。

 そんな恋愛しかしてこなかった自分が、こんなに泣く程辛いと思う日が来るとは思わなかった。


 ベッドから起きる事もせずそんな事を考えていると、インターホンが鳴った。


 誰だろう……?


 でも今は出たくない……。

 私は、その相手が誰かも確かめずその人には申し訳ないが帰ってもらう事にした。


 目の腫れもなかなか引かない。

 鏡を見てがっかりする……。


 洗面所に行って冷たい水で顔を洗った。


「冷たっ……」


 冷たい水は少し気持ちまでもスッキリさせた。

 私はリビングに置きっぱなしにしていたスマホの存在を思い出し、手に取った。


 ……ん?


 着信やメッセージアプリに連絡があった表示があった。


 見ると全て柏木さんだった。


 え……、何だろう……?



 『萌ちゃん、今、家いる?』



 それが最後のメッセージアプリへの連絡だった。


 もしかして、さっきのインターホンの相手は柏木さんだったのかな……。


 インターホンを確認してみた。

 そこには柏木さんが映っていた……。


 折り返し連絡しようと思ったが、連絡していいものかもわからず、したところでこんな顔じゃ会えない……。

 結局、連絡する事も会う事もできずただ座り込むしかなかった。


 インターホンに映る柏木さんはいったい何を伝えようとしてきたんだろう……。

 考えてもわからない……。


 手に持ったスマホが鳴った。

 柏木さんだ……。


 どうしよう……。

 散々迷ったけれど、電話に出た。


「萌ちゃん? 大丈夫? 連絡してたんだけど連絡つかないから何かあったのかと思った……」


 優しい声は変わらなかった。



「さっき、うちまで来てくれた……?」



「行ったよ。 何で出てくれないの? 萌ちゃんと話したいんだけど……」


 はっちゃんとの事なのかな……。

 聞かなきゃいけない話だよね……。


「またでもいい……? 今日はちょっと調子良くなくて……」


 ごめん……。

 今日は会えない……。

 目も腫れてるし……。


 振られる事を分かっていながらも、最後まで少しでもいい自分を見せようと、自分の目が腫れている事まで気にする往生際の悪さに自分でバカだな……、でも本当に好きなんだなぁ……と、改めて思った……。

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