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君の事なんて  作者:
37/65

コワレモノ

「なんてね……。 冗談……。 永井さん、真っ直ぐ見つめないでよーー」


 予想外の言葉にびっくりした私はその言葉に一気に安心した。



「びっくりした……。 黒木さん、どうしたのかと思った……。 彼女いるのに何、言い出すんだろうって思った……」


 久しぶりに笑った気がする……。


「久しぶりに笑った気がする。 ありがとう……。 大丈夫だよ。 時間が何とかするよ」



「あと、新しい出会いもね。 柏木が今、連絡取ってる人って永井さんが知ってる人? もしかして……、市原さん……?」



「……うん。 はっちゃんからそう聞いたから……。 はっちゃんは大切な友達だから」



「柏木は市原さんの事、永井さんに何か言ったりしてないの?」



「柏木さんは何も言わない……かな」


 柏木さんは何も言わない。

 何か話してきそうな気もするけど……。

 なぜ言わないんだろう……。



「ふーーん……。 そっか……」


 こればかりは仕方なかった。

 悲しさを積み重ね、少しずつ明るい場所へ登って行くしかなかった。

 自然に笑える様になるまでには少し時間がかかりそうだけど、とりあえず忘れなきゃ……。



 日々、気持ちを安定させる為に努力をしてきたつもりだった。

 それがもろとも崩れた。

 定時で上がった私とはっちゃんはいつもの様に更衣室で私服に着替えていた。

 パンツスタイルが多いはっちゃんが珍しく今日はスカートだった。


「あ! はっちゃん、今日スカートなんだーー。 珍しいねーー」


 と、自分から言った言葉にハッとした。

 もしかして……。



「今日ね、柏木さんとデートなの」



「そっかー……」


 メイクも直して会社を出て、駅までの途中にある横断歩道で赤信号で止まった。


「萌ちゃん、私、こっちだから! また来週ね!」


 そう言って近くにあるコンビニの方へ行くのを見ていたらコンビニに止まった車を見つけた。

 はっちゃんはその車に近寄り、助手席を開けて乗り込んだ。

 私は信号が青になったのにも気付かず、その光景を一人遠くから見ていた。

 柏木さんは見えないけれど、はっちゃんの楽しそうな横顔は遠目からでもわかった。

 車は私にも気付かず目の前から去って行った。

 

 毎日がいっぱいいっぱいだった……。

 心に穴が開くってこんな感じなのかな。

 私は何も考えられず気がついた青信号で歩き出し駅へと向かった。

 

 電車に揺られ、車の流れを見ながら柏木さんの車を探している自分がいた。

 探してどうする?

 見つけたところでどうする?

 バカな事やってるよ……。

 

 諦めたつもりなのに、二人を見てしまうと胸が締め付けられる……。


 最寄りの駅に着き、家までの道のりを歩いた。

 もう今は何も考えられない……。

 とりあえず、帰って寝たい……。

 そのくらいしか考えることがなかった。



「萌!」


 後ろから誰かに呼ばれた。

 振り向くと金子さんだった。

 覇気のない私を見て少しびっくりしている様だった。

 何で金子さん、いるんだろう……。

 それくらいは思ったがあまり深く考えられないしどうでもよかった。


「一緒に行くよ……」


 そう言って一緒に家まで帰ってきた。

 金子さんが部屋に入った事にも違和感はなく、もう何も考える余裕さえ残ってなかった。


「萌、どうしたの?」



「なんでもないよ……」


 いつもと全く違う私を金子さんは引き寄せ抱きしめた。

 抵抗する訳でもなく、抱きしめてもらった事に少しの安心感を感じた。


 私をこうしてしてくれるのは、金子さんしかいないのかな……。

 今頃、柏木さんとはっちゃんはお互い見つめ合い微笑んでいるんだろうか……。


 そんな私に金子さんは優しくキスをした。


 このまま抱かれてしまえばいいのかな……。

 私にはそうする事しかできないのかな……。


 何の抵抗もせず、何度も長いキスをされながらそう思った。


 けれど、柏木さんとの約束を思い出した。

 自分を傷付ける事はもうしない。


 抱かれても悲しくなるのは自分だ。

 他にも泣かせる人はいる。



「ごめん……」


 私は金子さんから離れた。



「萌……、俺たち元に戻ろう……。 それを言いに来た」



「ごめん……。 金子さんに甘えようとしたね、私。 ごめん。 元には戻れないよ。 私、大切な人がいる……。 もうここに来ちゃダメだよ……」


 金子さんはそれを聞いて納得したのか何も言わずに帰って行った。


 柏木さんの声が聞きたい……。

 柏木さんに会いたい……。


 私はスマホを握りしめ連絡をする勇気もない自分をどうする事もできずただひたすら泣くしかできなかった。

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