必要な距離
自分がこんなにも自分勝手だと思わなかった。
でも考えてみれば、5年も不倫を続けた事自体が自分勝手だよな……。
それに気付かずに過ごしていたんだ……。
あり得ない……。
私に誰かを好きになる価値なんてないんだと思った。
はっちゃんの気持ちはわかった。
はっきり聞かずともはっちゃんからの話でわかってしまった。
柏木さんも気持ちを切り替え、はっちゃんに向き合ってみようと思ったのかな……。
ほんとにタイミング。
タイミングって大事だった。
もう私は二人を見守る事しかできなかった。
はっちゃんも大切な友達、柏木さんも凄くいい人で、自分の大切な人たちがもし付き合う事になったら嬉しいと思う……。
そう願う事だけ考えようと思っていた。
会社でははっちゃんから柏木さんの話を聞き、週二回、バスケで柏木さんに会う。
はっちゃんが柏木さんの話をする時はほんとに嬉しそうで、そんなはっちゃんを見たのも久しぶりで私も嬉しいはずなのに、でもまだどこか複雑で……。
それを気付かれない様に笑って話を聞いている。
柏木さんはバスケで楽しそうに練習したり、仲間と笑って話してたりいつも通り。
私にはその光景がずっと見てられる光景なのに、でも、今は見ちゃいけないものの様な気がして、気にしつつもマネージャーの仕事に没頭したり、体育館から少し出たりしていた。
あの日以来、バスケ帰りに柏木さんには送ってもらっていない。
柏木さんはいつも帰ろうと声をかけてくれる。
けれど、いつもこの後用があるからと嘘をついて電車で帰っていた。
柏木さんは誰に対しても優しい。
帰る方向も一緒だし、仲もいいし、マネージャーだし、いろんな理由があって優しく言ってくれてるのはわかるけれど、今はその優しさが辛いし、もっと離れたい。
毎日この感じ、何なんだろう……。
どうやったらこの感じから抜けれるんだろう……。
練習を見ながらそんな事を考え、練習が終わるのを待つ。
終わったらホッとする。
やっと離れられる……。
終わるのを今か今かと待つなんてあり得なかった……。
あの楽しそうな姿を見るのが好きだったのにな……。
でも本当の私はまだまだそばでいたいと思っていた。
その気持ちを打ち消す為に離れたいと思っていると言った方が正解だった。
今はそうして少しずつ気持ちの切り替えをするしかない……。
私は後片付けをしながら、みんなが帰って行くのを見届けた。
ひとりひとり、私に声をかけて帰って行く。
柏木さんはまだだ……。
この瞬間がドキドキする。
「萌ちゃん、帰ろう」
柏木さんはやっぱり声かけてくれる……。
「あ……、今日もね、この後、用があるんだ……。 だから大丈夫だよ。 お疲れ様!」
「……そっか。 わかった。 じゃあ、萌ちゃん、気を付けてね!」
柏木さんの車の助手席に乗るのは私じゃない……。
エンジンがかかり、走り出した車が校門を出るのを見送る事しかできなかった。
「何であんな嘘ついたの?」
後ろからそう言われた。
「黒木さん、まだ帰ってなかったんですか!?」
「気付いてなかった? 俺もまだまだだね……。 柏木、避けてる?」
「…………」
「柏木、気付いてるよ……。 そんな事言ってた……。 あいつ、何も言わない?」
「何も言わない……かな……」
「もう気持ちは伝えないの……?」
「そうだね……気持ちに気付く前に戻りたいから……」
「あいつ、俺が見ててもいつもと変わらないと思うけど……。 誰かと付き合ってるって事?」
「付き合ってるまではいってないかも知れないけど……いい方向に進みそうって話は聞いたから……邪魔はできない……」
「ここ最近、元気ないよね……。 見ててわかるよ。 あいつもそれに気付いてて改善しようとしてない訳……? 何考えてんだよ……」
「柏木さんは悪くないから……」
「もう俺にしなよ……」
私は、黒木さんが言った言葉にびっくりしていた。
そう言った黒木さんの顔を見つめた。




