最低な私
次の日、いつものお昼休みの屋上ではっちゃんは土曜日の事を話してくれた。
「土曜日さ、柏木さんとデートだったんだーー」
そっか……。 デートだったんだ……。
「どこ行ったの?」
「カフェでごはん食べてきた!」
「そっかーー。 よかったね」
「私たち、いい方向に向かってるかなーーって感じ。 連絡も最近は毎日してるんだ!」
私はどんな顔ではっちゃんの話を聞いていたんだろう……。
ちゃんと笑ってあげれただろうか……?
声のトーンがいつもより低くなかっただろうか……?
いろんな事が気になった…。
黙って聞く以外に私に選択肢はなかった。
定時で仕事を終えた私は家の近くのスーパーに寄り買い物をしていた。
今日は久しぶりに夜ごはんに何かを作ろうと食材を選んでいた。
気晴らしだった。
そういや、ずいぶんカレー食べてないな……。
そう思い出し、カレーを作る事にした。
確かカレールーはあったはず……。
野菜と牛肉を買って帰ろうと野菜売り場に来た時だった。
「何作るの?」
そう言ってにっこり笑って話しかけてきたのは柏木さんだった。
会うと思ってなかったから気を抜いていたのもあるが、すぐに言葉を返せずにいた。
「何か久しぶりじゃない? 俺、昨日バスケ行けなかったし……」
あの土曜日、体育館で見たはっちゃん。
間違いなく柏木さんを待っていた。
カフェでごはん食べた後、どうしたの……?
柏木さんはどんな気持ちではっちゃんを見つめたんだろう……。
そう思っても彼女でもない私にそれを聞く権利はない。
「久しぶりなのかな……」
私はそれくらいしか言葉を返せなかった。
「昨日、黒木に送ってもらったんでしょ?」
「あ、うん……。 帰り道逆なのに申し訳なくて……。 電車で帰れたんだけど……」
「黒木が強引だった?」
「いや……そうじゃないけど……」
そういえば、黒木さんに柏木さんはの気持ちを少し話してしまったんだった……。
でもその気持ちも封印しようと決めた。
決めた……。
決めたのに……何だか本人を目の前にすると切なくなる……。
「昨日俺さ、萌ちゃん、ちゃんと帰れたのかな……って思ってこの辺り、会社帰りに車で通ったんだ。 萌ちゃんに会ったらいいなって。 でも萌ちゃんじゃない人に会ったんだ……。 金子さん?だったっけ……? もしかしてあの人に会った?」
「……昨日、うちに来て……」
「来たの?」
「お茶飲んで帰った……」
「部屋に入れたの? ダメだよ、そんな事しちゃ。 何かされたらどうするの……?」
何か……。
確かにそうだよね……。
現に抱きしめられたりしたもの……。
「そうだね……。 気を付けるね……」
「萌ちゃん、何があった?」
いつもと違う私に気付いたんだろう。
柏木さんは私を見てそう言った。
気持ちは封印するんだ……。
私は何とか笑顔で応えようと頑張った。
頑張らないと笑顔が作れなかった。
けれど、それが私の今の精一杯……。
「え? 何にもないよーー」
一生懸命頑張ったけれど柏木さんには見抜かれていた。
「……何それ……? 萌ちゃん、何かあったでしょ? 気付いてる? さっきから、俺と目、合ってないよ。 ……あの人と何かあったの?」
「金子さんとは何もないよ……!」
そうじゃない事のもどかしさに声を荒げてしまった。
「ごめん……。 今はうまく話せない……」
私は持っていたカゴを元の場所へ戻し、買い物もせずに帰る事にした。
「萌ちゃん、送るよ」
「大丈夫、近いから……」
最後まで優しくしてくれたのに、私は柏木さんの方を振り向きもせずスーパーを出た。
柏木さんは何も悪くないのに、これって八つ当たりだ……。
好きな気持ちが伝わらずイライラしてるだけだよね……。
私って最低だ……。




