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君の事なんて  作者:
34/65

突然現れた彼

「いつからいるの……?」


 金子さんは全身ずぶ濡れになって立っていた。



「萌のところに来る途中、雨足が強くなったからずぶ濡れ……」


 金子さんは笑ってそう言ったが顔色はよくない。



「どうしたの……?」



「ちょっと近くまで来たから……、少し話そう……」



「近くまでって……」


 そう言った彼はずぶ濡れの体をさすりながら少しうつろな表情を見せた。

 部屋に入る事を躊躇ったが、寒そうにしている金子さんをそのまま帰せなかった。


「……じゃあ、温かいもの飲んで帰る?」


 もう別れてから3ヶ月くらい経つだろうか。

 待ちに待った子供も生まれて幸せいっぱいの金子さんが何を話そうというのか……。


 とりあえず部屋へ入ってもらった。



「萌の匂いがする……」


 金子さんは久しぶりに入った部屋へ入り、あたりを見回しながらそう言った。



「私の匂い? そうなんだ……。 でもきっとそうなんだろうね、私、住んでるし……。 どんな匂いなの?」



「花みたいな?」



「あ、それたぶん柔軟剤じゃないかな?」


 私は普通を装いキッチンでお湯を沸かした。

 でも内心は、変に緊張していた。

 金子さんは3ヶ月前と変わらずいつも座っていた席に座り一息ついた。

 さっきよりは顔色も良くなったみたいだった。

 ほんとに寒かったんだろうな……。


「はい、タオル。 これで拭いて。 上着脱いでかけておいたら? 少しは乾くんじゃない?」


 脱いた上着を預かりフックにかけた。


 少し話そうって何だろう……。

 何の話?

 まだ話そうとはしてなさそうだけど……。

 私はキッチンで紅茶を入れながら金子さんの様子をうかがっていた。


 マグカップに入れた紅茶をテーブルに置いて私も座った。

 金子さんは温かい紅茶を飲み、紅茶が入ったマグカップを見つめながら話し始めた。



「萌、久しぶりだね……。 別れてから何してた?」



「特には何もしてないよ。 あ、バスケのマネージャー始めたかな。 それくらい? 金子さんは子供生まれたんでしょ? はっちゃんから聞いた」



「男の子がね」



「かわいい?」



「そうだね……」



「よかったねーー」



「……萌さ、少し前に電話したんだ……」


 そういえば一度だけ着信があった。



「あ、そういえばあったね。 けど、間違いなのかなと思って折り返さなかったけど、間違いじゃなかったの?」



「違う……。 萌と話したかったから」



「何を話したかったの?」



「焦ったんだ……」



「焦る? 何を?」


 何に焦ったんだろう……?



「萌、今、好きな奴や付き合ってる奴いるの……?」


 自分の気持ちに気付いたけれど、タイミングが合いませんでした……。 今、傷心中です……。


 そんな事、金子さんに説明する必要もないだろう……。


「ううん。 いないけど……」


 頭の中がぐちゃぐちゃでワイン1杯飲んできました、なんて言えない……。

 柏木さんへの自分の気持ちを封印し、明日からまた友達として気持ちを切り替えて付き合っていくと心に誓ってファミレスを出てきた。

 そうしないといけないんだ……。



「バスケのマネージャーも週2でしょ? 大変だね……」



「でもね、借りる体育館の都合で週1の時もあるの。 わからない事ばっかりだから周りの人に助けてもらいながらやってる……」



「マネージャーって萌だけ?」



「そう……、私だけ」



「ふーーん……。 大変そうだね」



「でも楽しいけどね」


 これと言って金子さんから話はなく、ただ本当に話に来ただけという感じだった。

 近くまで来たからってこんな雨の中寄らなくてもよかったのに……。


 紅茶も飲み終わり金子さんは帰る準備を始めた。

 掛けておいた上着もほぼ乾いた。

 上着を渡し、目の前で上着を着た金子さんに腕を引っ張られ抱きしめられた。


「え! ちょっと……」



「萌の感触変わってない……。 萌、ちょっとだけこのままでお願い」


 そう言われ、少し体の力を脱いた。



「萌……、このままベッド行く?」



「……行きません……!」


 体の力をまた入れたけれど男の人の力には敵わない。

 びくともしない……。



「ごめん、わかったから……。 けど、萌に未練がないと言ったら嘘なんだ……」


 だからってどうする事もできないでしょ……。



「帰るよ……」


 そう言うと、金子さんが腕の力を弱めそのまま帰って行った。

 私は金子さんが突然来た理由がよくわからなかった……。

 それだけを言いに来たとも思えない。

 何で今日だったんだろう……。

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