泣くしかできない日
父と話したくないと思いつつも、不倫をしていた自分もやってる事はさほど変わらない。
自分も父の血を引き継いでいるんだ……。
自分が嫌で仕方なかった。
一つ疑問があった。
「おばちゃん、さっき、父は浮気なんてする人じゃないって言ってたけど、真面目な人だったって事……?」
私にとって父は真面目とは程遠い人だった。
仕事や私の育児は真面目にしていたけれど、女の人を取っ替え引っ替えなところを見ると真面目とは言えない……。
「萌のお父さんは真面目な人だったと思うけど……。 それにね、大事にしていたと思うよ、家族の事。 姉さんが亡くなって小さい萌に母が、『このままおばあちゃんと暮らす?』って聞いたの。 萌はね、お父さんと暮らしたいって言ったの。 この子は父親も大好きなんだ……と思った。 愛情を持って育てられてるんだと思ったよ。 だから不思議なの、浮気なんて……」
よくわからない……。
全然私の記憶する父と結びつかない……。
母のいるお仏壇の前に座り母と話をする。
今、知ったよ。
お母さんが自分で死を選んだ事。
私を置いて行く程、辛かったんだね。
大事にされていた事はわかっていたよ。
だから尚更思うんだ。
相当の決意だったんだろうね……。
私では止めてあげる事ができなかったんだね……。
悔しくて悲しいよ。
「萌……、こんな形で話してごめんね……」
叔母はとても気にしている様だった。
「おばちゃん、大丈夫だよ! ほら、みんなでごはん、食べようよ。 私、お腹減ってるし! いぶきちゃんの子供の話聞かせてよ! 孫はかわいいでしょ?」
私は悲しい気持ちを押し殺し、楽しく振る舞う事に徹した。
なかなか会えなかった祖母や叔母、叔父……、この時間だけは気を遣わせなきゃいけない時間にしたくなかった。
笑って話を聞き、子供たちとトランプしてみたり普通に過ごしていた。
夕方になり帰る時間になった。
「萌、大丈夫……?」
「おばちゃん、大丈夫だってーー! 心配し過ぎ! ほんと大丈夫だから……。 またお母さんに会いに来る」
「いつでもおいで。 おばあちゃんも待ってるし、おばあちゃんにも顔見せてあげて」
駅までの道をゆっくり歩いた。
シャキッとなんて歩けない。
私は溢れ出る涙を抑える事ができなかった。
電車に揺られながらも抑える事ができず、何度も何度も拭っても溢れる涙。
母の事を思うと悲しくて仕方がなかった。
こんな時、柏木さんならどんな言葉をかけてくれるんだろう……。
ふと、柏木さんを思い出した。
今日は剣道を教えているのかな……。
私は通い慣れた駅で降り、小学校へ向かった。
確認はしてないけど、目、腫れちゃってるだろうな……。
こんな顔見たら、何て言うんだろう……。
体育館に近付くと、剣道をしている音が聞こえて来た。
やっぱり、今日は剣道だったんだ……と思い、体育館までもう少しのところで足が止まった……。
体育館の入り口付近で中で剣道をしているのを見てる人がいる……。
私はすぐにその人が誰だかわかった。
そして、何をしているのかもわかってしまった。
はっちゃんが柏木さんを待っていた……。
私はそれ以上近づかず、駅へと引き返した。
電車に揺られ外の薄暗くなった景色を見ながらさっきの光景を思い出す。
私は今の悲しみから柏木さんに救ってもらおうとしたのか……。
泣きながら重い足取りで駅から家へと続く道を歩いた。
母への涙と、自分の気持ちに気付いた涙。
私は気付かないうちに柏木さんに守られていた事に気付いた。
いつも寄り添い、気にかけてくれていた。
優しく見守ってもらっていたんだ。
さっきの状況を見ていろいろ気付いてしまった。
いつからか私は柏木さんを好きになっていたんだ……。
けど、待ってくれていた柏木さんも柏木さんのタイミングで私から離れて行く……。
さっきの光景はまさにそうだったのかも知れない……。
遅いよね……気付くのが……。
でもそれが私だよね……。
そう思い納得するしかなかった。




