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君の事なんて  作者:
31/65

隠された真実

 母が自殺?

 どういう事?

 理由は?

 私と父を置いて……?


 私はずっと病気で亡くなったと聞かされていた。

 私の記憶を辿っても、その記憶はなかった……。

 黙ったまま叔母を見つめる姿に近くにいたいぶきちゃんも緊張が走る空間にじっと黙って座っていた。


「萌……、ごめん……」


 叔母が私の背中をさすりながら謝った。



「おばちゃんが謝る事じゃないよ……。 ごめん、病気で死んだと思ってたからびっくりしてるだけ……。 でもどうして……?」



「ちょっと来て……。 母さん、私が話すね……」


 叔母は祖母にそう言い、人が集まるところから私を遠ざけ隣にある四畳半の小さな部屋に連れて行った。



「萌、今から話す事をよく聞いてね……」


 そう言って叔母は話し出した。



 母は大学を出て、とある会社に就職した。

 その会社では設計の仕事をしていて、今以上に女性の少ない部署だったけれど、母はその中でも大きな設計を任せられる程会社からの信頼も厚かった。

 母自身も仕事が好きで出会いより仕事、結婚なんてしなくてもいいと言う程、仕事の事で頭がいっぱいだった。

 そんな時、関連会社の営業だった父と出会った。

 おおらかで多少の事は気に留めず明るい父は、殺伐とした部署で仕事をする母のよりどころとなった。

 父と母は程なく恋愛に発展し、母は好きだった仕事をあっさり辞め、父と結婚した。

 あんなにも仕事一筋だった母が、その大切にしてきたものを失ってまでも手に入れた父との人生。

 専業主婦になった母は家の事をしながら父の帰りを待つ、今までとは全く時間の使い方の違う生活になったが幸せでしかなかった。

 そして私が生まれ、二人の生活から三人の生活へ。

 私は母からも父からもとても愛された。

 父も育児には協力的で、早く帰れる日は私をお風呂に入れたり、休みの日は近くの公園へ連れて行ってくれたり、母にばかり負担がかからない様にできる事は率先してやってくれていて、そんな父に母も感謝していた。

 そんな幸せな生活も七年でピリオドを打つ。

 母が突然亡くなってしまった……。


 小さい頃に亡くなった母の記憶。

 私にはほんの少ししか残っていなかった。

 幼稚園の親子遠足に行った事と、発表会で歌ったり踊ったりしたのを見て頭を撫でてもの凄く喜んでくれた事、絵本をたくさん呼んでくれた事……そんなくらい……。

 母の顔も写真を見て、あーー、こんな人だったかなぁ……って思うくらい……。

 母と過ごした五年を思い出したいが、当時の私が小さすぎて全くと言っていい程記憶がなかった。

 どこで母は病気で死んでしまったという記憶に書き換えられたのだろう……。


 営業の父は遅くても二十時には帰ってきていた。

 そんな父の帰りがある時を境にもっと遅くなる。

 母は浮気を疑ったが、そんなタイプの人ではなかった。

 まさかという思いでいた母はそれが現実だと知り、現実に起きている事を受け入れられなかった母は私を育てなくなった。

 あまりにも泣き止まない私の声を聞いた近所の人が警察に連絡を入れた。

 警察から連絡をもらった祖母は母に経緯を聞き、一旦夫婦で話す様にと私をとりあえず引き取った。

 父は浮気をしていないと言ったが母は信じなかった。

 浮気を疑った母は、仕事帰りの父を尾行し、女の人のアパートへ入って行くのを見てしまった。

 もちろん、それだけでは断定はできなかったが、母からすればその行動だけで充分だった。


 祖母に私を預け、迎えに戻ってきた母は声をかけられない程憔悴していて、祖母が理由を聞いてもその時は何も言わなかった。

 好きだった仕事を辞め、この人と決めた人に一生を捧げ幸せになるはずが、浮気という裏切り行為でその夢も破れてしまった。

 母は壊れ、精神科に通う様になり尚更私を育てられなくなった。

 この先、どうしようか……と思っていた矢先、母は自ら命を絶った……。

 思い描く家族を作ろうと願ったが、父に裏切られ、大事な我が子とも一緒にいられない、その悲しさから逃れる為に母は死を選んだ。


 叔母から聞いた母の本当の亡くなった理由。

 まさかの父の浮気による母の自殺だなんて、私はショックを隠しきれなかった。

 母が病気で亡くなったと記憶したのは、精神科に通っていたというところから祖母たちが私の事を考えそういう話にしたという事だった。


「萌……、いつか話そうと思ってたんだけど……なかなか言い出せなくて……、ごめんね……。 もう萌も大人だし、本当の理由を知ってもいい歳になったからもうそろそろとは思ってたんだけど……」


「ただね、萌のお父さんは最後まで違うって言ってたんだよ……。 大人の男と女の話だから難しい事もあるんだろうけど……。 一つ言えるのは姉さんは耐えれなかったんだよね……」


 母が亡くなり、亡くなった理由や、当時若かった父のこれからの事を考え、遺骨は祖母が引き取る形になった。


 お仏壇がうちにないのはそのせいだったんだ……。


 母は全てを父に捧げた。

 なのに父は裏切った……。

 父と話してみようと思っていたのに……。

 もう、無理だ……。

 話したくない。

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