意識
車の中で二人っきり……。
そんな事を急に言われるとどんな顔していいのかわからない……。
私って柏木さんの事をどう思ってるんだろう……。
好きは好きだけど、友達の好きだと思うんだけど……。
それに……はっちゃんの事はどうしたらいいんだろう……。
ちゃんと聞いてはないけれど、きっと柏木さんの事が好きなんじゃないのかな……。
え……、どうしたらいいんだろう……。
「そんな顔、しないでよーー」
「じゃあ、どんな顔してればいいの……?」
「いつも通り?」
「それ、無理でしょ……。 それってどういう意味? 友達だけど……って事?」
「萌ちゃん待ち? 萌ちゃん次第? 俺の事は嫌いじゃないでしょ?」
「嫌いじゃないよ、けど……」
「【けど】友達なんでしょ? それが変わるのを待ってる感じ?」
「変わらなかったらどうするの?」
私は疑問をぶつけた。
「それは仕方ないし、俺のタイミングで待つのをやめるかな……。 だから萌ちゃんはいつも通りでいい。 ちょっとそんな話聞いたら少しは意識するでしょ?」
「そりゃあ……」
「それでいい。 変わる事もあるから。 萌ちゃん、少しは気付いてるのかと思ったけど」
柏木さんのタイミングって……。
「まぁ、いいじゃん!」
でもいつからそう思ってくれていたんだろう……。
私が不倫していた事も、相手が誰かも知っているのに嫌だと思わないのかな……。
もし、好きだと思った相手にそんな過去が、しかも最近の話だった事を知ってしまったら、きっと私なら好きとい気持ちに変化が現れるだろうと思った。
もっと詳しく話をしたかった気持ちはあったけれど、私自身の事でもあったので聞けなかった。
少し普通でいよう。
はっちゃんの事もあるし……。
そう言われてからも柏木さんに変化はなく、言われる前と変わらずに接してくれていた。
バスケのある日はいつも帰りは一緒で送ってくれる。
車の中でも普通に話すし前と変わらない。
あんな事を言われたのをこっちが忘れるくらい自然だった。
約束の土曜日は柏木さんの家へ迎えに行った。
「ほんとにいいの? じゃあ、ドライブする? 疲れたら運転、代わってあげる」
ノープランで始めたドライブは気付けば片道3時間の場所まで来ていた。
途中で休憩で止まったところも全てノープラン。
目的地がある訳でもないけれど、話す事だけでもとても楽しかった。
「やっぱさ、俺、運転していい? 助手席、落ち着かないわーー」
そう言って運転を代わってくれたけど、たぶん嘘。
柏木さんの優しさなんだろうな……。
はっちゃんにも二人で出かけた事やバスケの帰りに一緒に帰っている事を言えずにいた。
何となく隠してしまったのだ。
私はずっと気になりながらも、はっちゃんが柏木さんの事を好きかも知れないという事を確かめられずにいた。
私を止めるものは何なのか……。
どうしたらいいか、わからなかった。
ある土曜日、ずいぶん前に父から言われていた母方の親戚の集まりに参加する為、母の実家である祖母の家へ来ていた。
父は仕事と言って来ていないが、いつも母方の方へは来た事がない。
いつも私一人が参加していた。
お昼頃に集まってみんなでわいわいごはんを食べるだけ、年に何回か集まりお互いの近況報告を聞きながら、お互いを確認する。
母が亡くなってから始まったこの集まりも、子供だった孫たちが結婚して旦那さんも一緒に参加したりと人数が増えたりしている。
お仏壇に手を合わせる。
ここには母もいるのだ。
「お母さん、久しぶり。 私は何とか生きてるよ……」
そう報告した。
叔母やいとこに会うのも久しぶり。
いとこは私の1つ下だがもう結婚して子供もいる。
今日も旦那さんと子供も一緒。
「いぶきちゃんは、ほんと、絵に描く幸せ家族だねーー」
連絡をたまに取っては祖母の話を聞いたりしているいぶきちゃんにそう言った。
「そんな事ないない! 私もお昼にゆっくりランチとかしたいよーー。 萌ちゃん、付き合ってる人とかいないの?」
そんな話をしているところに祖母がやってきた。
「萌、久しぶり。 元気だった? また綺麗になったね。 お父さんも元気なの……?」
「おばあちゃんも元気そうでよかった! 父さんも元気だよ……。 今日も来れなくてごめんなさい……」
「いやいや、いいのよ……。 萌、結婚は? いい人いないの?」
「まだしてないし、する予定もないよ……」
「私が生きてるうちに結婚してね。 萌の歳には萌のお母さんは結婚してたよ。 何で萌の結婚も見ずにあっちへ行ったのかね……。 自分から行く事ないのに……」
自分から……?
「おばあちゃん……、それ……どういう意味……?」
祖母は自分がポロっと発した言葉に気付いていなかった。
私とのやりとりを聞いていた叔母が私のところにやってきた。
「萌、ごめん……。 ずっと言えずに隠していたけど……、姉さんは自殺したのよ……」




