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君の事なんて  作者:
27/65

変わる努力

 ドクン、ドクン……。


 心臓の打つ音が速くなるのがわかった。

 久しぶりに見た【金子さん】という文字。

 別にだからってどうもなる事はないけれど、なぜ連絡してきたのかは全く想像できなかった……。


 何だろう……。

 誤発信なのかな……。


 どっちにしても折り返す事はない。


 私は金子さんの着信履歴を消した……。



 家に帰った私は明日の準備をしてお風呂に入った。

 バスタブに潜り込み、天井を見上げながら今日の事を思い出す。

 独身の当たり前の事を自分がしている事がまだ不思議だった。

 

 少しずつ、いろんな事を変えていけるのかな……。

 今までとは違う自分でありたいと、そう思える様になってきていた。

 普通でいい。

 五年間も不倫を続けた私が許されるのであれば、普通の、みんなと変わらない暮らしがしたい。

 誰かを信じる事をせず、疑ったり、投げやりが当たり前の自分から変わりたかった。


 私が変わらないと周りは変わらない。

 少しずつでもいい、昨日までの自分と変われたのなら目の前に見える景色の感じ方も変わってくるんだろな……。

 一つ一つと向き合ってみる事は大事……。

 それは父とも。

 父から逃げていた。

 見ない様に、考えない様に、距離を置く様にしていた。

 そうした方が楽だと思ったから。

 自分を守る為に置き去りにしてきた事を、父の本音を、母への気持ちを聞いてみようと思った。



 黒木さんからメッセージをもらった。



 『今度はもう少し深い話ができるといいですね!

  楽しみにしています

  俺、早くごはんを食べるだけじゃないですよ!』



 きっと初対面で会った人にはわかる、見えない壁に気付いたんだろうな……。

 今日も終始話しているのははっちゃんで、私は横でその話を聞いている事が多い。

 何かを発言したりというよりは、聞いてる事の方が多くて、けど、つまらない訳でもないし、話を適当に聞いている訳でもない。

 私なりに楽しく過ごしているのだがそう見えないと思われる事が多いらしい。

 きっと昨日もそうだったんだろうな……。



 『今日は楽しかったです。

  また飲みましょう!

  新人マネージャー、指導してくださいね!』



 私は楽しかったんですよ、という事だけは伝えたかった。



 翌日、はっちゃんは出勤した私を待ち侘びたかの様に走ってやってきた。


「萌ちゃん、おはよう。 昨日楽しかったね。 で、どうだった?」



「で、どうだった?」


 ん?

 はっちゃんの言ってる意味がわからない……。



「黒木さんだよーー!」



「黒木さん? まぁ……いい人だったよね? っていう事じゃなくて?」



「いい人止まり? それ以上じゃないの? 昨日、後ろの席でいい感じだったよーー」


 後部座席で話してた時の事かな……? え? そう……? 普通だったと思うんだけど……。



「いやいや……、そんな事はないよ。 普通だよ。 しかも、黒木さんは彼女がいる人でしょ?」



「彼女なら問題ないよーー」



「問題なくないない! ダメだよーー! そもそもそんな気ないし……」



「えーー? そうなの? 萌ちゃんなら大丈夫でしょーー! 私はね、昨日帰って柏木さんとメッセージのやり取りしてたの」


 そうなんだ……。

 そういえば、いつもはっちゃんから帰った後、お疲れ様の連絡が来てたのに昨日は来てなかったな……。

 柏木さんとやり取りしてたからなんだ。



「そうなんだねーー」



「柏木さんっていい人だね。 かっこいいし! もっと話したかったーー!」



「そっかーー……」


 はしゃぐはっちゃんに私はそれ以上の言葉が見当たらず、笑ってる事しかできなかった。

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