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君の事なんて  作者:
24/65

気付かない始まり

 柏木さんとの飲み会のある日曜日。

 私は朝から家でのんびりしていた。


 橋田さんからもらったバスケの練習メニューや、備品のストック数、年間の流れなど、いろんな事をたくさん書いてくれた引継ぎ書を読んでいた。

 そこにはバスケ部の名簿もあって、少しだけ自己紹介的なものもあった。

 全員で12人。

 もちろん見ても柏木さん以外はわからないけど……。

 出身や出身校や誕生日、血液型……。

 そこに橋田さん個人の見解も書いていて、ごはん食べるのが早い、とか、いつも髪型を気にしている、とか、きっと、私が少しでも早く溶け込める様に書いてくれたんだろうなと思った。

 柏木さんの欄には、剣道上手、子供ウケ抜群と書かれていた。


 先週見たあの光景を思い出した。

 確かにそんな感じ……。


 ひとつひとつ読んでいくとおもしろくて、橋田さんの優しさと、橋田さんがバスケ部のみんなに慕われていた事が凄く伝わるいい引き継ぎ書だった。


 来週から始まるマネージャーの仕事。

 最初は手探りで迷惑かける事も多いかも知れないけど、とりあえず楽しんでみよう……。



 気付けばもう夕方はそこまで来ていた。

 朝からパジャマのままだ……。



「やっばいっ……!!」


 私はソファから飛び起き、出かける準備を始めた。


「今日、どんな髪にしようかなぁ……。 服も今日はこの前と違う感じにしてみようかなぁ……」


 最近、服買ってなかったなーー。

 ちょっと早く出て、今日集まるお店近くの服屋さんに行こうかな……。

 近くにコインロッカーもあるし……。


 急に思い立ち、急ピッチで準備した。


 はっちゃんとはお店の前で待ち合わせ、その時間まで1時間半くらいある。


「よしっ!」


 私は気合を入れて服屋さんに入った。

 知ってはいたが初めて入るお店。

 思っていた通り、そのお店は私が好きそうな服ばかり置いてあるお店だった。


 誰を見ても欲しくなる程、私が好きそうな服ばかり……。

 どうしよう……と迷っていたら、ワンピースに目が行った。

 デニムのワンピース。

 形もよくて一目惚れ……。

 でも、着るとイメージが違ったりするんだよね……。

 そのワンピースを手に取り眺めていると、店員さんから、着てみませんか?と声をかけられた。

 サイズは1サイズのみ。

 どんな感じになるのか着てみた。


 カーテンを開け、店員さんに見てもらうと、


「びったりですね! よくお似合いですよ! 履いて来られたらブーツにも合いますよ!」


 そう言われると気持ちも良くなる。

 そうじゃなくてもこのワンピースを気に入ってしまった。


「買います!」


 もうその一択だった……。



「どうします? 着て帰られます?」


 その選択肢もあるんだ!!

 私はそうしてもらう様にタグを外してもらい、着てきた服は紙袋に入れて渡してくれた。


 新しい服に身を包み、心が躍る。

 何軒かお店を回ろうと思ったけど、一着買って満足してしまった。

 コインロッカーに紙袋を入れて、これからお店へとなると早すぎるので近くの広場で時間を潰す事にした。

 人が通って行くのをぼーっと見ていたり、スマホを見てみたりしていると案外時間は潰せた。

 もうそろそろお店の方へ移動しようかなぁ……と思った時、声をかけられた。

 柏木さんだ。


「萌ちゃん! 早いね! もう着いてたの?」


 服見てて、買っちゃって今着てます……なんて言えない。



「あ、ちょっと早く着いてしまって……」


 と言った時に気付いた。

 柏木さんの隣に誰かいる。


「こんばんは」


 背の高い男の人。


「あ……、こんばんは……」



「萌ちゃん、こいつ、黒木(くろき)。 大学の友達。 バスケもやってるよ」


 黒木さん……。

 私は引き継ぎ書を思い出した。


「あ……、もしかして、ごはん食べるのが早い……?」


 橋田さんがそう書いてた人が黒木さんって名前だった様な……?



「何で知ってるの……?」


 その人はそう言った。

 あ……当たった……。



「橋田に教えてもらった?」


 柏木さんが笑いながらそう言った。



「橋田!? あいつ……」



「こんばんは。 初めまして、永井です。 橋田さんから引き継いでマネージャーします……。 よろしくお願いします……」


 恥ずかしそうにしていた黒木さんもいい人そうで、今日の飲み会も楽しく過ごせそうな気がしていた。


 賑やかな通りを三人でお店まで歩き出した。

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