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君の事なんて  作者:
23/65

ハートの形

 金曜日。

 私は朝から残業が決定していた。

 朝からトラブル続き……。

 スマホを忘れたのに気付き家に引き返したり、電車の中で痴漢にあったり……。

 それは気のせいかも知れないけれど……。


 そして会社に来たら今度はパソコンの調子が悪い……。

 作成した書類をプリントアウトしたいのにできないでいた。

 明日土曜日に営業さんが必要な書類がお昼過ぎてもできてなかった……。

 いつもならもうとっくにできているのに…。

 パソコンを見ているとゆっくりゆっくり動いている。

 何が何でもプリントアウトしなきゃいけないけど、お昼を過ぎた今でも数部しかできていない…。

 パソコンをコンコンと指先で叩いてみる……。

 無理なのはわかっている。

 けれど、こうでもしないと気が持たない……。


 ずっと見てても仕方ない。

 時間は13時をちょうど過ぎたところ。

 私は遅れて休憩を取る事にした。

 いつもならはっちゃんと屋上で食べるのだが、出遅れた私は休憩室で食べる事にした。


 給湯室で紅茶を入れるはっちゃんに会った。


「萌ちゃん、今から? どうしたの?」



「朝からパソコンが調子悪くて……。 今から休憩……」



「大変だねーー。 でもさ、日曜日の飲み会のこと考えてようよ! 楽しい事、考えようよ! あ、そうそう! 金子さん、先週末、生まれたんだって。 で、一昨日、病院聞いて行ってきた!」


 そっか……。

 生まれたんだ……。

 よかった……。


「でさ、奥さんと仲良くなっちゃった! 私がね、彼を探してるって話から、私の出会いの為に金子さんの力貸してもらっていいですか?って、お願いしたら、OKだって!! うちの旦那でよければ使ってくださいって!! 飲み会していいって!! 金子さんにこれからも飲み会開いてもらえそうだよ!!」


 嬉しそうに話すはっちゃんに複雑な気持ちになった。

 金子さんとは友達に戻った……。

 戻ったけれど、まだもう少し会いたくなかった。

 また元に戻るという事はない。

 けれど、五年という長い時間を共にした相手としてもっと会わない時間を作りたいというのが本音だった。

 勝手だけれど、金子さんを意識しない生活をすることによってその五年間を早く過去のものにしたかったのだろう。

 変えれない過去ではあるけれど……。


「あ! そうだ! はっちゃん、吉岡さんとは連絡取ってるの?」


 はっちゃんが飲み会の後、お茶した相手。

 そういえば、全然話聞いてなかった……。


「あーー、いや……連絡取ってないよ」



「そうだったの? 取ってるものだと思ってた……。 あの後のお茶、楽しくなかったの……?」


 はっちゃんからその後、楽しくなかったとか聞いてなかったと思うんだけど……。



「うーーん? どうなのかな……。 それより、日曜日!! 楽しもうよ!」


 そうだ……、日曜日……。

 だけど、その前に私は今日の仕事を片付けなきゃ……。

 あのなかなかプリントアウトできない状況を思い出してしまった……。



「はっちゃん……、とりあえずごはん食べてくる……。 あの書類、何とか今日作って帰らないと……」


 私は急いで休憩室へ向かった。

 13時頃の休憩室は人もまばらでぽつんぽつんと座っていて静かな感じだった。


「お疲れさまでーーす」


 そう言って窓際の席に座った。

 やっぱり気になるあのプリントアウトしなきゃいけない書類。

 お弁当を食べてさっさと仕事に戻った。


 プリンターをのぞくと出来上がった書類が……さっきと変わらないスピードで出てきている……。

 このペースだと19時くらいまでかかりそうだった。


 何度やり直してもダメだったから、このペースで仕上がるのを待つ方がいいかと早々に諦めてやっと半分くらい……。


 定時になり、どんどん事務所から人が減っていく……。

 いつもは帰っている時間に私がいる事が珍しく、帰る時にはみんな声をかけて帰って行った。


 静かになっていき、プリンターの音がよく聞こえてくる。


「永井さん、もう終わる?」


 残っていた部長にそう言われた。



「あと1部なんですけど……あと15分くらいかかると思います……」



「了解!」



「もしかして、待ってくれてます? すみませんー!!」



「いやいや、大丈夫。 やらなきゃいけない事もあったから……」



 最後の1部を作り終え、営業さんの机の上へ置いた。

 予想通りの時間になった。

 部長と外に出たのが19時半。

 部長にお礼を言って駅へと急いだ。


 駅に着き、スマホを見ると柏木さんからメッセージアプリに連絡が来ていた。


 おいしそうなラーメンの写真。

 一言、【ハート見つけた】と書かれていてそのラーメンの写真をよく見ると、入ってるネギがハートの形になっていた。


 疲れていたところに不意をつかれた!

 私の心がクスッと笑った。

 振り返ると、今日一日は必死過ぎて全然笑ってなかったな……。

 最後の最後で笑わせてくれて、本来の自分に戻れた気がした。


 私は駅のホームと空の写真を撮り柏木さんへ送った。


 『柏木さんのおかげで自分に戻れたよ。

  今日もお疲れ様!』

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