興味
しばらく子供たちと楽しそうにしている柏木さんの様子を見ていた。
正座をし、背筋が伸びた姿勢は横から見ていた私が見入る程に綺麗だった。
そんな人が笑顔で子供たちと話す姿は眩し過ぎるくらい眩し過ぎて、私は近寄る事ができなかった。
私の様な人が近付いてはいけない様な高貴な人に見えた。
子供たちも懐いていて、【タク】と呼ばれていた。
その子供たちと柏木さんの関係性も素敵だな……。
「ねぇ、タク、あの人、だーーれ?」
私を見つけた一人の子がそう聞いた。
「あ、あの人はね、永井さんっていうの。 これからバスケのマネージャーしてくれるの。 俺がお世話になる人!」
「ふーーん」
そう言って立ち上がった柏木さんは私のところへ歩いてきた。
周りにはたくさんの子たちがついてきた。
「お待たせ。 着替えてくるからちょっと待ってて」
「袴、似合ってるね」
自然に出た言葉だった……。
「そう? 初めて言われたかも知れない……」
そのやりとりを聞いていた周りの子供たちは何だかニヤニヤしている……。
「タクーー、嬉しい時は嬉しいって言えばいいのにーー」
一人の子がそう言うと笑っていた。
「うるせぇよ……! はいっ! 今日はこれでおしまい! みんな、気を付けて帰れよー」
私の横を通り過ぎて帰っていく子供たちはみんな、私にまで挨拶して元気に帰って行った。
何だかここ最近の中で一番いい光景を見た気がした。
着替え終わった柏木さんが出てきた。
さっきとは違う、いつもの感じの柏木さんだった。
「じゃあ、行こう。 どこ行く? 行きたいところとか食べたいものとかある?」
「行きたいところはないけど……焼きそば食べたい……」
「え!? 焼きそば!?」
「最近、食べてないから……」
「じゃあ、そうする?」
車に乗せてもらったのは今日で2回目。
今日もステレオは止まったままだ。
エンジンの音やウインカーの音……。
いつも曲を流して運転する私は、久しぶりに車の音をちゃんと聞いた。
「柏木さんって車の中で音楽聴かないの?」
「いや、聴くよ」
「何で流さないの?」
「あ、今? 何か、恥ずかしいから……」
え? そんな理由だったの!?
「え? じゃあこの前乗せてもらった時も!?」
「流してなかった……よね? たぶん流してないわ……」
「何それーー。 恥ずかしくないよーー。 何聴くの? つけて」
「えーー……」
そう言いながらつけてくれて流れた曲は私もよく聴くバンドだった。
「なーーんだ、一緒ーー! 私もよく聴くよーー。 恥ずかしいって言うから何聴いてるのかなと思ったけど……」
「いや、何となく恥ずかしかったんだよ……。 永井さんもこれ聴くんだーー。 ……じゃあ、流しておこうかな……。 さっきさ、焼きそば食べたいって言ったでしょ? 俺、焼きそば食べたいって言われたの初めてだわ」
笑ってそう言った。
「あ、変だった? でもね、浮かんだのか焼きそばだったから……」
「変じゃないよ。 素を出してくれたのが嬉しかった。 なかなか言わないよ、焼きそば……。 おいしい焼きそば食べに行こうーー」
柏木さんは焼きそば専門店に連れてってくれた。
初めて入ったお店、麺を選んだり、ソースを選んだり自分好みに作ってくれる。
目の前で焼いてくれていい匂いがしてきた。
焼きそばが焼ける音も加わって期待が倍増する。
店員さんがお皿に入れてカウンター越しに渡してくれた。
「おいしいねーー」
久しぶりに食べた焼きそばは格別においしくて、おいしいを連呼する程だった。
おいしい焼きそばを満喫して満足していて、ふと、入り口付近に目をやると外には少し列ができていた。
カウンターだけのお店、店内はそれ程広くない。
お会計を済まそうと柏木さんが店員さんに声をかけた。
「あ! 私、出す! 今日は私の奢り! 前、約束したでしょ? 奢らせて下さいーー」
「え……いいの?」
「いいよーー。 そのつもりだったから」
「……ありがとう。 じゃあ、ゴチになります」
お店を出て歩いているとコーヒーショップがあったので寄ってもらった。
コーヒーを二つ買って一つを柏木さんに渡した。
「はい、どうぞ」
「え? いいの?」
「いいよーー。 あそこで座って飲もう」
川沿いの道に並べられたベンチに座った。
向こう岸の夜景が水面に映る。
キラキラしてとても綺麗だった。
私は柏木さんという人ともっと話したくなった。
私が思っていた柏木さんとは違う顔があり過ぎて、まだ知り得ない柏木さんに出会えそうで興味があった……。




