変化
今日は空に星がたくさん見える。
夜の道をこんなにゆっくり歩いたのも久しぶり。
さっきあった事がなければもっと楽しめたのにな……。
もう酔いも覚めた……。
「柏木さん、ありがとうね……」
私は柏木さんにお礼を言った。
柏木さんに遭遇しなかったらまだいつもと同じ時間を過ごしていただろう……。
それを考えるとあのコンビニで会えたのは感謝でしかない。
「あの人でしょ? この前、俺がすれ違った人……」
やっぱりわかっていた……。
「そう……。 今ね、距離を置こうとしてるところで……」
「ちゃんと考えて始めたんだね。 よかった……」
「柏木さんが偶然にもコンビニにいてくれてよかった……」
「でもさ、今日の事、後で絶対聞かれるよ」
「そうだよね……。 でも、いつかはこんな話になる。 それが早まっただけと思わなきゃ……」
「あのさ、何か始めたら? 仕事終わりに行けるとこ」
「それって習い事って事?」
「習い事とか、スポーツとか? 家にいるのがわかってるから来るんでしょ? 家にいない状況を作る!」
家にいない状況を作る……か……。
「俺さ、週2でバスケやってるの。 マネージャーが辞めちゃって困ってるんだけどやらない? 仕事忙しい時はいいからさ」
マネージャーとかやった事ない……。
「え、でもさ、私で務まる? マネージャーとかやった事ないよ」
「大丈夫だよ。 それに、前のマネージャーに来てもらってやり方とか教えてもらえればいいよ! それはできるから。 何にもわからないところからのスタートにはならないよ」
やった事ないけどやってみるのもいいか……。
誰も知らないところへ入るのは勇気がいるものだけど、柏木さんもいるし何とかなりそうかな……、そう思ってやってみる事にした。
「え? バッシュっているの?」
私もいるのかな……と思って聞いてみた。
「いらない……。 履きたいなら履いてもいいよ! やっぱり永井さんっておもしろいんだ……。 やっぱりあの人といるべきじゃない……!」
そう言って笑っていた。
「あとはさ、友達との時間を今より作ったり、プラっとお店を散策してみたり、レイトショー観たり、仕事の後できる事。 忙しくするの嫌?」
どうしたらいいかを一緒に考えてくれて心強い。
私だけじゃいろんな事を考えられない。
誰にも言えなかった金子さん事を唯一知っている柏木さんは私にとって最強の味方ができた様な、この現状から救い出してくれる救世主の様なそんな感じに思えた。
「いや……嫌じゃないけど、今まであんまり何もせずにきてるから……。 でも生活のサイクル変えるといろいろ変わってくるもんね……。 やってみようかな……」
そんな相談をしていたら柏木さんのアパートに着いたみたいだった。
「ちょっと待っててね」
そう言ってアパート前に待たされ、柏木さんは一旦家に戻った。
階段を上り端の部屋に入ってすぐ出てきた。
あそこに住んでるんだ……。
そう思って見ていたら、こっちに来ず下に停めた車に乗り込んだ。
え……。
目の前に止まった車の窓が開いた。
「乗って、送ってくから。 ここから永井さんち20分くらいかかるから。 車だと5分!」
「え、いいの?」
「いいよ、どうぞーー」
突然の気遣いにびっくりしたけれど、嬉しく思う自分もいた。
優しいなぁ……。
自然にそう思った。
助手席に乗ったのって久しぶり。
前彼以来?
音楽は流れてなかった。
流さない派……?
何だかソワソワして、興味もあってキョロキョロしてしまった。
言われた通り、5分で家に着いた。
あ、もう着いた……。
5分じゃ、自分の興味を満足させる事はできなかった。
そして、何を話しながら帰ったのかも覚えていない……。
「じゃあね! また連絡する! マネージャーの事、よろしく! おやすみーー」
そう言って帰って行った。
何だろう……。
あの柏木さんが出す空気感? 雰囲気?
楽だなぁ……。
あんなに楽に思える人もいるんだ……。
柏木さんのおかげで早めに家に着けた。
お風呂にゆっくり入り気持ちよく出てきた。
濡れた髪を拭きながらスマホをチェックした。
あ……。
金子さんから連絡が来ていた。
着信1件とメール1通。
はっちゃんからメッセージアプリに1件。
私は先にはっちゃんへ返信をした。
金子さんのメールを開くのが怖いから。
内容は何となくわかるから。
でももう逃げちゃダメ。
きっと返信に時間がかかる……。
ちゃんと考えた言葉でわかる様に返信したかった。




