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君の事なんて  作者:
12/65

少しずつ広げる距離

 いつもと同じ月曜日。

 はっちゃんが出社した私を見るなり走って寄ってきた。


「萌ちゃん、飲み会、決まったよ! 来週の金曜日。 萌ちゃん、ちゃんと空けておいてよーー」



「言ってた金子さんの飲み会?」



「そう。 萌ちゃんは柏木さんに聞いてくれた?」



「あ……聞いてない……」



「ちゃんと連絡しといてねーー」


 はっちゃんの頼みだ……仕方ない、連絡しておこう……。


「忘れないうちに今、連絡しとく……」



「萌ちゃん、助かるーー!」


 柏木さんへ飲み会をお願いした。

 すると意外にもすぐ返事が返ってきた。


 『永井さんには新しい出会いが必要だよね。

  わかった。

  会社の同僚に声かけてみますね』


「え! もう返ってきたの!?」


 着信音にはっちゃんがスマホを覗こうとした。



「……あ、違うよ、友達。 ごめん、タイミング、よかったね……。 また連絡来たら言うね」


 そう言ってそっとスマホをバッグへ入れた。


 さっきの内容を見られるのは困る。

 どういう意味?って聞かれたら説明できない……。

 何でも話すはっちゃんに金子さんとの事だけは言えずにいた。

 何となく生きていければそれでいい私にとって、どんな恋愛をするかは特に必要ではなかった。

 必要とされる事を感じる事で生かされていた。


 けれど、相手の家庭を壊す事はしたくないと、心底悪い人間にもなりきれてなかった。

 はた迷惑な人でしかなかった。


 あの日、柏木さんから言われた、【もっと自分を大事にしよう】


 必要とされる事を感じる事は幸せではなかったのかも知れない。

 それを心のどこかで自分もわかっていた。

 そこに愛があれば、形は悪いにしても幸せと思ってもよかったのかも知れない。


 はっちゃんが飲み会をしようと言ってくれている事も、きっとこれを機に金子さんとの関係を解消するきっかけであり、チャンスでもあるのだと思っていた。


 私は金子さんから少しずつ距離を置いていこうと、会えない時間を増やしていく事から始めてみる事にした。


 いつもの金子さんの早番の日。


 『今からいっていい?』


 いつもの決まってくる連絡。

 そして私も決まって返していた、『いいよ。』という返信。


 私は、急に友達からのお誘いで飲みに行く事になったと嘘をつき断った。

 初めての嘘。

 嘘をついて会わなかったのに、嘘をついてごめんという気持ちはありつつも会えない事に何とも思わないなんて……こんなのは付き合ってるとは言わない……。

 改めてもう金子さんからは離れなきゃと思った。


 木曜日、また連絡があったけれど、少し熱っぽいからとまた嘘をつき断った。

 明日の飲み会に行けないといけないから大事を取って休んでおきたい、そう付け加えた。


 2回、嘘をついた。

 でも、嘘をつく事はいい気持ちにはならない。

 嘘はつきたくない。

 今は別れる為のプロセスだと思う様に自分に言い聞かせていた……。




 金曜日、飲み会当日。


 はっちゃんと定時きっちりに会社を出て約束の場所まで行った。

 場所は電車で3駅。

 改札を出ると大きな交差点があってそこを通り抜け小脇の少し狭い路地に入るとお洒落なお店が並ぶ通りになる。

 その一つのイタリアンのお店へ入った。

 先に座り金子さんを待つ。

 会えないと2回連続で断ってから初めて会う。

 2回目は昨日の話……。

 金子さんとの事を知らないはっちゃん、金子さんが連れてくる初めて会う人、そして金子さん……。

 変な緊張感にならない訳がない……。


 しばらくすると、金子さんたちがやって来た。


「久しぶりーー!」


 はっちゃんがそう挨拶した。



「……久しぶり……」


 私もそう挨拶した。

 その一言の嘘もちゃんと言えているのか心配だった。



「久しぶり。 あ、同じ会社の吉岡」



「こんばんは。 吉岡です」


 4人揃って飲み会が始まる……。

 金子さんは普通に接してくれている様に思えた。

 でも私はまだ目を合わせられないでいた……。

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