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君の事なんて  作者:
11/65

白状

 まばらに座るファミレスのお客さん。

 今が人が多くない時間でよかった……。

 今から話す内容に恥ずかしさと悲しさがあるからだ。


 いい事ではない事を話さなきゃいけない時の緊張感は目の前にあるコーヒーの味さえも無くしてしまう……。



「俺が言う事じゃないのはわかってるけど……」


 そう言って話し始めたのは柏木さんだった。

 私は内心、何を言われるんだろう……と、その後の言葉を不安な思いで待っていた。



「あの人と付き合ってるの……?」


 直球の質問に私は小さくうなずくしかなかった……。

 私の様子を見た柏木さんは話を続けた。



「ハンカチを返しにアパート近くに来た時、永井さんの家へ入る男の人を見たんだ。 あ、来客か……そう思ってここでその人が帰るのを待ってようと思った。 だから、今日ここに来るのは実は2回目……」


 ファミレスからアパート敷地の出入り口が見える。


「結構長いな……と思った時、あの男の人が出てきたのが見えたから俺もファミレスを出たんだ。 アパート近くでその男の人とすれ違った時に電話で話してたのが聞こえたんだ……、『今から帰るよ、ケイコ』って……。 【ケイコさん】が誰なのかは確定しないけど、男の人の感じと滞在時間、電話の相手の【ケイコさん】……もしかして……って思った……」


 奥さんの名前、ケイコさんなんだ……。

 ここにきて初めて知った奥さんの名前……。

 名前を知ると妙に距離が近くなった様な気がして、申し訳ない気持ちが更に増した……。



「そうだったんだね……。 あの人とは5年前から続いてる。 けど、奥さんと別れて欲しいとかそういうのはないの……。 私自身、彼を好きかと言えば恋愛においての好きではない。 5年も付き合ってるから情はあるけど……」



「不倫でしょ……」



「そうなんだよね……。……そう……不倫だよ。 わかってる。 そもそも男の人を信用してない。 そんな私が普通の恋愛なんてできない。 向こうも離婚するつもりがないから私でちょうどいいんだと思う……」



「やめなよ、そんな事」



「わかってる。 やめようと思ってるんだけど……、別れる事を話したらそれはしたくないって……。 どうやったら別れられるんだろう……と考えてる最中で……ダラダラ付き合ってる感じかな……。 最低だって思ったよね……」



 柏木さんにそう思われても仕方ない。

 けれど、これが真実で嘘偽りない私……。



「別れた方がいいと思ってるなら早くそうした方がいい。 それにさ、永井さんは自分をもっと大事にしなきゃ。 その人、永井さんの事大事にしてないよ。 永井さんの人生を何も考えてないよ。 永井さんの事、もっと大事に思ってくれる人は他にいる!」


 それは私も同じ……。

 相手に強く言える立場にはない……。



「私を大事に? どうなんだろうね……。 そんな人、いるのかな……」



「いるに決まってるよ。 何でいないと思うの?」


 柏木さんの口調が強くなった……。



「とりあえず、まず、ちゃんと別れなきゃ……。 今日初めて知ったよ、奥さんの名前……。 でもやっぱり家庭を壊しちゃダメだよね……。 奪おうという強気な気持ちもないし、家族のところは帰って欲しいと思うならこんな事しなきゃいいのに……」



「俺、また聞くよ、どうなってるか?」



「どうすれば関係を解消できるんだろう……、少しずつやれる事やってみなきゃね……。 この事、誰にも言わないで、お願い……」



「約束して。 関係を解消するって、自分を大事にするって……」



「わかった……」


 ファミレスを後にし、とぼどぼと歩きながら柏木さんに聞いた。



「幻滅したでしょ……?」



「いや……びっくりはしたけど……。 不倫とかしそうにないし……」



「私も好きでやってないけど……、でも、5年はないよね……。 自分でも思う……」



「じゃあ、すぐやめれそうだけど……違うの?」



「自分を必要とされたいんだろうね……。 男の人を信用してないくせに……。 面倒な女だよね……」



「じゃあ、俺も信用できないって事?」



「あ、そういう事じゃないよ。 恋愛だけの話」



「じゃあ、今は信用してもらえるんだ。 でももし、俺と恋愛に発展したら信用できなくなるって事?」



 そんな事今までなかったからわからない……。

 私が首を傾げて考えていると、



「じゃあ、俺と試してみる?」


 そう言った柏木さんの冗談を一瞬考えてしまった。

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