気付かれた関係
今日の金子さんはいつもの金子さんじゃなかった。
いつもより優しいというか、愛おしいと思ってくれている様な気がした。
【好き】と伝えてくる事がいつもよりも多かった、そんな感覚だった。
私が離れて行こうとするのを阻止しているかの様に……。
【好き】と言われて悪い気がする人なんていない。
私をこんなに求めてくる人もいないかも……、いやでも、そこに愛はない。 そしてこの関係はダメに変わりはない……。
引き戻される気持ちに自分が情けなくなる。
バカ過ぎる……。
金子さんが帰った後ベッドから起き上がる。
シーツを直し、布団や枕を定位置に戻す。
窓を開けて風を通す。
部屋に入る風で全てを吹き飛ばして欲しい……。
さっきの事をなかった事にできればいいのに……。
もしも数時間前に戻れるなら、さっきの自分に喝を入れたい。
情に流されちゃダメ!
いい加減にしなきゃ!!
自分にがっかりする……。
一旦シャワーを浴びて、リビングで何もせずソファに寝転んでいるとインターホンが鳴った。
あれ? 金子さん、何か忘れ物でもしたのかな……?
そう思ってインターホンの画面を覗くと、そこに立っていたのは柏木さんだった。
え!?
柏木さん?
「え? 柏木さん? どうしたの? ちょっと待ってね、出ます!」
さっきまで金子さんがいたのに……タイミングよかったなぁ……、鉢合わせとかならなくてよかった……。
少し安心しつつドアを開けた。
「どうしたの?」
「ごめん、急に。 これ返そうと思って……」
そう言って渡されたものはこの前、手をケガした時に使ったハンカチだった。
「あーー、わざわざ持って来てくれたの? ごめんねーー! でも、返さなくてもよかったのにーー」
戻ってきたハンカチを眺めながらそう言った。
「永井さん、さっきの人、誰?」
柏木さんの言葉に血の気が引いた……。
もうその一言で柏木さんが何を言いたいのかがわかった……。
鼓動が速くなる。
その音も感じ取れる程力強く鼓動する。
体が一気に熱くなる。
どうしよう……こんな時って何て答えればいいんだっけ……。
とにかく冷静でいなきゃ……。
「……あ、さっきの人? 友達。 近くまで来たからちょっと寄ってくれたの……」
「ちょっとが3時間?」
「え……?」
ダメだ……、冷静でいられなくなる……。
自分が追い詰められているのが手に取る様にわかる……。
柏木さんは何を見たんだろう……。
「あの人、結婚してるでしょ……?」
続けて言った柏木さんの言葉に、私はもう柏木さんに嘘は通用しないと悟った……。
真っ直ぐ私を見るその目は、『もう、わかっちゃってるよ……』と言われている様な気がした。
自分がシャワーを浴びて髪が濡れたままな状況である事を思い出した。
もちろん、昼間にシャワーを浴びる事だっている。
けど、男の人と3時間一緒にいた後浴びたシャワーで想像できる事と言えば、みんなだいたいよく似た事を想像するだろう……。
もう無理だ……。
「柏木さん、ちょっと待ってて。 着替えてくる。 外で話そう……」
私は降参した……。
まだ濡れた髪を束ね、服を着替えて外に出た。
「お待たせ……。 ファミレスで話そっか……」
歩いて数分のファミレスへ二人で向かった。
どう話せばいいのか、歩きながら悩んだ。
柏木さんも何も話さない……。
柏木さんに報告する義務はないけれど、柏木さんが何を見てどう思ったのかは知りたかった。
それになぜ、金子さんが結婚してるのがわかったんだろう……。
ファミレスはピークの時間を過ぎたのか人はあまりいなかった。
席に座り、コーヒーをオーダーし、さっきの話の続きを始めた……。




