七つの詩:あの世/鏡のあたし/海の誘い/ユメノソラ/ピンポンぴあの/錦糸町駅/世界の秘密
あの世
やっほ、元気?
あたしも元気だよ
どっちかっていうと
気味悪がったりしないでね
これでもまだオトメなんだから
どうしてこうなっちゃったんだろうね
そんなつもりはぜんぜんなかったのに
もうちょっといっしょにいたかったな
からだがないとすーすーしちゃうんだ
ここはとってもまぶしいの
サングラスもないしね
光に包まれてると
あなたのことも忘れていくみたい
たぶんその方がいいんだろうな
くるしくもないし
かなしくもなくて
ただおわりだけが
すべてをおおうの
鏡のあたし
あなたがキレイならあたしもキレイ
あなたが醜ければあたしも醜い
ありのままそのまま
心も記憶も時間も
あなたがあたしを恐れて
あたしの心を探ろうとしても
森の中の池の水面を覗くようなもの
見えない底を見たくて深みに入っても
足元も覚束なくて慌てふためくだけ
鏡を割ってもあなたの姿が増えるだけ
カケラは四方八方から映し出す
偽りの内面と裏返った外面を曝け出す
愚かでなければ真っ暗な未来が見えるでしょ?
海の誘い
見渡す限り続く浜辺に吹く風は
口をついて出る言葉を散らかしてしまう
ふと見ると短い杭が砂に刺さっている
流されてしまいそうな心を留めようとするように
あたしたちは地の果てに来てしまった
夕暮れは水平線の色を変えていく
あたしたちは海が拒みながら誘うのに戸惑う
背伸びをするように押し寄せる波は
秘めた想いを瞬く間にさらってしまう
杭はたくさんの恋人の幸せと悲しみを見てきたんだろう
頬に深い皺を刻んだ寡黙な衛兵のように
ユメノソラ
山も川も原っぱも森も東京にはない
だからそうしたもの全部の代わりに
あたしは空を見上げる
ちょっと汚くて
ちょっとウソっぽいけど
ないよりはいい
恋も夢も希望も悲しみもあたしにはない
だからそうしたもの全部の代わりに
東京の空を見上げる
ちょっと狭くて
ちょっとギザギザしてるけど
ないよりはいい
ピンポンぴあの
ピンポン玉がころがった
ピンポン、ポンピン
ぴあのの上でころがった
やわらか、ふわふわピンポン玉
白いおなかで跳ねまわる
人を食べちゃう、ぱくぱくぴあの
赤い舌で捕まえる
ピンポン玉に気を取られ
うかうか、音符がこぼれ落ち
ころころ、指がころんだら
ぴあのがにんまりほくそ笑む
錦糸町駅
きれいな駅でもなく
上品な街でもなかったけれど
たくさんの小さな川に囲まれて
ごちゃごちゃしているのが
あたしにはかえって落ち着けた
あの頃あなたの腕にぶら下がって
商店街を歩いていくと
いろんな食べ物のにおいが流れてきた
でも、結局入るのは
安くてボリュームのある
いつもの定食屋さんだった
この間ひさしぶりに総武線に乗った
電車の窓から爪先立ちで街並みを見たら
高くてきれいなビルばかりになっていて
思い出の流れて行った先は見えなかった
世界の秘密
指がふれる
耳に息がかかる
言葉の意味が剥がれ落ちて
喉いっぱいに叫ぶ
あなたのすべてが流れ込んでくる
二十歳を過ぎれば
この世に新しいことなんか何もない
未来は過去の繰り返しで
退屈な感覚と感情だけ
病院の待合室のようなあたしの心
でも、これは違う
今は今じゃない別の生き物
あたしはあたしと違う名前を持つ
何も見えずにすべてがわかる
この世界はきっとそうなってるんだ