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第7話  騎士団(★)

 ※2019.12.6

 改稿完了しました。

 主な変更点は、題名と会話の中身でしょうか。

 それと流れに必要ない部分は削除・加筆してあります。

 あとは騎士団長さんの性格を少し柔らかさを出しました。





 アーレス達が神族の会合を開いていた、ちょうどその頃。


国都のウラノスガイア城宰相室では、宰相のハンスが頭を悩ませていた。


 「クズ国王め……私の娘に手を出すなどと抜かしおって……」


 机の上に山積していた書類を殴り散らした。

 八つ当たりされた書類は、バッサバッサと部屋を舞い、床を見事に埋め尽くす。


 アストライア国王に政務を丸投げされ、あまつさえ『忌み子探し』まで押し付けられた。挙句の果てには、娘に手を出すと脅してきたのだ。

 確かに宰相が怒るのは尤もなのだが、これまで国王のやり方に何一つ意見もせず怠惰に拍車を掛けたのも、宰相ら臣下の責任を言わざるを得ない。だがやはり所詮は貴族。自分の事は棚の上に上げたままであった。


 「国の大地を血で汚すなど、意に反するが……已むを得まい。これも娘の為だ」


 見ず知らずの民の犠牲で、娘の貞操を守れるならば仕方ない。宰相である以前に、娘を想うひとりの父親。それがハンスの決断だった。

 少し冷静になり、部屋に散らばった書類を見て溜息を溢していると、宰相室の扉からノック音が聞こえた。ハンスは気がついたものの、声を掛ける間もなく扉は勢いよく開かれた。


 「宰相殿! 私に何か用件が……って、これは一体どうした?」


 宰相室に入ろうと踏み出しかけた足が止まる。床一面に広がる書類にドン引きする女性騎士。


 「少し手が滑ってな。散らかっててすまないが、ソファーに腰かけてくれ」


 「……はいよ、そういう事にしとくよ」


 どう見ても手が滑ったとは思えないが、余計な詮索は面倒事に巻き込まれ兼ねないと考えた女性騎士は、一応書類を避けるようにソファーへと足を運ぶ。……実際には全て踏み抜いたが。


 女性騎士がおもむろに腰掛けた様を確認したハンスは、机を挟んだ対面のソファーに座った。


 「急に呼び出してすまんな、ブラフマン騎士団長殿」


 「暇を持て余していたから構わんよ。それと呼び名もカーリーでいい。長ったらしくて面倒くさいだろ」


 艶のある黒髪美人のカーリー騎士団長。鍛え上げられた浅黒い肉体には、妖艶さも兼ね備えられているものの、無骨な口調と態度が全てを台無しにするちょっと残念な美女騎士である。


 ハンスは、カーリーの言動など事も無げに会話をすすめる。


 「『お祀り』の事は知っておるな?」


 「あぁ。神様の天啓を授かったとかで、忌み子を探し出して首かっ飛ばして世界救済っていう、魔王討伐200周年の血生臭い祭だってな。バカバカしい」


 「……まぁ概ね正解だ。現在も催しの準備は進められ、あとは忌み子の発見を待つのみとなっている」


 「……ハッ、ゲス国王らしいな」


 カーリーは吐き捨てるように言葉を返す。

 無礼な口調に加え国王をゲス呼ばわりする始末だが、ハンスはさも当然のように話を進める。勝手知ったる間柄といったところである。


 「国内各地の領主達にも忌み子捜索の協力要請は出しているのだが……」


 「伽噺の登場人物が実在してるとは、私には思えないんだけど?」


 「確かにそうなのだが……すまない、無理を承知で忌み子捜索を頼みたい」


 「はぁ~~……どうせそんな事だろうと思ってたよ」


 常日頃、クズ国王の無茶振りにハンスが助けを求める先は、カーリー率いる国王直属の騎士団なのである。彼女の不遜な態度にハンスが何も咎めないのは、返すアテのない借りを彼女に創り過ぎた為だったりする。


 すると今度はカーリーが悪そうな笑みを浮かべながら話を切り出した。


 「わかってると思うけどさ、タダ働きじゃないよな?」


 「あぁ、わかっておる。今回は言い値で構わん」


 「言い値とは随分と奮発するねぇ。よほどの事情を抱えてるってか」


 「……娘の未来が掛かっている」


 「ふぅん……なるほどな。まぁ余計な詮索は止めとくよ」


 「すまんな、恩に着る」


 彼女は、苦渋の表情のハンスを見て何となく事情を理解した。

 娘の未来、それはクズ国王がちょっかいを出してきた他に考えられない。


 「わかった。捜索の任は引き受ける。だが見つからなくても文句言うなよ?」


 「あぁ、無理を承知で頼んでいるのだ、文句など言わん。それとクズ国王からは、遠方の捜索区域における不満分子の排除が指示されているのだが、できる限り血は流さないように配慮して貰えるとありがたい」


 「承知した。それじゃ支度出来たらすぐに発つ。どうせ広域捜索だ、小隊編成して各地に散開するから、複数枚の地図の手配を頼むわ」


 「わかった……本当にすまんな」


 カーリーは黙って頷くと、ソファーから立ち上がり部屋を後にした。


 「……片づけるか」


 カーリーに打ち明け、依頼を受けてもらえた事により、少し気持ちが落ち着いたハンスは、改めて部屋の惨状に目を配らせ、いそいそと書類を纏めはじめたのであった。




 *****




 (予想通り、騎士団を動かしましたか)


 宰相室の天井裏では、斥候のイクトが会話の一部始終を聞いていた。


 同時刻に村では会合が行われている最中。

 なのに何故ここにもイクトがいるのか?


 それはイクトの固有能力『隠密(ステルス)』の能力のひとつ『分身(ドッペルゲンガー)』を行使しているからである。分身はいわば『精神体』であり、戦闘におけるダメージは本人の精神に負荷が掛かる。分身の得た情報も、能力を解除する事で本体に還元されるという優れた能力だ。


 ちなみに、どちらが本体でどちらが分身か混乱する事もあるようだ。



 (ブラフマン騎士団長……人族にしてはなかなか戦闘能力が高そうですね)


 数多の戦地を潜り抜けてきた猛者を従える騎士団長なのだ。あの無骨さが伊達ではない事は、戦闘技術の乏しいイクトでも容易に想像できた。


 (もし迷いの大森林に向かうようであれば要注意ですね)


 こうしてイクトはカーリー追跡の為、天井裏から姿を消した。



 *****



 場所は変わり、国都ウラノスガイア・国都正門前。


 「小隊長共! 人員の確認と準備はどうだ」


 「「「「「全て完了し(オール)ております(クリア)!」」」」」


 「目標(ターゲット)は『忌み子』だ! 各小隊、捜索区域での戦闘判断は小隊長に委ねるが、蹂躙行動は許さん! あくまで《銀髪・銀眼・銀斑》を有した人間の確保に徹しろ!」


 「「「「「了解(イエスマム)!」」」」」


 (何というか……気持ちよく揃い過ぎて、逆に気持ち悪いですね)


 小隊長達の寸分違わぬ発声と動作を見る限り、さすが国都最強と謳われる騎士団であると感じさせた。イクトからすれば、かえって気味悪くさえ感じたようだが。


 「捜索区域は、各小隊長に配布した地図に指示しておいた! 捜索期間は移動時間を含め20日間とする! 忌み子を発見してもしなくても20日後にはここに戻れ! 以上、各小隊出発せよ!!」


 『了解(イエスマム)!!』


 (この統率力……やはり侮れませんね、あの騎士団長さんは)


 イクトは圧倒的な存在感を示すカーリーの警戒を一層強めた。


 「我々の部隊も出発する。っておぃ貴様! そこで何をしてる?」


 突然、カーリーがイクトのいる場所めがけて殺気を飛ばしてきた。

 さすがのイクトも心臓が止まる思いでカーリーを見る。あくまで今は一都民にしか見えないはずだと、素知らぬフリをして歩き出そうとすた。


 するとイクトのすぐ後ろから、気怠そうな女性の声が響いた。


 「いつまでも出発しないから、木陰でお昼寝してましたぁ」


 「どんな理由があろうと、部隊の足並みを崩す事は許さん、さっさと来い!」


 「はぁーい」


 女性は、他の団員とはまるで違い、緊張感のカケラもなく会話している。

 そんな彼女に、イクトはこれまで経験した事のない程の戦慄を覚えた。


 隠密という固有能力を持つイクトだからこそ、人の気配には鋭敏に反応する……いや反応してしまう。いわば職業病みたいなもの。

 だがイクトは気がつけなかった。自分のすぐ後ろで昼寝していたというのに、そこにいる事すら全くわからなかったのだ。


 (な……何者ですか、この女は!?)


 イクトの脳内で危険を知らせる警鐘がけたたましく鳴り響く。

 そんな彼の横を彼女が通りすぎようとした刹那―――



 「(その隠密能力、まだまだ精進が足りないわよ? 神族の少年)」


 バレていた。

 隠密能力である事だけではない、神族である事すらも。


 イクトは気が動転してしまい、その視線は彼女の背中を追ってしまう。

 それは彼女の言葉を肯定してしまう行動。だが彼はそれを気にしている余裕などなかった。



 「我々も出発する! 捜索区域は『神教国最南部・迷いの大森林』だ!!」


 「「「了解(イエスマム)!!」」」


 「おぃ()()、貴様も皆に倣え!」


 「いえすま~む!」


 カーリーが呼んだ彼女の呼び名に、イクトはさらに動揺する事となった。


 (今……『鬼神』と言いましたか!? まさか……どうしてこんな所に? いや、それどころではありません! いくら多重結界で隠していても、村が見つかってしまう!!)


 国都を出発し、遠ざかっていくカーリー率いる小隊、そして『鬼神』と呼ばれた女性騎士。



 イクトは想定外の事態に、分身である身を、急ぎ本体に戻す事にした。






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