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第6話  神族の会合【後編】(★)

 2019.12.5 改稿しましたm(__)m

 アーレスとフォルテュナの会話の内容を少しいじりました。

 必要のない部分を削除し、繋がりの悪い部分を少しは解消したと思います。


 多分。

 「それでは、次に『アシュラの覚醒』なんだが、その前に」


 アーレスが話を進めようとする前に、フォルテュナを見た。

 先程から不満気な表情がありありと見えていた。


 「フォルテュナ、見当はついてるが、今なら発言を許そう」


 アーレスは露骨な上から口調でフォルテュナを挑発する。

 彼女もキッとアーレスに睨みを効かせながら言葉を返しはじめた。


 「どうして貴方は世界人を無碍に出来るの? 私達神族が天上から干渉する事は【天啓】を与える事だけ。それでも世界人はその言葉を信じて、私達を崇めてくれているのよ? そんな世界人がいるからこそ、この世界は……私達神族は生きている。なのに『お祀り』までに犠牲者が増えようとしているのに、それを無視するなんて私には納得できないわ!」


 忌み子探しに巻き込まれるであろう多くの犠牲を、全く気にもしないアーレスに憤りを感じていたフォルテュナは、まくしたてるように言い放った。しかしアーレスはまるで響かないと言わんばかりに、冷ややかにフォルテュナを見下ろしていた。


 「フォルテュナ、よく聞け。この世界は創造神様により創られた庭だ。そして人族や亜人族、魔族もまた創造神様に創られた動物。いわば世界人は『庭で生きる事を許された動物』だ。そしてその『庭』も『動物』も管理するのは我々神族だ。我々が動物の生殺与奪の権利を有しているのだ。わかるな?」


 アーレスはフォルテュナに同意を求めるが、油に火を注がれたように顔を真っ赤にして怒りを露わにしていた。


 「言いたい事はわかるわ、でもそんな言い方はないでしょ!? 人族も亜人族も魔族も、私達神族だって創造神様に創造された生命よ? 立場こそ違えど同じ生命ある生物なのに、なぜそこまで非情になれるのよ!」


 「同じ生命? 箱庭の動物とそれを管理する我々の生命が同等だとでもいうのか? 笑わせるな。やはりお前と議論など無駄のようだな」


 「無駄ってどういう事よ!?」


 「そのままの意味だ。俺とお前も価値観が違い過ぎて話にならん」


 「貴方に命の重さの何がわかるっていうの!?」


 「あぁ、創造神様に仕える我らの命こそが最も重い。さぁ無駄話は終わりだ!」


 創造神の勅命を受け、忠実に実行しようとする『戦神』アーレス。

 アシュラに触れ、人の気持ちに感化された『幸運の女神』フォルテュナ。


 その価値観はあまりにも違い過ぎた。


 しかしこの価値観の違いこそ、今後のアーレスとフォルテュナの人生を大きく分かつ事になる。




 ◇◆◇◆◇




 そして神族の会合が始まる頃に時は遡る――




 村の会合に不参加のアシュラは、空き地で瞑想に耽っていた。


 忌み子の捜索、そして処刑。やはり自分の存在は、村に厄災を引き起こす元凶なのかもしれない……そんなネガティブな思考に襲われていたのだ。それを鎮めるべく、瞑想に時間を費やしていたのだが。


 「…………はぁ、やっぱり集中できないな」


 アシュラは頼りなく溜息をついた。シェイクスもフォルトも信頼している。だが『信じる気持ちを強く持つ』だけでは根本的な解決に至るわけでもない。自分を説得するには、あまりにも脆弱だと感じていたのである。


 「本当はどうするべきだったんだろ……」


 自分のせいで、村人達を危険に晒すかもしれない。そんな可能性に対して


 『自分が強くなる事が、皆に迷惑を掛けない最良の選択なのか?』

 『力で抵抗したら皆が疑われるだけでは?』

 『今すべき事は、村から少しでも遠く離れてしまった方がいいのでは?』


 ……と、冷静になればなるほど心に際限なく広がる迷いは、集中力を散漫とさせてしまった。村人達も全員が会合に参加してしまった為に、全く人気のない寂しさもまた、少なからず影響を与えてしまったのだ。



 これがシェイクス(アーレス)フォルト(フォルテュナ)にとって想定外の事態を引き起こす事となる。




 吹き抜ける風の音だけが虚しく空き地を過ぎる。見渡す限り人の影も形も、気配すらも感じない。ここにいるのはアシュラだたひとり。そんな時、アシュラはふと思ってしまった。


 『村長の娘という事もあるけど、自分とほぼ同い年のフォルトが会合に参加した。他の女の子達も、幼い子供も、老夫婦も、自分を除いて村人全員皆参加している。僕だって赤ん坊の頃から育った此処こそが故郷だ。僕だって村民なんだ。なのにどうして参加させて貰えなかった? いや、これまでもどうして参加しようとしなかった?』……と。


 その理由はアシュラの心の奥底にある【拾われた忌み子】という劣等感。


 村の皆に対して、どうしても踏み込めなった一歩の正体。自分は本当の意味で村の民ではない、森で拾われたいわく付きの捨て子だという無意識の自覚。だからこれまで幾度となく開かれたはずの会合に参加しようとしなかったのだ。


 「自分は必要な存在じゃない……寧ろ不要な存在だ、間違いなく」


 村を守りたいなんて傲慢だ。本当に強いかどうかなんて、魔物はおろか動物と戦った事もないのにどうしてそう思ったのだと。村長の言いつけに従い、一歩も村を出た事もないのに、強くなったなんてどうして思い上がったのかと。

 アシュラの心を蝕むように、闇が覆いはじめる。


 「は……はははっ……僕は、匿って貰ってただけなんだ」


 シェイクスもフォルトも、自分には聞こえない『忌み子への反感の声』を遠ざけてくれてただけなのかもしれない……いや、そうに違いない。だから会合には自分は必要ない。


 結局、2人を守るどころか、守られていた。


 アシュラは、これまでの事を見つめ直した事で、うまく辻褄が合ってしまった。

 その瞬間、美しい銀眼から生気が失われ、涙がボロボロと溢れ出した。


 「俺は……本当に馬鹿だ……」


 涙は流したくない、そんな気持ちからか、アシュラは空を見上げた。

 一面雲ひとつない青空が、涙でぼやける。

 

 「この村を出よう。今なら誰にも見つからずに出られるはずだ」 


 溢れる涙を拭おうと目をギュッと閉じた。

 目を閉じれば、そこは瞑想でも広がる暗闇。だがひとつだけ違うとすれば、その暗闇にはフォルトの姿がぼんやりと映し出されていた。


 『私の愛情は厄災なんかより強いんだゾ』


 『私は、アシュラと一緒に居たかったからね』


 『そんな時は、私の胸に飛び込んでいいんだよ、アシュラ♪』


 アシュラの脳裏に過ぎる思い出。フォルトのはにかんだ笑顔、歯に浮くような台詞、そして慈愛に満ちた瞳……どれも本物だった。偽りのない彼女の気持ちだった。どんな時だって、気がつけばいつも傍にいてくれたのだ。


 アシュラの心は、フォルトの女神のような優しい温もりに包まれていた。


 「俺は、本当に君に助けられてばっかりだったな」


 忌み子だから、こんな感情を持ってはいけない。愛情を露見させてはいけない。そう思いながらも、気持ちは否応なしに大きく膨らんでいく。


 「フォルト、最後に君に会いたい……いや、せめて顔を見るだけでも……」


 不安や猜疑心よりも、フォルトへの気持ちが勝ったアシュラは、誘われるように、ゆっくりと会合のある建物へと歩みを進め始めた。



 ◇◆◇◆◇



 ――時は戻り、神々の集う広間――


 「次は『アシュラの覚醒』だが……」


 アーレスはフォルテュナに『さっさとやれ』と流し目を使って促した。

 フォルテュナは小さく舌打ちをしながら神族達に向いた。


 ちなみに集まっていた神族達は、2人の険悪なムードに戦々恐々としていた。


 『触らぬ神に祟りなし』


 自分達だって神族だろうに……なんて思っても言ってはいけない。


 「それじゃ『アシュラの覚醒』について始めるわ」


 少しぶっきらぼうな口調。フォルテュナの後ろでは、アーレスが目を瞑り、我関せずな態度でどっしりと椅子に座っている。


 「皆も知っての通り、アシュラは20歳を迎えているけど、まだ覚醒に至っていないわ。その兆候も未だに見られない。顕現した肉体でも15歳を超えれば銀斑は紋章へと変化するはずなのに。でもこれは肉体的な問題ではなく、精神的なものであると私は思うの。これまで危険から遠ざけ過ぎた事で、温室のように温く育ってしまった。……いえ、育ててしまったというべきかも知れない」


 誰もが納得していた。フォルテュナがべったりしていた事だけではない。誰もが様子を伺うだけで、修行中に声を掛けるだけ。アシュラを危機に晒す事は一度たりとも無かった。


 「本来なら、私達の住む天上世界で育って、その使命を自覚する事で紋章は形を成す。顕現するのはそれからの話だけど、アシュラはそうはいかなかった。それは何故か、それは皆も理解してるわよね?」


 フォルテュナはゆっくりと神族達を見まわす。

 その目線はオドオドしたひとりの少女に定められた。


 「ククル、答えなさい」


 突然の振りに、ククルと呼ばれた少女は目を丸くして声を上げてしまった。


 「ふぁいぃ!?」


 「ちゃんと認識しているのかを確認するだけの事よ。答えなさい」


 『四元素』を司る眷族神ククル。幼い雰囲気を持つ彼女は、類稀な戦闘能力を買われアーレスに抜擢された神族である。性格的には温厚で戦闘には不向きだが。


 「え…えっとアシュラさんは、天上界を追放された鬼神様のご子息で……えっとそれからその、創造神様の勅令に従って、私達神族が監視する中で、アシュラさんを『箱庭』に伝わる伝承で語られる【忌み子】という逆境に身を置かせた……でいいですぅ?」


 「……言いたい事はあるけど、まぁ良しとするわ」


 「フォルテュナ様、手厳しいですぅ……」


 ククルはアシュラの鍛練中よく通りすがる村民のひとりとして、彼をずっと見続けていた。その真面目さにほんのり恋慕の情を持っている事を、フォルテュナは気がついていた。それゆえの意地悪でもあった。


 「ありがとう、ククル」


 「お褒めに預かり光栄ですぅ」


 「別に褒めてないわよ?」


 「なんだか理不尽ですぅ……」


 とんだ茶番劇だが、ククル(恋敵?)を弄る事で、フォルテュナの鬱憤が少し晴れた。

 ククルの言う通り理不尽ではあるが、場の空気を換えるにはいい役割を果たしていた。


 「話を戻すけど、アシュラが脆弱に育ったのは、紛れもなく私達の責任……いや、私の責任ね。私達を守りたい一心で鍛練を続けてきた彼は、肉体的な能力こそ顕現した私達を凌ぐけれど、心は優しくなり過ぎたわ。おそらく動物の一匹も狩れないと思う。……でも私は間違ったとは思わない。彼には『鬼神』の血が流れている。これは一歩間違えれば、誰彼かまわず殺戮をおかす魔神に堕ちる可能性があるわ。だから……」


 フォルテュナは今にも泣きそうな表情で言葉を綴る。


 「だから、このまま私に任せて欲しいの。今は『お祀り』のせいで気持ちも滅入ってるけど、これを乗り越えれば、きっと彼は覚醒してくれる。そんな気がするの」


 フォルテュナは直感的に感じた事を伝えた。確信ではなくても『幸運の女神』である彼女の言葉。眷属神達は重みと説得力を感じ取った。

 しかし、それを良しとしない『戦神』が立ち上がった。


 「フォルテュナ、話を聞いてみれば何だこの茶番は。段取りもクソもあったもんじゃない。どこに覚醒の糸口があるのか、俺には理解できん!!」


 しかしフォルテュナもそれに迎え撃つ。再び言葉の応酬が始まった。


 「私の直感だもの。でも創造神様に従う事しか出来ない貴方に言われる筋合いはないわ」


 「見えもしない勘など信じられるものか。やはりお前に任せたのが間違いだった。多少なりでも戦いに身を置かせて経験を積ませるべきだったのだ」


 「何を今更言ってるの? そもそもそう指示を出したのは貴方よアーレス」


 「知るか。思い込みで勝手に放置したのはお前だろう。俺はな、あいつは戦いの場に身を置く事で覚醒するタイプだと思っている。だから村外に生息する魔物と戦わせるべきだ」


 「意味のない戦いなんてただの暴挙よ? 誰かの為に戦う、誰かを助ける為に戦うという優しさを前提に置かなければ、ただの殺戮者になってしまうわ!」


 「優しさで覚醒するなら、とっくに覚醒してるはずだろう! このままでは、いつまでたっても鍛練好きのガキのままだ!」


 終わりの見えない押し問答に、神族達は怯えを通り越して、精神的に疲れてしまった。例えアシュラの為とはいえ、お互いの言い分を噛み合わせればいいんじゃないか? そう誰もが思っていたのだが、今この場で口を挟めば我が身がどうなるか……想像したくもなかった。


 「もう家に帰りたいですぅ……」


 ククルの願いは皆の心を代弁していたが、それがすぐに叶う事はなかった。



 *****



 会合広間に蔓延した2人の殺気が落ち着いたのは、それから30分程であろうか。ようやく2人が落ち着きを取り戻し、会合が終わりを告げる。


 「さっさと設定戻しなさいよ。アシュラが待ちわびてるわ」


 「帰れ帰れ。俺はもう知らん。好き勝手にイチャコラしてくれ」


 だが2人の間にはまだ火種は燻っていた。


 『―――【隠者】(ハーミット)―――』


 アーレスが呟くと、再び天井が霞掛かり、銀色の光が降り注ぐ。それに触れた神族達は、次々と元の村人の姿へと戻っていった。


 「フォルテュナ、今日は外で食事を済ます。帰るのは朝になる」


 「どうぞご勝手に。それと私はフォルトよ、間違わないでね。と・う・さ・ん」


 シェイクス(アーレス)は黙って外へと向かった。


 「さて、早く帰ってアシュラ成分補充しよっと」


 様子を伺って、フォルト(フォルテュナ)も出口へと歩き始めた。





 *****





 誰ひとりとしていなくなった大広間。その壁ひとつ隔てた外側に、影がひとつ佇んでいた。

 

 外から盗み聞きするつもりはなかった。


 シェイクスと同じ声をしたアーレスと、フォルトと同じ声をしたフォルテュナのやりとりを聞いてしまっただけ。


 



 「…………もう、意味わかんねぇよ…………」






 アシュラは、誰にも気づかれる事なく、忽然と村から姿を消した。






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