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第5話  神族の会合【前編】(★)

 2019.12.4

 誤字脱字含め、一部文章を刷新。

 それと会話の繋がりの悪い部分を修正する事で、少しだけ会話の中身が変わっています。

 ですが内容的には名前の修正以外、大幅な変更はありませんm(__)m



 「さて諸君、日々の活動に感謝の念を。これより『アストライア国王の粛正計画』の経過報告、及び『アシュラ覚醒』について話をしようと思う」



 シェイクスの宣言が広間に響き渡る。その瞬間に、広間の雰囲気が引き締まった……のだが、宣言早々に水を差す人物がひとり。ご存知、お転婆娘のフォルトだ。だが、今回はいつものふざけた様子ではない。


 「ごめんなさい。始める前にちょっとだけいい?」


 「……なんだ?無駄話なら後にしろ」


 本来の気質上、話を妨げられる事を良しとしないシェイクス。

 冒頭から横槍を入れられ、いつになく冷徹な表情でフォルトを睨み付けるが、彼女はすまし顔で話を続けた。


 「真面目な話よ。今迄は『村の会合』みたいな緩い感じがあったわよね。だから今回は気持ちを締める意味も込めて、()()()()()して欲しいのよ」


 「ふむ……お前にしては随分と大人な意見じゃないか」


 感心するように彼女を見据えるシェイクスに、フォルトは溜息をついて、肩を竦めながら言い返す。


 「私は()()大人よ。貴方こそ、村の生活に毒され過ぎじゃない?」


 「確かに否定せんが、俺の事言えた立場か? 今頃、空地で鍛練している誰かさんに入れ込み過ぎだ」


 まさかの反撃に、フォルトの頬が赤く染まる。周囲からはクスッと微笑が聞こえた。

 気持ちを締める理由が、シェイクスだけでなく皆にもバレバレだった。


 「う……うるさいわね、貴方には関係ない事よ」


 「まぁそうだな」


 フッと笑みを浮かべ、話を区切った。



 シェイクスが静かに目を閉じる。広間が再び静粛に包まれた。

 この場にいる全員が、これからどうなるのかを知っている。



 『―――【隠者解除】(アンハーミット)―――』



 シェイクスが呟く。すると広間の天井に靄がかかり、雪のように銀色の光の粒がキラキラと降り注いだ。それが身体に触れた途端、広場にいる全員に変化が表れた。


 広間に集まる100人の髪色と目の色が、例外なく銀髪銀眼に変貌を遂げる。そして各々腕、方、首、背中といった身体の一部に、模様の異なった銀色の紋章が浮かび上がっていた。


 『紋章』と『銀斑』の違いを除けば、まさに【忌み子】といわれるアスラの特徴そのものである。

 さらに個人差はあるものの、誰もが20歳前後の若人に風貌すら変わっている。


 この間に擁した時間はほんの10秒程度。


 天井の靄が晴れ、いつもの天井に戻る。そこには神々しく輝く銀色の人々。


 「元の姿に戻るのはいつぶりだろうな、()()()()()()


 「この地に顕現してからは初めてよ。それに、貴方からその名で呼ばれるのは何か背中がムズかゆいわね()()()()


 「お互い様だろう。今ここでは親子じゃないんだからな」


 シェイクスだったアーレスとフォルトだったフォルテュナが呟いた。



 「さぁ、仕切り直しといこう!」



 皆の視線がアーレスに集まった。



 「まずは『アストライア国王の粛正』についてだ。その情報を、アストライア城に潜伏している斥候役のイクトから説明してもらう。イクト、前へ」


 「はっ」


 シェイクスだった男、アーレスが声を響かせる。すると、彼の前の空気が揺らめいた瞬間、小柄な男が跪いていた。

 イクトと呼ばれた眷属神。彼は『隠密(ステルス)』という固有能力を持ち、アーレスにより斥候の任を授かっている男であり、アストライア城大広間にて国王と宰相を窺っていた影でもある。


 「イクト、偵察報告を頼む」


 「はっ!」


 イクトは静かに立ち上がり皆の視線を浴びる。


 「ティミス神教国の現国王アストライアは、【勇者の末裔】を騙る『魔王アスモディウス』である事が確認されました。王室に攫われ、拘束された女子供を調べたところ、微弱ではありますがアスモディウスの持つ固有能力『洗脳の種子』の発動兆候があった為です」


 「『洗脳の種子』か。だが兆候だけか? その能力は確か、種子を埋め込まれた者の意識を完全に洗脳、眷属化させるというもののハズだ」


 「はい、その通りです。ですが何度確認しても、誰もがささやかな洗脳に止まっているようです。恐らく、長年の玉座生活による堕落により、魔力が減衰がしているものと思われます。魔力とは肉体同様、鍛えなければ向上はおろか維持すら出来ませんから」


 「国内外からは【天啓を授けたティミス神と勇者】という後ろ盾によって、これといった脅威もなかった故の平和ボケか」


 「お察しの通りです。魔力の衰退は、固有能力の弱体化にも繋がります。魔王本人も自覚があると思いますが、最低限の洗脳さえできればそれで大丈夫だと高を括っているのかも知れません」


 長い間、頂に立ち続け、そして危険を感じさせる脅威もなかった。魔王も平和ボケしまえば、傲慢に権力を振るう輩と大差ないほど落ちぶれる。アーレスも確かに納得できた。


 「魔王の状態は理解した。だが腑に落ちない部分がある」


 「何故、謀反や暴動が起きる可能性があるのか、ですね」


 アーレスの疑問に、イクトは即座に切り返した。


 「そうだ。全国民を『洗脳の種子』で支配しきれば、『お祀り』など必要ないだろうに」


 「魔王の矜持(プライド)……ではないでしょうか」


 アーレスの眉間に皺が寄る。


 「矜持(プライド)?」


 「はい。『洗脳の種子』とは《脳魔漿という、魔力中枢を司る脳漿の一部に、直接魔力を縫い付ける》事なのです。これは固有能力を持つ者だからこそできる芸当です」


 「それと矜持(プライド)と何の関係がある?」


 「男性に『洗脳の種子』を施すつもりはない、という事です。発動兆候を確認した者に、男性はいませんでした」


 「そういう事か……くだらん。だが我々にとってはありがたい」


 アーレスは溜息をつく。どれだけ堕落すれば気が済むのかと。

 しかし、そのおかげで魔王を粛清できる状態にできた事も事実。


 そこでふいにフォルテュナが俯きながら言葉を発した。


 「確実な粛清なんて言ってきたけど、私達も詰まる所、我が身の可愛さよね。女性や子供に犠牲を払わせ続けたんですもの。平和ボケしてきたのは魔王も私達も似たようなものよね」


 フォルテュナの言葉にアーレスは言葉を重ねた。


 「わかっている。だがな、本来なら世界人に直接干渉しないのが我々()()の掟だ。だからこの村は世界人に認知されないよう大森林の奥深くに創り、多重結界も施した。目的はあくまでも創造神様の勅令である『世界の秩序を崩す者』の粛正だ。私はな、正直世界人の事などどうでもいいとさえ思っている。大切なのは創造神様の勅命と、我々神族の命だ。私は間違っているか?」


「秩序を崩す者を粛正すれば、世界人の生命はどうでもいいって言うの?」


 フォルテュナは、魔王に洗脳される前の女子供の気持ちを考えると、とてもアーレスの意見には賛同する気にはなれなかった。


 「それに世界に直接干渉しないはずの我々は、能力を極度に制限される事によって世界に顕現している。戦闘能力を有している眷属神は、直接戦闘によって命を落とす可能性があるのだ。そんなリスクを負う必要などない」


 「それでも! 世界人は私達を……神族の恩恵を信じてくれているのよ? それでも何一つ手を差し伸べないつもりなの!?」


 世界人は自分達に救いを求めている。それを放棄して粛正に意味があるのかと、フォルテュナはアーレスの方向性に疑念を抱いていた。


 「その話は後で聞いてやる。イクト、続けてくれ」


 だがアーレスはフォルテュナの異論を無視し、イクトに話を促した。

 イクトは気まずそうな表情を見せるが、アーレスの指示に従う事にした。


 「魔王は当初の企画通り、『お祀り』で忌み子を直接処刑する予定です。その忌み子は当然見つかるはずもなく焦燥している様子ですが、騎士団を全土に派遣する事で、『洗脳の種子』を行使できない遠方に燻る不満分子の排除を行いながら、【忌み子候補】を見つける算段のようです」


 フォルテュナは目を見開いた。排除という言葉に反応したのだろう。だがお構いなしにアーレスは話を進める。


 「実際に忌み子などいないのだからな、見つかるはずもない」


 「ですが忌み子の代替えは偽装で誤魔化せるので、その点はすぐ解決すると思われます」


 「だろうな」


 「そして『お祀り』当日、滅多に姿を現さない国王が、処刑の執行により国民の前に姿を見せます。そこが粛正する場としては最も相応しいと思われます。まだその詳細はわかりませんが、決まり次第、報告したいと思います」


 「うむ、ご苦労だった。引き続き魔王の監視を頼む」


 「はっ」


 当然の如くイクトは姿を消した。




 「……多くの犠牲を無碍にするやり方なんて間違ってるわ」




 フォルテュナは苦虫を噛み潰したような表情で、アーレスを睨み付けていた。





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