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第3話  ティミス神教国のクズ国王(★)

2019.12.2 改稿しました。


第2話と重複した部分を削除したので、文字数が大幅に減っています。

内容的な変更はありませんが、一部加筆修正させていただきました。


 シェイクスがアシュラ達に『お祀り』の話をしてから数日後―――



 ティミス神教国・国都ウラノスガイア。


 『勇者生誕の地』『神と英雄が建国した聖地』など様々な別称を持つ都。

 その中心に位置するアストライア城の大広間では、人族とは思えない程に巨躯の男が、複数枚の書簡を握りしめながら声を荒げていた。


 「ハンス! 貴様、これはどういう事だ!!」


 「どういう事かと申されましても、私には分かりかねます。国王陛下」


 この国の宰相であるハンスは、巨躯の男――アストライア国王に皮肉めいた態度で言葉を返した。

 大量の書簡の送り主は、どれも国王によって選抜された『忌み子捜索部隊』からのものである。そしてそれは国王の手元に収まる前に、ハンスが一度目を通してから国王に渡したもの。


 惚けた返答をしたのは、内容を知っている上でわざと惚けいるだけである。


 「見ろこのゴミクズを! どいつもこいつも忌み子ひとり見つけられんのか!」


 国王はハンスに書簡の束を投げつける。しかし国王の手から離れた瞬間に全て空中で散乱してしまった。ハンスはそれを一枚一枚拾い上げ、改めて目を通した。


 「どの部隊も懸命に捜索しております。まだ時間もありますゆえ、何卒穏便に」


 「それで忌み子が見つかるとでも言うのか? この無能者が!」


 ここ数日間、この大広間では同じやりとりが繰り返されていた。

 原因は勿論、国王が企画した『お祀り』である。


 国王の作ったシナリオは、シェイクスが説明した内容そのまま。


 運命の神ティミスから『厄災を呼び寄せる忌み子の首を以て、世界を救済せよ』という【天啓】を国王が直接授かった事にする。そして忌子を見つけ出し、公衆の面前で国王自ら忌み子の首を刎ねる。『厄災の象徴』を人身御供とし、世界を救った事にする。


 これにより国王は『現代の勇者』となり『勇者血族の七光り(面汚し)』という二つ名を返上できる。この国も神の加護が健在であると国内外に喧伝できる。


 結局のところ、自ら手を下すのは最後だけ。過程は全て丸投げという、まさに面汚しらしい企画である。さすがクズ国王の名を欲しいままにするだけの事はあった。


 だがひとつだけ失念していた事。

 それは忌み子と簡単に見つかるような存在ではない、という事である。


 伝承通り『厄災の象徴』であるなら、厄災のある所に行けば見つかるのだ。ところが派遣した捜索部隊が厄災らしき事態に遭遇しても、忌み子を発見できずにいた。


 国王の考えは安直すぎたのだ。

 だが、当の本人はそれに全く気がついていない。

 むしろ発見できないのは部隊の職務怠慢だとしか思っていないようだ。



 「ハンス! こうなったら直属の騎士団を捜索に当てろ! 国土の隅から隅まで範囲を広げて探し出すのだ!! 多少の集落など幾ら蹂躙しても構わん!!」


 「国王陛下!? それでは各地で暴動が起きかねません!」


 「暴動? ふん、そんなもの戦力で圧し潰してしまえばよかろう?」


 「それでは『お祀り』の意味が無くなってしまいます!」


 それでは何の罪もない国民が虐殺される事態になってしまう。

 そもそも国民からの批判を収めるのが目的のはずなのに、それでは火に油を注ぎかねない。


 ハンスは国王の暴走を止めようと訴えるのだが、国王は下卑た笑みを浮かべて悪魔の如き言葉を吐きだした。


 「ハンス、貴様の娘……確か名はハンナだったか」


 「っ!? 何故娘の名がここで出るのですか!?」


 ハンスの顔から血の気が引いた。


 「何度か見た事があるが、見惚れる程に美しい容姿だったな。あれだけの逸材を余の色に染めあげるのも面白いのぅ。あぁ、髪色や眼を銀色に染めるとさらに美貌に磨きがかかる気がするのぅ。どうだ? なかなかに名案だと思わんか?」


 国王は遠まわしに「人質を取る」と言っている。

 しかもハンスにとって最悪以外の何物でもない。


 「そ……それは、それだけはっ!!」


 「ゲヒャハハハ! 冗談だよハンス、余がそんな事するとでも……グフフッ」


 国王は玉座から立ち上がり、大広間の扉へと歩き出し、青褪めた表情で慈悲を懇願する宰相とすれ違う。

 彼の畏怖に満ちた表情に満足すると、国王はそのまま大広間から去っていった。



 残された宰相は、襲い掛かる絶望から身を守るように、両手で自分を抱きしめていた。




 *****




 (噂通りのクズですね……風貌も存在も()()()()()()です)


 国王のいなくなった玉座の裏側で、執事姿の男は静かに一部始終を見守っていた。


 (あとは宰相がどう動くのか……少し様子を見るとしましょう)


 男は、膝立ちで震える宰相を一瞥すると、その場から姿を消した。





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