第1話 忌み子(★)
思い切って設定変更に踏み切りました。
変更点としては、主人公の初期名「アスラ」を「アシュラ」にしました。
理由としては「アスラ」にする必要性を感じなかった為です。
それと『銀色の痣のようなもの』を『銀斑と呼ばれる皮膚疾患』にしました。
個人的に『痣が銀色』である時点で無茶振りだよなぁと思っていたので……。
他にもいろいろと変えました。
まだ曖昧な部分は、今後の展開の為にそのままとなっております。
ティミス神教国領の南端にある森林地帯―――通称『迷いの大森林』。
広大かつ未開拓のこの森は、一度入った者は生きて戻れない、凶悪な魔物の巣窟として有名であり、かつて魔王を切り伏せたという勇者でさえ、立ち入る事を避けたとさえ言われる大森林である。
その大森林の中央部に、人口およそ100人の小さな村が存在している。
誰にも存在を知られていない、違和感半端ないその小さな村の空き地で、ひとりの若者が日々修行に明け暮れていた。
「今日もひとりで修行か? せいぜい頑張れよ!」
「お身体壊さないように、気をつけてくださいなのですぅ」
「ほれ、差し入れだ。休憩時間にでも食べてくれ」
通りすがる村人達の激励に感謝しながら、若者は修行を続ける。
「いつも本当にありがとうございますっ!!」
彼はこの空き地の隅に建てられている掘っ立て小屋で生活をしながら、日々修行と称して鍛練に精を出している。
だが彼には武芸の師匠や座学の先生など、お手本となる武芸者はいない。
だから独自に、筋力トーレニング、木刀での素振り、集中力向上の為の瞑想など、自分で考案し実践に移していた。
鍛練を始めた当初は、我関せずといった態度を示していた村人達も、毎日の風物詩となった今では思い思いに声を掛けていく。彼はその心遣いが嬉しくて、気持ちが昂って無理してしまう。ありふれた社交辞令といえばそれまでだが、そんな毎日が彼にとって幸福だった。
*****
若者の名はアシュラ。人族の男性でおよそ20歳くらいである。
彼がまだ赤子の頃、この大森林の中で保護されたのだという。
当然、まだ物心つく以前の赤子だった為に、過去の記憶など全くない。
だが村人達は、アシュラが捨てられていた理由を、初見で理解した。
『銀髪』
『銀眼』
『銀斑と呼ばれる皮膚疾患』
この世界に銀色の頭髪、銀色の眼、そして銀斑を持つ者はいない。
もしこの3つの身体的特徴を有している者がいるとすれば、それは『厄災を呼び寄せる忌み子』という古くから伝わる人族の伝承が残されてるのだ。
それが真実であれば、人族はおろか世界にとって【排除すべき存在】である。
その条件を満たしていた赤子のアシュラに、村人達は怖れ慄いたという。
それも至極当然だろう。自分達の村に厄災が訪れるかも知れないのだ。
だから赤子のアシュラは、別の場所へ捨てに行くか、その命を消すつもりでいたのだが……
「赤子を捨てるなど、人の道に反する。厄災? 言い伝えられるだけのものなど信じられるものか」
……と、村長であるシェイクスは一蹴してしまった。
楽観主義者か自殺志願者ではないか?
自分達の長に戦慄を覚えた村人達は必死に反発し、議論に議論を重ねた結果、『災いと認められる事態が起きたら即座に村から追放、または殺処分する』という条件で話は纏まった。
アシュラはこの一連の出来事を村長から聞き、そして納得している。
本来なら、すでに消えていたであろうアシュラの生命は、村長のシェイクスによって今もなお続いている。
だからアシュラは、命を救ってくれた村長の恩義に報いたい一心で、鍛錬を続けているのだ。全ては、訪れるかも知れない厄災から、村を守る為に。
*****
「こんにちは、シェイクスさん、フォル」
「よぅアシュラ。フォルト! アシュラが来たぞ!」
「え、本当!? いらっしゃいアシュラ!」
「いつもお世話になっちゃってごめんね、フォル」
日課である鍛錬を終えたアシュラが訪れたのは、今なお村長を続けるシェイクスの自宅である。こうして毎日、シェイクスとその娘フォルトの厚意を受けていた。
シェイクスは先に述べた通り、この村の長である。
アシュラが赤子の頃から長を続けているのだから、かれこれ20年はその地位を守り続けているという事だ。その容姿は、スキンヘッドで厳つい仏頂面の野蛮人といった酷い風貌ではあるものの、仁義に厚く、厳しさと優しさを兼ね備えた大人の男だ。
そしてシェイクスの一人娘、フォルトは金髪で可愛らしい20歳の女の子。アシュラとは同世代の幼馴染であり、互いに信頼を寄せ合える仲である。ちなみに、フォルトの中では、アシュラは将来の婿さんになる事は決定事項だったりする。
「アシュラ、フォルトは絶対嫁にやらねぇからな」
部屋に入ると開口一番、シェイクスはお決まりのように言葉を放つ。
「毎回毎回、何を言ってるんですか!」
そしてアシュラの返し文句もいつもと同じ。
「そりゃだってなぁ? 娘の操を護るのが俺の仕事だし?」
「大丈夫ですよ、『忌み子』の俺が手を出すなんて、考えもしません」
シェイスクとアシュラの言葉の攻防が続く。
しかしフォルトがアシュラサイドに付く事でその均衡は脆くも崩れた。
「父さん知ってる? 私は生まれた時からアシュラの所有物なんだよ?」
「どうしたらそこまで立場が飛躍するのかなフォル!?」
「よしアシュラ、表に出ろ。娘が欲しくば俺を倒してみせるがいい!!」
「父さん、アシュラを傷つけたりしたらご飯無しだからね」
「そんな馬鹿なあぁぁぁ!?」
親馬鹿と通り越して、超のつく馬鹿親のシェイクス。
そして実の父よりアシュラ一筋を貫く自称アシュラ嫁、フォルト。
アシュラにとってこの2人は、最も信頼を置く、最も大切な存在だ。
アシュラは小さい頃から『忌み子』であると聞かされ、それを自覚している。だからこそ誰かと深く関わる事を望んではいなかった。
それはいつ厄災が牙を向けてくるのかわからないからである。
だがこの親子は、そんなアシュラの気持ちなどお構いなしに、アシュラの全てを受け入れ、そして支えてくれた。それこそ感謝という言葉では全く足りない程に。
しかしこの幸せは、おそらく長くは続かないとアシュラは思っている。
いつか2人に別れを告げる日が来る。
そんな予感を、アシュラは感じていた。
「(2人とも、本当にありがとう)」
親子漫才が続く傍らで、2人に聞こえない程小さい声で、そっと呟いた。
いかがでしたでしょうか?
処女作ですので、色々とご不満な部分もあると思います。
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今後も改稿やら差し替えなど改善点が多々あると思いますが、どうぞ末永くお付き合いいただければと思います。
お読みいただきありがとうございましたm(__)m