第15話 ミテュラのお説教(★)
「アシュラ! しっかりして! アシュラってば!!」
「アシュラさま~~、大丈夫ですぅ?」
「うぅん……フォルト……? それにククル……」
ミテュラの一撃で吹き飛ばされたアシュラは、フォルテュナとククルによって無事に発見され、介抱された事によって何とか意識を取り戻した。
「良かった……アシュラ。やっと見つけた……グスッ」
「フォルト……ご、ごめん。俺は、その……」
「謝るのは私の方。本当にごめんなさい……」
「ククルもごめんなさいなのですぅ……」
「フォルト……ククル……俺の方こそ、逃げ出してごめん」
お互に相手を思い遣るあまり、ただただ謝罪を繰り返している。
だがこのままでは埒が明かない。1人蚊帳の外にいたミテュラは、仕方なく3人を扇動する事にした。
「ねぇ、3人とも? そのままじゃいつまで経っても進展がないよ?」
3人はミテュラの言葉に頷く。
ミテュラも本音を言えば、アシュラとの邂逅を喜びたいところなのだが、まずは状況を整理しなければならない。
「感動の再会に横槍を入れるようで悪いんだけど、ちょっといいかしら?」
「グスッ……なんでしょう、ミテュラさん」
「アシュラ、さっきまでの私達の話は全部聞いてたわね?」
「は、はい……すみません、盗み聞きするような真似して……」
「そんな事はいいわ。重要なのは冷静に話を聞いていたかどうか。その様子なら、村での事はだいたい理解してるわね?」
「はい」
ミテュラは、アシュラが茂みに隠れて話を聞いていたのを知っていた。
フォルテュナ達と接触する前に、すでに接近していたアシュラに話を聞かせる為に、わざと話し合いの場を設けたのである。
「アシュラもいる事だし、私の事をお話するわ。貴女達がお察しの通り、私はアシュラの実の母親。アシュラがまだ赤ん坊の頃、シヴァの仕業によって引き離されたの」
創造神によって引き放された。その言葉にフォルテュナの頭に疑問符が浮かび上がる。天上界で聞いていた話とは違うのだ。
「引き離されたのですか? 私達は『追放された』と聞いていますが」
「私も貴女達も、シヴァに騙されたのよ。私は彼の口車に乗って、自ら天上界を降りたのよ。追放に関しては……おそらく彼の事だから、正妻との離婚なんてみっともないと思って体裁を整えたんじゃないかしら?」
「……ちょっと待ってください。正妻との離婚?」
「あれ、知らなかった? 私はシヴァの正妻だったのよ?」
「え……いや、ミテュラさんは、シヴァ様の護衛じゃ……」
「護衛だったわよ。途中から成り行きで正妻になったの」
「え……それじゃ、あの……アシュラは……」
「シヴァと私の息子よ? 他に誰ともヤッてないわよ♪」
「はあ~~~~~~~~~~~~!!!?」
フォルテュナの声が大森林に響き渡った。
ちなみに、ククルは衝撃のあまり白目を剥いて気を失っていた。
*****
「衝撃的過ぎて意識が飛んだのですぅ……ごめんなさいなのですぅ」
「気にしないでいいわよ。私もまさか夫婦関係が隠されてたなんて知らなかったんだもの」
ククルが意識を取り戻すのを待って、話は再開するはずだった。
それ以上に放心状態だったのがアシュラである。
「俺が創造神様とミテュラさんの息子? 何それ全然意味わからない」
さっきからブツブツと呟いている。
忌み子だと刷り込まれ20年も育ってきて、つい先日鬼神の息子だと発覚し、その数日後には創造神と万能を司る神族との間の子供だと言われたのだ。実感云々よりも、理解が追い付かない。
フォルテュナとククルはそれも仕方ないと考えた。
だがミテュラは違うようだ。
バチーン!
ミテュラは切り株から立ち上がり、アシュラの頬を引っ叩いた。
「ミテュラさん何してるんですか!?」
突然の出来事に、フォルテュナはミテュラを制止しようとする。
「フォルテュナさん、貴女は黙ってて。これは親子の問題よ」
これぞ親の特権。フォルテュナもククルもこれでは口出しできない。
それにミテュラは初めて親として説教しているのだ。
彼女の心境を考えれば、フォルテュナは何も言う事はできなかった。
「な……何するんですかミテュラさん」
「全く、20歳超えた大人が、沁みったれた面してんじゃないわよ」
「し……沁みったれてなんか……」
「沁みったれてるわよ。自分の出生程度で、何をブツブツ悩んでるわけ?」
「それはその、頭が追い付かなくて」
「馬鹿馬鹿しいわね。そんな事考える暇があるなら、目の前の現実に目を向けなさい」
「目の前の現実……」
アシュラは頭をあげる。
目の前に居るのは、心配そうなフォルテュナとククルがいる。
そして説教している母親のミテュラがいる。
「さっき茂みの中から話、聞いてたわよね? 彼女達がどんな想いでずっと寄り添ってきたのか、本当に理解してる? 20年もの間、貴方への気持ちを押し込めて裏切り続けた苦しみを、本当に理解しようとしてる?」
「…………」
「貴方は知らないだろうけど、神族にとって創造神の命令は絶対なの。そういう意味では、あの腰巾着の男はそれを忠実に実行していたわ。だけどそれに抗ってまで、貴方への想いを貫く事を決めたのよ? それを貴方は自分の生まれの事ばかりウジウジウジウジ……育ったのは身体だけなの?」
「そ、そんな事は……」
「だったら! 今の気持ちを彼女達に伝えなさい! 謝罪じゃない、貴方の本当の気持ちを!」
ミテュラはアシュラの気持ちを理解している。
フォルテュナから聞いた話から、彼女を憎からず想っている事を。
互いに免疫のない色恋沙汰に足踏み状態である事を。
真っ直ぐな性格のミテュラにとって、このもどかしい状態はとても耐えられなかった。3人の心の壁を壊せれば、必ず強い絆になるという確信があるからこそ、我慢できなくなったのだ。
フォルテュナとククルは、自責の念に囚われている。
ならアシュラを嗾ければいい。
さらに親としての箔もつく。まさに一石二鳥である。
「自分の……本当の気持ち……」
「そうよ。お互い、ぶつけ合える気持ちがあるのだから、ちゃんと面と向かって話しなさい」
「はい……」
アシュラは座っていた切り株から立ち上がると、フォルテュナとククルの目の前に立った。
「さて、邪魔者はお花でも摘んでくるわ。少しの間戻らないからヨロシクね♪」
そういうと、ミテュラは3人をその場に置いて、一旦その場を離れた。
*****
3人から離れたミテュラは、少し離れた場所で散歩していた。
「少しは母親らしい事ができたかしら……ってん? 何これ」
彼女が森の中で見つけたのは、激しい戦闘の痕跡である。
「まだ新しいわね……ってあれ? この布切れは……アシュラの居服?」
アシュラが服とは思えない程ボロボロの布切れを身に纏っていたのを、ふと思い出したのだ。
「てっきり私の攻撃でボロボロになったのかと思ってたけど」
そしてその布切れの近くに、原形を留めない魔物の死骸がある事に気がついた。
「そっか、その魔物と……って何この破壊痕は!?」
亡骸が魔物のものだったのはわかる。だが問題はその痕跡。
手足が残ってるだけで、頭や身体の部分がどこにもないのだ。
「アシュラにこれだけの戦闘力が? いや、それにしても異常過ぎるわ。フォルテュナさんの話では、確か動物も殺せないだろうって……何だろう、嫌な予感がするわ」
まだ少し早いが、ミテュラは3人の元へと戻る事にした。
「あれがアシュラの発現した固有能力による痕跡なら……ちゃんと確認しないと取り返しのつかない事に……!!」
ミテュラは風を切るような音を残し、アシュラ達の処へと移動した。
2020.1.1 改稿しましたm(__)m
明けましておめでとうございます!
今年もどうぞよろしくお願いいたします!
年明け早々に改稿をひとつ済ませました。
今話は、ほぼ差し替え回となっております。
ミテュラが主役扱いなのはかわりませんが、大人の女性、母親としての顔を立てる回になったような気がします。
いつもお読みいただき本当にありがとうございますm(__)m