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第11話  迷いの大森林~アシュラの異変(★)

 2019.12.15

ほとんど内容差し替えました。


※今話はアシュラの一人称となります。


 俺が村を飛び出してから3日目……だろうか。


 村を飛び出した俺は、闇雲に大森林を歩き続け、気がつけば巨大な樹木に身を預けて寝ていた。


 夜が明け、丸まって寝ていた身体に陽の光が照りつける。

 俺はその暖かさを顔に感じて目を開けると、鬱葱と生い茂る木々の僅かな隙間を木漏れ陽が突き抜け、朝露に輝きを与え神秘的な光景を映し出していた。


 「……綺麗だな」


 村に居た時には見た事のない光景だった。

 とはいっても、普通は家の中なのだから当然なんだけどさ。


 「これが慣れってやつなのかな……独りの方が落ち着く」


 村を飛び出した時、俺の心はボロボロになっていた。


 鍛練を続けてきた事で強くなっているという自負は、ただの慢心だった。

 彼女を……村の皆を守れるなどという自信は、ただの思い上がりだった。

 それどころか、逆に皆に護られていた。

 俺はあまりの不甲斐なさに、堪らず村を飛び出したんだ。


 別に自分が忌み子じゃなく神族だとか、鬼神とかいう人の息子だとかっていうのは、実感が湧かないからか、あまり気になっていなかった。


 「いっそ、このまま独りで生活するのもアリなのかな……なんてね」


 独り言をブツブツと言ってて何か恥ずかしくなってきた。

 っていうか誰も見てないんだから、恥ずかしがる必要もないか。



 そんな事を思っていた時。



 ふと、視線を感じた。

 目の前の鬱葱とした草地から、ガサガサと草をかき分ける音がした。


 「……誰……?」


 まさか捜索に出て来た村人? もしかしてフォルト……?


 (何考えてんだよ俺……未練がましいな)


 また気持ちが沈みかけた時、先程の草地から一匹の兎が姿を現した。

 俺は直接見た事なかったけど、以前シェイクスさんが見せてくれた本に描かれていた絵とよく似ていたから、そう判断した。


 「これが兎……か。確か草食なんだよな」


 両掌に収まる白い体躯、長い耳と円らな紅眼と突き出た前歯。

 人懐こそうな仕草に、俺は気持ちがすっかり弛緩していた。


 「近づいても大丈夫かな?」


 俺はそっと距離を縮め、その鼻先に触れる所まで近づいた。

 だけどその兎は、俺の想定の斜め上をいく行動に出た。


 「キュアアアァァァ!!」


 突然奇声を発し、差し出した俺の手に噛みつこうとしてきた。


 「うわあぁ!?」


 咄嗟に手を引っ込め、ギリギリでそれを躱した。

 そのまま勢いに任せて後ろへと後退(あとずさ)ったが、そこはついさっきまで寝ていた大樹の幹。すでに後ろに退路はなかった。


 「危な……兎って凶暴なのか?」


 疑念に駆られた俺は目の前の兎に警戒する。

 もし兎じゃなければ何なのか……予想したくはないが、もしかしたら……


 そんな事を考えていたら、その兎は白かった体毛がみるみる黒く変色し、掌サイズだった大きさも、抱き抱えるのも難しいくらいの大きさに膨張した。


 「魔物か、これは拙い!!」


 この大森林には数多の魔物が蔓延っているとはシェイクスさんから聞いた事があった。


 魔物は動物とは違って、特殊な攻撃手段を持ち、敵を取り込む事によってその能力を向上させていくという。しかも人の話を聞かないだけに質が悪いとか。


 「くそっ! 近づいてきたのは俺を取り込む為かっ!!」


 村を出る際に握り締めていた木刀だけが、唯一の抵抗手段。

 俺は鍛練を思い出しながら木刀を構えた。


 「キュアアアァァァ!!!」


 「な!? 速いっ!!」


 魔物は身構える俺に警戒する事もなく、目にも止まらぬ速さで襲い掛かってきた。


 俺は恐怖なのか、それとも初めての戦闘で緊張してるのかわからないが、その素早い動きに目も身体もついていく事ができない。


 「キュアアッ! キュアアッ! キュアアッ!」


 「ぐあああぁぁぁ!!!」


 魔物は鋭い前歯と爪を駆使し、俺の手足を攻撃してきた。

 俺も必死で抵抗するが、振り回す木刀は魔物の身体を掠める事もできない。



 「ちくしょおぉぉぉぉぉ!!」



 俺は初めて『死』と向き合い、そして命懸けで抵抗する事となった。



 ~~~~~



 もう、どれくらい時間が経過しただろう?


 全身がボロボロ。服はすでにぼろ布と化し衣類としての機能を有していない。体も傷は浅いものの、鋭利な爪によって血塗れ。唯一の武器である木刀も、今にも折れそうなくらいに傷だらけだ。


 「こういうのジリ貧っていうのかな……もう体が」


 「キュアアアァァァ!!」


 「しまっ……」


 緊張と疲労で集中が途切れた刹那、魔物が懐に潜り込んできた。

 真下から顔めがけて突き上げてくる爪を、咄嗟に木刀で受けようとした。


 「なっ!? ぐああぁぁぁぁぁ!!」


 しかし木刀は真っ二つに折れ、魔物の爪は腹部から胸元までを深く切り裂いた。

 その激痛に一瞬意識が飛びかけ、大樹に寄り掛かるように座り込んだ。


 「うぅ……痛い……これって致命傷ってやつかな」


 傷口からはドクンドクンと心臓が脈打ち、その都度痛みが突き抜ける。

 さらに鼻につく鉄の匂い。見たくはないけど、血がとめどなく流れている。

 そして目の前には、魔物が俺を喰い殺そうと襲い掛かりそうだ。


 「は……はははっ、これが『死ぬ』って事なのかな」


 俺は、いよいよもって死ぬ事になりそうだ。

 あまりの情けなさに、たまらず笑いが込み上げる。


 木刀は折れた。血が出過ぎて力が入らないから、身動きも取れない。


 「喰いたきゃさっさと……喰っちまえよ」


 襲い掛かられる恐怖から逃れる手段として、その場で目を瞑る。


 「役にも立たない鍛練ばっかりで……つまらない人生……だったな」


 脳裏に過ぎるのは、空き地での鍛練の日々ばかり。

 来る日も来る日も木刀を振って、身体を鍛えて、瞑想してばかりだった。

 そんな毎日でも……彼女はずっと見てくれてたんだよな。


 彼女……フォルトは、いつも俺を見ていてくれた。いつも笑顔を絶やす事なく、俺を元気づけてくれた。彼女は、太陽そのものだった。


 「く……そ、まだ死にたく、ない…………フォル、ト……!!」


 魔物が、地を蹴る音がした。


 明確な死が、急速に迫る。


 「フォルト……もう一度君に……」


 刹那、脳裏に彼女の笑顔が()ぎった。


 その瞬間だった。


 背中の中心……銀斑のある場所から燃えるような熱を感じた。

 まさに火傷するかのような熱。さらに激しい痛みも伴う。

 切り裂かれた胸元の痛みがかき消される程の痛み。


 朦朧としていく意識に、どこからともなく『声』が木霊した。



 ―――生きたいか?



 ……聞いた事がない声……誰だ?



 ―――我が問いに答えよ。お前は生きたいか?



 ……生きたいさ。



 ―――生きて何をしたい?



 彼女に……フォルトに会いたい。



 ―――それだけか?



 叶うなら、フォルトと一緒に世界を旅したいな。



 ―――旅をしてどうする?



 どうするって…………そうだな、魔王を倒して世界を救う?



 ―――魔王を倒す、か。面白いじゃないか。



 何が面白いんだ? 俺はもう喰われるんだぞ?



 ―――喰われる? 今目の前にいる小物に?



 他にいないだろ。それにもう動けないんだ。喰われる他に選択肢がない。



 ―――諦めるのか?



 諦めたくなくても、抗うだけの力が残ってないんだよ。



 ―――もう一度問う。お主はまだ生きたいか?



 なぁ頼むから人の話を聞けよ。お前は一体誰なんだよ?



 ―――生きたいか?



 あぁもう、生きたいに決まってるだろ!!



 ―――ならば、我が力を貸してやる。



 力を貸す? どういう意味だよ?



 ―――生きたいと思うなら、抗ってみせろ。



 もう満身創痍なんだぞ? そう簡単に……



 ―――生きたいと思うなら、その力を以て抗ってみせろ。



 ……あぁわかったよ!! やればいいんだろやればっ!!



 意識が現実へと引き戻された俺は、瞑っていた目を開く。

 すると魔物がすぐ目の前まで迫っていた。


 ぐ……やっぱり身体が重い。くそっ……間に合うか!?

 胸元から腹部の傷から激痛が走り、思うように木刀を構えられない。


 「せめて一太刀だけでも……!」


 震える両腕の力を振り絞り、折れた木刀を魔物の顔目掛けて振り下ろす。


 すると脳裏に、さっきの『誰かの声』が囁いた。

 ……その声の発した言葉を、俺は何一つ迷う事なく口から紡ぎ出した。



 「……『超加速(アクセレイト)』」



 聞いた事のない言葉。だがこれが何なのか直感的に理解した。

 これが『誰かの声』の言った力なのだと。


 俺を取り巻く世界の全てが止まったのだ。

 風に揺れる木の葉はおろか、襲い掛かってきてきる魔物でさえも。

 自分以外が全て止まった、不思議な光景。


 それでもこの時の俺は、それが不思議だとは微塵も感じなかった。

 そのまま空中で動きを止めていた魔物に、折れた半身の木刀を叩きつける。


 そして再び『誰かの声』が囁く。今度は別の言葉。

 先程と同じように、新しい言葉を復唱した。



 「『超破壊(デストロイ)』」



 折れた木刀が魔物の鼻先に触れた瞬間。

 乾いた音と共に魔物が跡形もなく破裂した。


 「……はあぁ!?」


 あまりの破壊力に、思わず素っ頓狂な声を上げ、俺は木刀を振り下ろした勢いで前のめりに倒れた。


 「なんだこの力は! 能力!? 『超加速』? 『超破壊』??」


 我に返った俺がパニックに陥る中、動き出した世界はまるで何もなかったかのように、木の葉は風に揺らめき、鳥が気の枝から飛び立っていく。



 ―――我が能力、お主に預けよう。我の……成……みに……―――



 またあの『声』が聞こえた。脳に直接響くような『誰かの声』。


 「答えてくれ! お前は誰なんだ!? 今何て言ったんだ!?」


 だがその『声』が俺の問いに答えてくれる事はなかった。


 「これは……どういう事なんだ?」


 わからない事だらけだ。

 さっきの声の主の正体も、最後に何を言ったのかも。


 「……ってあれ? 胸の傷が消えてる……深手だったのにって、熱っち!」


 俺は、もはや混乱するしかなかった。

 服はボロボロのままだが、傷が塞がり、血も止まっている。

 むしろ魔物と遭遇する前よりも力が湧きあがるのを感じる。


 そして気になったのが、背中に感じる異常な熱。

 だがそれを確認する手段はない為に、背中がどうなってるのか全く見えない。

 仕方なくそれは無視する事にした。



 「何はともあれ……俺、助かったんだ……」



 いろいろと思うところはあるけど、魔物との突然の遭遇と戦闘。しかも死にかけた上に『誰か声』の能力に救われた。

 付け加えれば、戦闘前まで引き摺っていた暗い気持ちも吹き飛んでいた。


 借りものっぽいけど新しい能力を得た事で、気持ちが前向きになったのかもしれない。現金な話だけど……それでも俺は、命も心も救われた事が素直に嬉しかった。



 「少し休んだら……村に帰ろう」



 村に戻ったら、村の皆と……フォルトとちゃんと向き合って話がしたい。

 俺は元居た大樹の根元に身を潜め、静かに一寝入りした。




 *****




 「……村はどっちだろう」


 簡潔に言おう。

 迷いの大森林で迷った。

 いや、迷ったというか、自分から迷い込んだというか……


 「後先考えずに飛び出すのはやめよう……」


 大森林の名前の由来に納得しながら、俺はとりあえず歩を進めた。

 何も道標などない。ほとんど直感に従っているにすぎない。


 「皆と向き合う以前の問題だよな」


 我ながら勢いで行動する恐ろしさを実感しつつ、ひたすら草むらをかき分けていく。

 ……すると、どこからか、何か音と声が聞こえてきた。



 攻撃的な破砕音、樹木のミシミシと軋む音、続けて地響き。

 それが一度や二度どころの話じゃない。

 立て続けに何本もの木々が折られ倒れていく音が響き渡る。


 その都度、女性の奇声も聞こえてきた。


 『ぬぇーぃ! うにゃーっ! むひょーっ!』



 何というか…………アホっぽい。


 「でも聞き覚えのある声だ……誰だろ?」


 気づかれないよう、おそるおそる声の出処に近づいていく。

 すると奇声のすぐ傍から、別の女性の声が聞こえてきた。


 俺が一番聞きたかった女性の声が。



 『……ねぇ、ククル? その掛け声は狙って言ってるの?』



 俺は、嬉しさに走り出そうとした……が、身体が言う事を聞かない。

 彼女の前に飛び出したい衝動と、村を飛び出した羞恥心が拮抗したのだ。


 おそらく彼女達は俺を探しに来たんだろう。

 その気持ちに応えて、2人の前に出て謝罪するのが筋だ。

 だけど、足が前に進まない。

 どんな顔をして出ていけばいいのか、どう接すればいいのかわからない。



 「ここにきてヘタレるなんて、とんだお笑い種だな」



 俺はヘタレ精神を言い訳にしながら、少しだけ草陰から様子を窺う事にした。




改稿前を覚えている方は少ないと思いますが……

我ながら、話の流れがものすごく雑でした。

あまりにも見るに堪えないので、ほぼ差し替えさせていただきました。


内容は特別変わりないですが、強いて言うならアシュラの言動から弱々しさを取り除いてあります。

主人公のクセにとんでもなくヘタレ過ぎなので(汗)


題材に★マークの無いのは改稿前ですので、話が繋がらない部分が生じています。

申し訳ありませんが、初めて読む方は改稿までお待ちくださいm(__)m

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