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第9話  彷徨うアシュラ(★)

 2019.12.9

 改稿によってズレた部分を修正しました。


 ―――時は少しだけ遡る。

 村ではアーレスがククルに怒られていた、ちょうどその頃。



 国の最南部にして帰還者0の逸話と、広大な面積を誇る迷いの大森林。

 そしてアーレスが神族の本拠地として選んだ未開の地で、銀髪銀眼の青年・アシュラが虚ろな表情でふらふらと彷徨っていた。


 彼がどうしてこうなったのか……その経緯を説明しよう。


 フォルトへの気持ちが募り、会いたい一心で会合の行われている村民会館へと足を運んだ彼は、皆に顔を合わせる事に躊躇いを覚え、結局外で会合が終わるのを待つ事にした。


 建物の入り口から離れた外壁に背中を預けていると、ふと中からシェイクス(アーレス)フォルト(フォルテュナ)の声が聞こえてきた。彼はそれに誘われるように声に耳を傾けたのである。


 壁越しに聞こえてきたのは『アシュラの覚醒』の話。フォルト(フォルテュナ)の説明やククルの回答など壁越しに駄々洩れた会話を聞いてしまった。


 自分の事が論議されている途中で、足早にその場を離れたアシュラは、気が動転したまま多重結界の外へと飛び出してしまったのだ。


 そしてアシュラは多重結界による隠蔽効果によって村を見失い、さらに夜の暗がりという不幸も重なり、自分のいる場所がわからなくなってしまっていた。


 だが当の本人は、そんな事を気にする余裕などなかった。

 アシュラの脳内では、最も気になった部分が繰り返し流れていた。



 『―――顕現した肉体でも15歳を超えれば銀斑は紋章へと変化するはずなのに。でもこれは肉体的な問題ではなく、精神的なものであると私は思うの。これまで危険から遠ざけ過ぎた事で、温室のように温く育ってしまった。……いえ、育ててしまったというべきかも知れない』


 『本来なら、私達の住む天上世界で育って、その使命を自覚する事で紋章は形を成す。顕現するのはそれからの話だけど、アシュラはそうはいかなかった。それは何故か、それは皆も理解してるわよね?』


 『―――アシュラさんは、天上界を追放された鬼神様のご子息で……えっとそれからその、創造神様の勅令に従って、私達神族が監視する中で、アシュラさんを『箱庭』に伝わる伝承で語られる【忌み子】という逆境に身を置かせた……でいいですぅ?』



 拾われた忌み子として育ってきたアシュラにとって、聞こえた話の全てが衝撃的だったが、何よりもフォルト(フォルテュナ)の声が言い放った一言が、鋭く心に突き刺さった。



 ―――温室のように温く育ってしまった―――



 フォルト(フォルテュナ)のその一言が酷く辛かった。


 (温く育ってしまった……か。俺は確かに温室育ちのお坊ちゃんだな)


 フォルトに会いたいという気持ちで動いたのに、皮肉にもその彼女の口から出た言葉に打ちのめされてしまった。皆に護られていた事を自覚した直後だっただけに、アシュラの心はさらに深く抉られてしまった。


 (僕は、彼女に何を期待して会館に行ったんだっけ……)


 会合を最後まで聞いていれば、フォルト(フォルテュナ)のアシュラに対する想いを理解できたかも知れない。でも彼に最後まで聞く勇気はなかった。さらに辛辣な事を言われたら……そう思っただけで心が折れそうだったのだ。


 (もうよくわからない……何も考えたくない)


 弱り切った精神に闇が落ちる。もうポジティブに考える事などできなくなっていた。



 一体どこまで歩いたのか、精神どころか周囲も暗闇に包まれている。

 方向もわからない。村から離れたのか、まだ近いのか、それすらもわからない。


 歩き疲れたアシュラは足を止め、巨木を背に座り込み、静かに目を閉じた。

 フォルトの顔が、アシュラを呼ぶ声が、脳裏を掠めるように幾度となく過ぎる。



 「独りがこんなにも辛いなんて……知らなかったな」



 涙が頬を伝う。それは意識が途切れるまで、いつまでも止まる事はなかった。




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