第93話 寄り道
「それで、寄り道して帰るとは、なかなか度胸があるのね、ソーン君」
なかば呆れた風にそう言って、マイさんが宿へと向かう分かれ道で、そう言い残してひと足先に帰路についた。
「・・・って言われちゃいましたが、アイリさんは、どう思ってます?」
ちょっと不安そうにソーンが女騎士にそう訊ねると、
「ん、どうだろう。いつものことだし気にしてたら、人生楽しめないんじゃない冒険者としてはね」
そう言って、笑顔で答える人生の先輩の助言に、大きく溜息をつきながらミリアが答えた。
「まあ、ソーンがいいなら。いいんじゃない、そのアイリさんが気になるお店って宿の近くなんでしょ」
アルフが続けて答えた。
「ミリアもそう心配するナ、ボクが守ってやるから大丈夫だゾ」
「あらら、ごめんね。帰り道のついでに寄りたいなって思ってて目をつけてたんだけど、微妙なタイミングになっちゃって」
そういって、頭を下げるアイリさんにソーンが答えた。
「えーと、顔を上げてくださいアイリさん。お話を聞いて、僕も寄ってみたいなと、ヒメのお土産も何か探したいところですし」
「そお?じゃあ、丁度よかったわね。こっちこっち・・・このお店よ、ソーン君」
あっさりと気分を入れ替えて、道案内を続けるアイリに圧倒されながらもソーン達がついていくと、たしかに宿からすぐ近くの通りを一本入ったところにその店はあった。
古くからあるお店のようで、石造りの店の壁に沿っていくつも木箱のようなものがおかれていて、一目見ただけでは何の店か分からないところだが、よく見ると小さな看板が掲げられている。
「なんだか、掘り出し物がありそうな雰囲気がするお店じゃない。私こういうお店を旅先で見つけるとのぞいてみたくなるのよね」
そう言って、さっそくお店に入ろうとしたところで、アイリが不思議そうにソーンへ声をかける。
「ん、ソーン君どうしたの、そんな壁のところで立ち止まって。大丈夫よ、看板の横に情報ギルドの紋章もついているし冒険者向けの正規のお店みたいだから」
それを聞いて、丁度、アイリとソーンの真ん中ほどの位置にいたミリアがソーンの傍に駆け寄って、手をひくと、道の方を見張っているアルフと腕組をしているソーンがびくっとして答えた。
「ぼーっとして、どうしたのソーン」
「えーと、アルフも・・・、ごめんごめんミリア。急ごうか」
ソーンを呼びに来たミリアが合流した際に、振り返ったアルフの顔をみた後、ソーンがそう言ってアイリさんに続いてお店へと入る。
___店の中には、大小色々な武器と防具が並べられていて、まさに冒険者御用達ってイメージ通りだった。
そんなお店のカウンターでソーンが申し出た内容に、戸惑うようにガタイのいい店の主人が答えた。
「修理が難しいくらい破損している武器か防具は無いかって?できれば銀の装備が良いって、なかなか面白いこというね」
「・・・みたところ、同業者ってわけでも、鍛冶屋の見習いって風でもないし、そんなこと言われたのは・・・そうだな3年前ぐらいかな、似たような注文があったよ」
それを聞いてソーンが訊ねる。
「そうなんですか、それってどういう注文だったんですか」
「あぁ、そうだな・・・たしか武器で、折れた奴とか刃こぼれしてる奴が丁度いいって・・・ただ重心がブレてない奴で頼むとか言ってたな曲がって当てづらいからとかなんとか・・・」
重ねるようにソーンが質問する。
「そ、それって、そこそこの背丈がある、腰に派手な飾り紐を巻いた男性の話ですか」
「あぁ、そうだ。思い出した。その姿だったな。なんでも遺跡調査にいくのに武器を調達しときたいって、新品の奴を勧めると勿体ないって言って、そんな壊れた奴ばっかりを買ってたな、なんだい、知り合いかい?」
少し興奮したようにソーンが答える。
「えーと、そうですね。その人を探してまして、今、何処に居るのかご存じだったりしますか」
それには、店の主人は首を横に振った。その当時、少し会話したぐらいだったのだが、変な注文のことで覚えていたようだった。
「それで、同じような武器がいるのかい?さっきは防具でもいいみたいだったが・・・」
「えーと、武器というか防具というか、金属っぽいものだったらなんでも。穴が開いてて使わないものとかそういったのが良くて」
不思議そうな顔でそれを聞いていた店の主人が、心当たりがあるのか、店の奥にはいって重そうな箱を持ち出してきた。
「なんだい、鍛冶屋に素材でも頼まれたのか?まあ、ここの奴なら、溶かして作り変える用に、バラしておいた武具のパーツだから。下取り価格ぐらいでゆずってやるよ」
それをみたソーンが嬉しそうに答えた。
「ありがとうございます。えーと、これって銀の胸当ての欠片ですよね。あっ、この穴があいて割れた盾も丁度いいかも」
変わった客の興奮具合に戸惑い気味に店の主人がひとつづつ返事をかえしていく。
その傍らでは、いつもと違って店の主人の冷やかしなら帰ってくれよという視線をソーンが引き付けている間に、棚に飾られている新品の大剣の傷一つない刃先の煌めきや、使い込まれて黒光りしているモーニングスターの重量感に感動したりと、思う存分、アイリが目を輝かせているのだった。
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