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第91話 会長

「その様子ですと、楽しんでくれたようで何よりです」


 案内された部屋で待っていると、

やってきたミーシアさんが一目見るなり嬉しそうにそう答えた。


 それを聞いて慌てて口を拭ったり、お互いの顔を見合わせて、食べ物がついてないかを再確認するソーン達に、笑いかけながら館の主人が答えた。


「いえいえ、はじめてこられるお客様は大体皆さんお腹いっぱいという顔をしておりますので、そういった次第ですよ」


そう言いながら、少し話をしてくれた。


「前はもう少し自由な街だったんですが、最近は輸送路確保だとか、治安維持とかで、大通りに店を出すのも難しくなってきてましてね、それで、安全に出店を構えれる場所として、広い敷地を持て余してましたので、商会の本部前を提供しているんですよ」


「あっ、もちろんお店の規模にそって管理費は頂いてますので、お互いに利のある関係ですよ」


そういうところも抜かりはないようだ。



___にこやかな雰囲気で、話が進み、当初の予定であった治療の件について話題が移ると、ミーシアが後ろに控えていたファルに合図を送った。


 武装を脱いで、シックな白のシャツで黒いベストを羽織ったファルのスーツ姿は、隣の淡い紫のドレスをきたミーシアさんとの相乗効果でどこかの貴族のような雰囲気をまとっている。


そのファルが部屋の奥の扉を開くと、小柄な少年が軽く会釈してこちらへ歩いてきた。


「申し遅れましたが、当商会の次代候補でもあります、私の弟です、挨拶を」


 ミーシアの紹介につづき、姉と同じく黒というよりはグレーに近い髪を肩口で切りそろえた、利発そうな少年が、これも同じく姉とよく似た細目でにっこりと微笑み答えた。


「ミーシアの弟のルルトと申します。先日は、病のところを助けて頂き感謝しておりますソーンさん、ミリアさん、アルフさん」


それぞれにお礼を言いながら頭を下げる。


その様子をみてミリアが少しほっとしたような表情をみせながら、ソーンに続いて答える。


「あっ、ええと、こちらこそです。お元気になられたようで良かったです。それで・・・」


「今後の治療の件は、この後、相談しようと思っていたところです、ルルトさん、とくに薬の副作用はなかったですか?眠気がつづくとか」


早速、ミリアが心配そうに質問をはじめたので、それにはミーシアも話に入って説明をつづける。




___ひと通り状況を聞いたところで、ルルトも病み上がりということで一旦部屋へと戻ってもらいその後に、ミリアが答えた。


「・・・なるほど、大体1月に1度くらいの頻度で発症しているようね、とくに最近は症状が強めにでていると、

 それで魔法の訓練を開始できるのは素養試験に問題なければ1年後ぐらいということね」

 

「そうなりますね、可能であればすぐにでも訓練を始めたいところですが、こればかりは、少し古い習わしもありまして・・・」

ミーシアさんがそう答えた傍らで、ふと目線を部屋の装飾品にはしらせたアルフが答えた。


「・・・聞いていいのカだが、北の魔国出身なのカ。入口付近にいた護衛もそうなんダロウ、教団の教義にそれがあるのカ?」


それには、とくに気にする風でもなくミーシアが答える。


「そうですね、北の・・・もちろん竜の方じゃない国の出身であってます。商会の会長でもある父が戦時中に渡ってきて、それ以来はこの地で暮らしています」


 続けて立ち上がったミーシアが壁際の棚の上にある、巨大な角や、民族品のような木彫りの器、黒い大理石の像にそっと触れながら答える。


「・・・このあたりのものは会長が運んできてそれっきりで、私も良くは知らないのです、教団とは関係は無いと聞いてますが。家系的に魔法の素質が優れていると聞いているので、決められた年齢から訓練を開始しないと、不慮の事故につながるというのは小さい頃から聞かされていてですね。今はちょっと行方が不明ですが、家長の教えを守っているわけで・・・」


 ミーシアさんは壁の方を向いているので、表情が見えずにわからないが少し感情が高ぶっているような声で答えた。


「そういえば、ミーシアさんのお父上も行方が不明なのですか、僕達も人探しでこの街に来ててですね・・・まあ僕らの村の長なんですが、えーと、同じように考えると失礼なので申し訳ないんですが、なんていうか旅にでるとしばらく帰ってこないような人でですね・・・」


 ソーンが申し訳なさそうに、説明をはじめると、突然にミーシアが、振り返り勢いよく椅子にこしかけて答えた。


「それはそれは、どこぞの会長と同じ話かもしれませんよ。ちょっと詳しくお聞きしたい案件ですわ」


唖然とするソーンを補足するように、状況を察したアルフが説明を続ける。


 どうやら、3年ほど前の同じ時期にソーン達の村長と同じく、クラール商会の会長も遺跡の調査で暫く旅にでると伝言を残して姿を消したらしい。


 ときどき商談で忙しくなった後などに、突然、商材を探しにいくとかで旅に出る癖のある会長だったらしくその時は気にしてなかったようだが、少々期間が長引いているので、心配はしているようだ。


「なるほどですね、少し手掛かりにつながる情報のように思います、それで村長さんの情報を詳しくお聞きしても」


それには、ソーンが答えた。


「えーと、旅をしているときは、ランドって冒険者を名乗ってると聞いてます、背はそこそこ高くて、あとたぶん腰のところに凄く派手な飾り紐の束を巻いてると思います」


ふんふんと聞いていたミーシアが少し考えるような表情をして答えた。


「冒険者ですか、ランドさん。少し記憶にあるような気がするのですが・・・会長を探す手配をかけておりますので、あわせてこちらでもお探しするように伝えておきます。何か有力な情報がありましたら、ソーンさん達にも共有できるようにしておきますね。宿は変わりなく、しばらくは街に滞在ですか?」


 それにはソーンがありがとうございますと伝えながら、隣で、さっきから民芸品の棚をじっと見ているミリアに声をかけるとハッと気づいたように話しだした。


「そういえば、話が途中だったわね。魔素症の症状を抑える薬をお渡しする件ですが、手持ちが少なくて、必要数は可能でしたらここで作成してお渡ししたいと思ってます。材料は街で手に入ればと思うのですが、あと作業場所が少し条件があってですね・・・」


それにはミーシアが頷くように答える。

「もちろん材料は何でも商会ですぐに手配しますので、ご心配なく。それで条件とは」


 ミリアが伝えた条件は、作成する薬は必要な数はお渡しする予定だが、誰にでも効果があるわけではないので、ルルトさんに使うこと限定にしてほしいこと。

 あと、作業場所は庭などで舗装していない地面がみえているところにテントを建てて作業場としてほしいことと、一応、門外不出の技術を使用するので、作業中は人払いをしてほしいとのことだった。



 その条件でしたらすぐにでもということで、こちらも準備ができ次第、宿に連絡をいれますということで、話がついた。


 ちなみに、材料費は商会持ちでということなので、薬の値段は作業代くらいでとミリアが伝えると、いや、そこは謝礼金込みでとなかなかの金額をミーシアさんが申し出て、お互いに納得しないので、思いがけず今日一番の難しい交渉が繰り広げられたように思うソーンだった。


 そんな事がありながらも、帰り際にミリアが民芸品の棚を気にしていたようなので、ミーシアがなんでしたらお土産にしますかと声をかけたので、そこは丁寧にお断りをした。



___予定していた話が済み商会をでる前に、ミーシアさんが話があると伝えてきた。


「それで、ソーンさん達は街の観光も予定されてますか?領主の館を見に行くなら、傭兵ギルドの詰め所を抜けると思うので、お気をつけてとお伝えしておきます」


「それは、どういった部分を気にしておけばいいんダ」


アルフが真剣な顔で聞き返す。


「目立つ行動を控えて、たしか館の近くにいくときは、武装を解除しないといけませんので、ルール通りに従えば問題はないですが、そのことでたまに荒事が発生していますので巻き込まれたりしないようにと」


「分かった、まあソーンが巻き込まれないように、注意して見張っているようにするゾ」

それを聞いたソーンが声をあげる。


「えーと、アルフ。それだといつも僕が原因でトラブルに巻き込まれてるように聞こえるんだけど」


それには、その場にいた皆がじーっとソーンを無言で見つめた。


「えっ、え?何?ミーシアさんまで、そんな目で・・・」


 ちょっとしょんぼりとしているソーンを見かねてなのか予定していたのか、ミーシアさんがお土産に珍しい果実の詰め合わせをもたせてくれた。

 これはクーマが喜ぶねと、相変わらず自由な相棒のことをふと思い出した流れで、ヒメのお土産はどうしようかなと悩むソーンだった。



いつも読んでくださりありがとうございます。続きも読んでいただけると嬉しいです。


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