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第8話 大街道

 馬車の護衛任務のはずだったのだが・・・


 ソーンが翌日、指定された広場に集まったときには、あまりにも場違いな自分を知り、とてもいたたまれない気分になった。しかしながら、まわりは意外にもそう思ってはいなかった。見慣れないビーストを連れた、子供のような外観をした護衛。


 危険が伴う任務に、やけに軽装で現れた姿から、何か特別な者をみるような視線が、ソーンにはとても痛かった。

 護衛任務については、昨日みかけた商人風の格好をした男の人が、口早に説明していたが、内容はこうだ。


 村をでて大街道を東に進み、途中にあると思われる、障害を別の任務の者達が除去する、その後大街道沿いに進み、川を渡る大橋まで護衛するのが今回の依頼だ。そこから先は概ね問題がないという情報を得ているそうだ。


 説明を聞きながら、ソーンは、そっと周りを見渡してみると、すでに知っているためなのか皆あまり話を聞いていない風だった。

 箱のような頑丈そうな馬車にも、今日は馬が2頭つながれていて、周りも馬を連れた騎士風の者達がついている。その横の荷馬車とその後ろにも馬をつれた者達がいるが、逆に徒歩の者は、その奥にまばらに距離をおいて並んでいる、人相があまりよくない冒険者のような数名と、他には、、、銀色の鎧が見えたとたんに、すこし気持ちがはずんだのが自分でもどうしてか分からなかったが。


 あれは、先日助けてもらった、騎士修行中のアイリさんだ。ソーンがあまりにじーっと見ていたので、金色の髪をした騎士見習いもこちらに気づいて、すこし驚いた風に見えたが、軽く手を振ってきたので、同じように手を振った。 それを見てクーマが怪訝そうに話かけてきた。


 「なんじゃ急に、ご機嫌になりおって。ほれっ、やっと出発するようじゃ、適当について行って、褒美だけもらわんとな」

 なにやら、赤い目を細めて、ニヤニヤと悪い顔をみせるクーマを見て、あわてて、たしなめるソーンだった。

 「適当にって、、、あっ、それでやたらと、この任務を推してたんだ。だめだよ、ちゃんと仕事しないと」

 ソーンが指をさしてクーマの鼻のあたりをつんつんする。すこし濡れててしっとりしたさわり心地が癖になりそうだ。

 「ほう、お主は、ちゃんと護衛ができると?あの騎士達に混ざって、邪魔をせずに仕事ができると、なるほど、なるほど」

 するりとソーンの前から抜け出して、左右をふよふよと浮かびながら、耳元で囁くクーマに、再び忘れていた悩みを指摘されて、気分が落ち込んだ。

 「あー、それ!それ忘れてたよ、あー、やっぱり護衛とか無理だよ」

 すると、再び耳元でフサフサした毛皮をおしつけながら、クーマがひそひそ声で囁く。

 「ほれ、そうじゃろ、そうじゃろ、ここは適当についていくのが正解なんじゃよ」

 誘惑的な囁きにあわわわと、心を支配されそうになりかけた、ソーンだったが、村をでてしばらく歩いたところで合流した、障害除去を実施している人々をみつけて気持ちを切り替えることに成功した。



___それはまるで、緑の織物のように石畳に覆い被さっていた、ところどころ石畳をつきぬけているのもあった。多いところでは背丈ほどもある緑色した棘のあるツタが幾重にも折り重なって、街道をいく旅人の行く手を阻んでいた。


 ソーン達の馬車の一行もそこで一旦立ち止まり、様子を見ている。既にいくらか刈り取られた跡もあるが、まだまだ先は長い。馬達を休めようかと休憩の支度をしだしたのを横目に、ソーンはすっと、その場を離れた。

 ソーンが目指した先には、見知った顔があった、市場でよく食料を調達する店の店員だ。


「こんにちわ、これはどういった事態なんですか?」

 灰色の外套をきた少年と、後ろをついてくる子グマをみて、ほっと一息ついて店員さんが答えた。

「おおっ、ソーン君か、いや、このところ入荷もなくて暇なんで、草狩りの依頼を受けてみたんだ、ついでに大街道の掃除もできれば、仕事も再開するかなと思ってな」


「そうなんですか、この蔦とかが原因で道が封鎖されてるんですね」

 また、お店によりますねと、挨拶をかわしたソーンは、少し離れた場所へ移動しながら、腰のポーチに手をいれて何かを探しだした。

「えーと、たしか持ってきてたような。あぁ、これこれ」

 すっと、革製のポーチからとりだしたのは、折りたたみ式の手持ちの鎌で、刃を開きながら、使えそうか確認する。それを見ていた、クーマが、たずねてきた。

「なんじゃ、そっちの仕事は受け取らんぞ、無駄に体力つかっても腹が減るだけじゃぞ」

 そう言いながら、ソーンから少し離れて、あまり棘が生えてないところに降りたクーマは、そのままごろんと寝転がった。

「どうせ、護衛もできそうにないし、村のためになるなら、草刈りでもして心を落ち着けようかなと、ってクーマは手伝ってくれないの、もう」

 あっさりと、休憩をはじめた相棒を横目に、手に持った鎌で、棘に気をつけながら蔦を刈っていく。


___一心不乱に、手を振って草刈りをつづけていると、他のメンバーより、だいぶ離れていることに気づいたソーンは動きを止めた。


「おっと、街道沿いをまずは刈らないとだね、こっちの方かな」

 少し位置を移動しようと、邪魔になる目の前の蔦を切ったときに、異変が起こった。急に切り離した蔦がするすると体に巻き付いてきた。足下と両手に次々に巻き付いてきて棘が刺さってとても痛い。

「あっ、痛っ、イタタタ。何これ、痛い、痛い、わわわ助け・・・」


 あまりの痛さに声もでなくて泣きそうになった。

 ギリギリと痛みが増すと同時に、蔦が更に巻き付いてくる、顔から下はかなり蔦に覆われて見えなくなってきた。

 「痛っ、えっ、これって、もしかして蔦じゃないのかな?」


 そうこうしているうちに、蔦が目の前にも迫ってきた、このままだと、蔦に飲み込まれてしまう。必死になってもがくが、更に棘が食い込み痛みがますだけでどうしようもない。心細さと痛みもあわさってボロボロと涙がでてきた。

 「そうだ、クーマ、クーマは大丈夫かな、寝てるあいだに、蔦にやられてないかな、痛っ、イタタタ、あぁ、もうだめ。痛いよぉ」

 目をつぶって、痛みを我慢するが、もう限界だ、蔦に覆われ、目の前が遠くなってきた。


 ___意識が薄れそうになったとき、ズッという音がした。

 そのあと、何度か、ズッ、ズバっという音と振動を感じて、棘の痛みが薄れてきたので、なんとか目を開けることができた。


 「大丈夫か、ソーン君」

 心配そうにのぞきこんでくる顔から、金色の髪がするりと垂れてきて、

 ソーンの頬にふれる。はっと気をとりなおして、ソーンはうなづいた。


 「無事で良かった。気がついたなら早くここを離れよう」

 アイリがクーマに呼ばれて来たときには、ソーンの姿はほとんど見えないくらい、蔦にくるまれていた、腰に吊した剣を抜き、中のソーンを傷つけないように、周りを切り離しながら、蔦をはいだところで、やっとソーンの顔をみることができた。


 ソーンの手を引いて、助け起こすと。アイリは微笑みながら声をかけた。

「これで二度目か、こんなときになんだが、君とは縁があるな」

 すごく照れくさそうに、ソーンが目を伏せながら、答えた。


「わわわ、すいません。迷惑ばかりで、ごめんなさい」

 手を引いてもらいながら、なんとか立ち上がったソーンは、あわてて頭を下げる。

「いや、いいんだ、君を手助けできて、私でも役にたてると思うとね、それより、こっちだ、街道沿いは大丈夫そうだから先に行こう」


 見ると、馬車が再び街道を走り出している、街道から少し離れたところでは、同じように蔦に巻かれそうになった人を騎士風の人達が助けだしているところだ。その時、すっと首に巻き付いてくるものがあった、ふわふわで棘もない。クーマが尻尾を巻き付けて頭にのってきた。


「ふむ、擬態か、蔦にまじっておるな。のんびり寝ておったら、不埒なやつらじゃ。アイリを呼んで正解じゃな、棘が痛くてかなわん」


 なにやら、ぶつぶつ呟いているがクーマの無事を確認したソーンは手足のちくちくする棘のあとに、目をしかめながらも馬車の後を追いかけた。ちらと振り返りながら見ると、どうやら、草刈りはここまでのようで、人々は村へ帰って行くようだ。


 一瞬悩んだが、もう少し一緒にいたいと思って、馬車を追いかけた。

 誰と?ソーンは、そのときはまだ気づいてはいなかったようだった・・・



いつも読んでいただきありがとうございます。つづきもまた読んでいただけると嬉しいです。

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