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第87話 薬瓶

 踏み固められた道を進み、柵で囲まれた区域にはいる。


簡易な門のようなつくりの入り口の脇には、槍を携えた警備の役割をしている者がいたが


 特に問題なく通り抜けて、奥へと進むと整備された敷地に簡易のテントが建てられた場所にたどり着いた。


 そのすぐそばへ馬車をとめると、御者台から降りた女戦士ファルがランタン片手にソーン達の近くにきて告げた。


「慌ただしくて、すまんが。君達はこのテントを使ってもらえるかな。

 我々は馬車内でそのまま泊まることができるので問題はない」


それを受けてソーンが答える。


「あっ、そうなんですね。じゃあこちらを使わせていただきます。たしかに、ここなら安心して休めますね。それで、明日の出発は早くに出られますか?」

 

 それには続けて降りてきた、旅の疲れか少し乱れていた長い髪を手で整えてからミーシアが答える。


「そうですね、普通に日があがってきてからでいいので、鐘が2つ鳴ったら起きて支度が済んでから出発でしょうか夜も遅いですので、今日のお礼の件と詳しい話は明日ゆっくりとさせてくださいね」


 了解ですと答えたソーンの隣では、話が終わったと感じとったのか、眠気が限界の中ふらふらと起きだした2人が御者台から降りて荷台にある毛布をとりだしてテントへ向けて歩いていく。


「じゃあ、とりあえず明日で、おやすみなさい、ミーシアさん、ファルさん」


 ソーンがそう告げて、荷台にはいっていくと毛布に包まりすでに眠りについているアイリとマイが居たので、起こさないように毛布を取り出して、そのままそっとしておくことにした。


 その後、手際よく毛布を敷いて御者台で横になろうとすると、


 何故かテントから、先ほど眠りについたと思っていた2人が、ふらふらとやって来て、無言でソーンの手を掴んだ。


「わっ、ちょっとアルフ、どうしたの。えっとミリアも・・・もう寝てるのかと思ったのに」


 そうこうしているうちに、半分寝ているような無言のアルフとミリアに両手を引かれるようにして、ソーンはテントへと連行されていく。


 その様子を、静かにみていた白大蜘蛛ユキヒメはひと段落したのを確認してから、すぐ近くに丁度いい大きさの木があったので、スルスルと上っていくと、どのようにしてか枝の中に消えていった。




___かすかな月明かりの中、キャンプ地ではとくに何事もなく夜が過ぎる。

ときおり、遠くで獣の鳴き声がするが、夜の森の日常からすると静かな方だ。



 しんと静まりかえった空間に、ソーン達が眠りについているテントの入り口が揺れて人影が現れる。


 その人物が夜風が少し冷気を帯びているのを感じて、ローブをかぶり直した後、

そっと音を出さないようにその場を離れて、少し先の灯りがともっているかがり火の近くまで歩いていく。



 寝つきの悪い旅人のためにか、それらしく置かれていた丸太に座って、腰のポーチを開いた。


 カチャカチャとガラス瓶が小さくなる音が静かな夜に響いたと思うと、突然に暗い夜空から声がした。


「ふむ、在庫が心配なら、ほいほいと薬を与えなければよかろうに」


 その声にハッとするように、顔をあげるとローブがはだけて、ミリアの赤い髪が月明かりに照らされる。


「ちょっと・・・クーマね、突然話しかけられたら驚くじゃない、別に在庫に問題があるわけじゃないけど・・・」


続けて、ふよふよと夜の中に浮かぶ黒い毛玉が長い尻尾をふりながら答える。


「そうかね。いつも陽気な娘さんが、いやに深刻な顔で薬瓶を見ておったから何か問題でもあったかと思ったが」


慌てたようにミリアが答えた。


「んんん。そう?今日みたいに急に薬の出番がくることがあるから、ちょっと確認しておきたくなっただけよ」


それを聞いたクーマがじっとミリアをみた後に答えた。


「ふむふむ、まあそうじゃの。困ったことがあったら相談するといい。ソーンが大事にしている者達には力になってやるぞ」


「そう、そうね。クーマに相談できることがあったらね・・・」



 そう言って、ミリアが何気なく上を見上げると、


月が雲に隠れたのか、より一層暗くなった夜空に黒く滲むようなシルエットでクーマがぼそりと答えた。



「そうじゃの、我慢できなくなる前にはじゃな・・・」



それを聞いたミリアが声をかける前に、散歩好きの獣は再び夜の闇に消えていった。


「何を・・・」




___静かな夜のベールに包まれた中で、再びカチャカチャと音がする。


 すっと腰のポーチから取り出した小瓶に口づけて飲み干した後、少し口元から零れた液体を

赤い舌でなぞるように舐めとると、小さく息を吐いた。



月明かりに照らされて人影が黒く伸びていく、


ゆらゆらとざわめくように波打った後、寝床をみつけたのかすっと小さく消えていった。

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