第83話 日が落ちる街道
段々と日が陰るにつれて、辺りに暗い陰が落ちていく。
チャカチャカチャカと、いつもより少し早いペースで
石畳の街道に音が鳴り響き、続けてゴトゴトと車輪が跳ねるように転がっていく。
確かに、暗くなろうがまったく影響ないかのように、ソーン達の馬車が時折大きく荷台を揺らしながら街道を突き進む。
その揺れにも今ではだいぶ慣れたのか御者台でソーンとアルフが情報を交わしていた。
「ルルキアの街だけど、ちょっとなんていうかピリピリした緊張感が走ってた気がするゾ、以前みたいな出店が減ってたナ、食料品も何だか高かったしナ、それもあって早々に切り上げて街をでると、遠くの方だが森の中を数人が見張っているような状態だったナ」
「そうなんだ、こっちはそれからすると平和だったかも、でも僕の魔術で魔物を退治したんだよ。でっかい羽虫が突然飛んできたから皆びっくりしてさ・・・」
それを聞いてアルフが慌てたように大丈夫だったか聞いてくるが、ソーンは嬉しそうに手をかざして魔法の矢を飛ばす仕草をしている。
その隣で赤毛の少女が一生懸命説明している銀色の髪の少年を楽しそうに眺めていた。
「・・・そうかソーンは魔術も覚えて凄いナ、ボクもイイところを見せたいゾ。・・・そうだ、ユシアの屋敷も一応寄ってみたけど、門も閉まってたし、何か人が居なさそうだったな。またどっかに穴堀りにでも出かけてるんかナ」
「そうなの?ユシアさんには落ち着いたらまた話が聞きたかったけど、やっぱり上に立つ人って忙しいのかな」
「ん?ユシアはそんなに偉い人なのカ?」
「えっ、そうじゃないのあんな立派な館で人もいっぱいいたし、服装も雰囲気もなんだかそんな感じだったよ」
それには、ミリアが興味深そうに尋ねてくる。
「なになに?館って、偉い人の知り合いがいるの?」
少し考えた後、ソーンが言葉を選びながら答える。
「えーと、ちょっとした出来事があってね、館の代理人ていってたけど、気さくな感じで・・・」
___そんな話をしている内に、かなり暗くなってきたが、明かりをつけてなくてもヒメには関係ないのか結構なペースで馬車は進んでいく。
ほどなくして、馬車の揺れに慣れきったソーン達が道案内も忘れて、灰色の外套をすっぽり被ったソーンにもたれるようにして、うとうとしていると、突然、ヒメから念話が届いた。
『・・・ん。何か前の方に居る。横通る・・・』
「えっ、それって、ちょっと待ってヒメ。皆に伝えるからゆっくり進んで・・・」
すでに手遅れ感があるが、急いで、両脇の幼なじみ達を起こした後、後ろに振り返り馬車の中のアイリさん達に状況を伝える。
そうこうする内に、街道沿いの暗闇の中にいくつかの明かりが灯っているのが見えた。街道の端に寄せて停まった馬車の周りを馬に乗った者が取り囲んでいるような姿が見える。
アルフが御者台からのりだして後方を振り返ってみた後、答えた。
「後ろの方にもいくつか明かりがみえるナ、残念ながらボクらももう突っ込んだ後みたいダ」
荷台の幕から御者台に半身をのりだしてアイリが答える。
「まあ、何処かで出会うとは思ってたし寝てる時じゃなかって良かったじゃない」
アイリがそう言った後、手元に剣の柄を寄せて握りなおした。
「そうね、準備できるし丁度いいんじゃない、魔術の防御壁を重ねておくわね」
荷台の奥の方にいたマイがそう言った後、少しおいて一瞬、空間が震えるような感覚がした。
「えーと、どうするのがいいのかな。とりあえず通り過ぎてみようか」
それには、一同が、えっと言う顔をした後、アルフが楽しそうに答えた。
「そうだナ、それで行ってみよう、ヒメもそれでいいカ、ミリアは中に入って、アイリと交代ダ」
少しゆっくりした速度で進んでいた白大蜘蛛が、
うなづくような仕草をした後、ソーンに念話が返ってきた。
『・・・ん。じゃあ予定通り横通る』
予定通りなのか、想定外なのか闇の中、ソーン達を乗せた馬車が、
当初の勢いを取り戻し、颯爽と進み出した。
ゆらゆらと明かりが踊る、不穏な街道へ向けて。
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